トナカイにお小遣いをあげたら その四
「リリー、ちょっと見て欲しいのよ!」
「どうしたのトナカイ?」
「フリーマーケットでこんなん買ったのよ!」
「はぁ……うん、一応最後まで聞くね」
「うむ! これはねー、底なしのカバンってやつなのよ!」
「ふーん」
「リリーの反応がいつになくドライなのよ……んでねー、このカバンの凄いところはねー、いくら物を入れても一杯にならないのよ!」
「そうなんだ」
「というわけで、本当に一杯にならないのか試すのよ!」
「やっぱり、確認してなかったんだね。トナカイ、そういうのは本物かどうか確認しないとだめだよ?」
「ついテンションが上がって、聞きそびれてたのよぉ……」
「それも、たぶんお小遣い全部使ったんだよね? 取り返してくるから、買った場所教えて?」
「まぁ待つのよリリー。とりあえず一緒に確認するのよー」
「うん、わかった」
「まずはー、中を見てみるのよー」
「……トナカイ、このカバン、底に穴が空いてる」
「なんとっ!?」
「確かに、底なしのカバンだね」
「うむ、いくら物を入れても一杯にならないのよ!」
「入れたそばから落ちてるもんね」
「「……」」
「いやー、一本取られたのよぉ!」
「トナカイ、言ってる場合じゃないよ!」
「せっかくだから、本物の底なしカバンに改造するのよ!」
「えっ……そんなことできるの?」
「なんとなくできそうな気がするのよー」
「というわけで、久しぶりに創造の力を使うのよ!」
「うん、トナカイ頑張って」
「まずは、このカバンの底を直し……」
「そりゃ直すよね」
「ません! あえてこのままでいくのよー」
「えっ!? 直さないの?」
「うむ、底に穴が空いたカバンのままでいくのよー」
「何で?」
「その方が面白そうなのよ!」
「……トナカイだもんね。続けてどうぞ」
「んでー、空間を繋げる魔道具を創ってー、カバンの中に組み込んでー」
「空間を繋げる? 転移するの?」
「似たようなものなのよー。んでー、魔力を貯める魔道具も組み込んでー、めっちゃ頑丈にしてー……できたのよ!」
「おー……見た目全然変わってないね」
「うむ、内部しか触ってないもんね! でも、すんごく頑丈にはなってるのよー」
「どのくらい?」
「多分リリーの全力ブレスをぶつけても壊れないのよ!」
「ほほー。トナカイ、その挑戦受けて立つよ!」
「ん? どしたんリリー……!? 元の姿に戻ったのよ!」
「スゥゥ……」
「ちょっ、リリー!? その角度は明らかにトナカイを巻き込むやつなのよぉぉ!?」
「「……」」
「確かに傷一つ付いてない……負けた」
「リリー、後でお仕置きなのよ」
「うっ!? だ、だってトナカイがこのカバン、私には壊せないなんて言うんだもん。ドラゴンのプライドが傷ついたんだもん」
「それはすまなかったのよー。でも後で反省のポーズ一時間ね」
「うぅ……トナカイがいじめる」
「ちなみに、このカバンはトナカイのチャックの中に繋げてるのよー」
「そうなんだ。トナカイのチャックの中、凄いもんね」
「うむ、たぶんいくらでも入るのよー。はい、リリーにあげるのよー」
「えっ、いいの?」
「トナカイ、よく考えたらチャックの中に物を入れたらよかったのよー」
「そう言われると確かにそうだね」
「うむ、だからリリーがこのカバンを使うといいのよー」
「ありがとう!」
「むふー。いい買い物をしたのよー」
「うん、きっかけは買った穴あきカバンだけど、それ元々偽物だったからね?」
「そういえばそうだったのよー」
こうしてリリーはとても便利なカバンを手に入れたが、道行く人からは穴の空いたカバンを嬉しそうに背負う、頭の可哀想な子に見られたそうな。




