冒険者のお仕事
「海って青いのねぇ、リリー」
「そうだね、トナカイ」
「トナカイ今まで、海に来たことがなかったのよー」
「そうなんだ。そういえば私も、上空を飛んだことくらいしかなかったかも」
「そうなんねぇ。んで、今回のお仕事はどんなん?」
「えっと……『砂浜に出没する厄介な魔物の捕獲』だって」
「厄介なん?」
「うん、女ばかりを狙う魔物なんだって。持ってる食べ物を奪ったり、水着を剥ぎ取って逃げるらしいよ」
「そうなん? 水着なんか盗っても食べられないのにね?」
「水着は違う意図のような気がするけど……あと特に厄介なのが、尋常じゃない素早さと、出現条件なんだって」
「出現条件?」
「男がいると、絶対出てこないらしいよ?」
「そうなんねぇ」
「だから、男の冒険者では受けられないし、普通の女冒険者だと素早さに対処できず帰ってくるし、数少ない腕の立つ女冒険者は全員出払ってるしで、ギルドの職員も頭を悩ませてたらしいよ?」
「お仕事探しに行ったら職員さんに『あなたたちだけが頼りなんですぅぅ!』って縋り付かれたもんねぇ」
「あの人、どさくさに紛れてトナカイをもふもふしてたんだよ? これが終わったら消えてもらわないと……」
「リリー? 何だか不穏な言葉が聞こえてきたんけど、気のせいよね?」
「大丈夫、ちゃんと痕跡は消すから「全然大丈夫じゃないのよぉ!?」……冗談だよ?」
「リリーのそれは冗談に聞こえないのよぉ……とにかく、魔物を捕まえるのよー」
「うん。ところで魔物から見て、トナカイってどっちなんだろうね?」
「トナカイ性別ないもんねぇ。ちょっと実験してみるのよ!」
「実験その一! トナカイ単品なのよー」
「魔物が出てくるまで、砂のお城を作って待ってるのよー」
「……」
「できたのよ! 我ながら素晴らしい出来だと思うのよー……あれ、何か忘れてるような気がするねぇ?」
「結局魔物は出てこなかったのよー」
「魔物的に、トナカイは男なのかな?」
「そうかもしれないのよー」
「実験その二! リリー単品なのよ! そんじゃトナカイは隠れているのよー」
「うん」
「……一応私は女だから、きっと出てくるよね」
「魔物が出てくるまで、砂でトナカイを作ってよう」
「……」
「うん、素晴らしい出来の砂トナカイができた……あれっ?」
「結局魔物は出てこなかったのよー」
「……」
「心配しなくてもリリーは可愛い女の子なのよー! きっと、魔物は今日定休日だったのよー!」
「トナカイ……余計惨めな気持ちになってきた」
「もふもふしてあげるから、元気出すのよー」
「実験その三! トナカイが女装するのよ!」
「なんでその発想にたどり着いたのか、よく分からない」
「色々頑張って、ぼいーんのばーんって感じに仕上がったのよ!」
「そ、そうだね……うん、頑張ってね」
「うむ!」
「今日は砂浜で……あっ、海の中から何か出てきたのよ」
「何で!? 私は無視で、トナカイの女装は食いつくの!?」
「自分で言うのも何なんけど、トナカイの女装はちょっとなしだと思うのよ……」
「そう思うならなんで女装したの!?」
「なんとか無事に捕獲できたね」
「あとは冒険者ギルドに持っていくだけなのよー」
「うん、早く戻って受付に、魔物もろとも事故で消えてもらわないと」
「……リリー、冗談よね?」
「冗談だよー、そんなことするわけないんだよー」
「リリー、おめめを逸らしたままだと、説得力がないのよ?」
砂浜に出没する魔物は無事に、冒険者ギルドに引き渡された。
ちなみに、魔物に襲われた女は皆、胸が大きかったそうな。




