27.魔王城防衛戦③
その姿は誰もが異形と言わざるを得ない。
四つ足で立つその体には数多の人の顔が浮かび上がっている。
さらに言えば、その顔の一つ一つに恐怖や絶望と言った負の感情が宿っていた。
「……なるほどね。確かにこれは呪い喰らう獣にぴったりの姿だわ」
俺は思わずそう告げていた。
この生物の前には生き物はおろか無機物であっても悲鳴を上げていた。
「なるほど。つまりこれは私への試練、という事ですか。分かりました。ではその試練を乗り越えてあなたを私のものにしましょう!」
そういって王女様は瞬きをした。
いや違う。その目を魔眼化させた。
「それが三つ目のステータスの恩恵か。つくづく人間離れしてるよ」
俺はこの半年間で魔眼について調べていた。
魔王城の書庫にあった本によると、
・魔眼は先天的の場合と後天的の場合がある。
・魔眼は基本的にどのような方法でも隠すことはできない。
・魔眼は基本片目にのみ宿る。
・魔眼が二つ宿った前例はない。
・現在確認されている魔眼は魅了眼、魔力眼、死霊眼、精霊眼、情報眼の五つである。
という事だ。
だがこの王女、急にオッドアイになったし両目とも先ほどとは明らかに違う。
「ふふふ、今すぐこのペットとロリを消してヤナギ様をお持ち帰りしましょう」
「お持ち帰りって、合コンかよっ!」
思わず突っ込んでしまった。
「……とにかく呪喰獣、あの王女の右手を喰らえ」
そう言うとその異形は王女様に突っ込んでいった。
その素早さ(6183)で避けようとした王女様、だが避けたはずのその体から右腕が離れていた。
「……え?」
王女様の口から、そんな理解不能の声が漏れる。
俺はその初めて見た謎の光景を理解していた。
主従の恩恵である。
「ほんと、この生き物は頭おかしいレベルで狂ってるよ。その体の全てが魔眼で、主人の望んだ相手の望んだ部位を必ず喰らうんだから。」
その異形を見た瞬間、その呪いの対象となり、逃げ道をふさがれる。
これを異常と表さないで何というか。
その光景に俺は笑うことも罪悪感に苛まれるでもなく、ただ当然のようにその光景を眺めていた。
「次、左足」
なるほど、このなんとも思えない感は俺への呪いなのか。
「次、左手」
確かに死んだときに俺を喰らうのに俺を呪わない道理はない。
つまり、これまでに人を殺してもなんとも思わなかったのもこの呪いのせいか。
今回呪喰獣を解放してやっと分かった。
「次、右足」
そうして手足を失ったにもかかわらず、王女様はただ笑みを浮かべていた。
手足を失って絶望するでも痛みに打ちひしがれるでもなく、ただただ嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「……私は…………ヤナギ様と……おひとつに……なれました…………ふふ……」
「……ほんと、どこまでも王女様はヤンデレだよ」
「…………ふふ……」
「だから俺はもうお前に会いたくない。お前を呪って、転生させない。呪喰獣、あの残り全てを喰らえ」
そして、王女様の肉体は肉のひとかけら、血の一滴も残さずに亡くなった。
呪喰獣の力の一つに、主が呪いを操るというものがある。
それを使って、王女様が永遠に転生できない呪いを魂にかけた。
つまり彼女はもう俺を見てすぐに恋をしない、病まないのだ。
役目を終えた呪喰獣は俺に突っ込んでくると、その姿を消した。
「疲れた…………そういえば本物の方は――」
「ヤナギ殿! ミラ嬢! 勇者どもを捕まえ終えたぞ!」
ハウラルが、勢いよく扉を蹴って玉座に入ってくる。いやだからなんで攻撃力低いのにその扉開けれんの?
「ミラ嬢……は昼寝か。ヤナギ殿、貴殿はどうする。捕まえた勇者どもを見るか?」
「……捕まえたんだな、勇者」
「そうだな。やはり貴殿の知り合いを殺すのは私には無理だった。だからだな」
「……いつ気づいたんだ、俺と勇者が知り合いだって」
「つい先ほど勇者の一人が貴殿の名を口にしていたのでな」
「そうだったか」
俺は思わず笑っていた。
だってまさか半年も姿を見せないクラスメイトの名を憶えていたんだから。
もしかしたらどこぞの王女様あたりが、魔王城に俺がいるとでも言ったのかもしれないな。
「見ていくよ。久しぶりの友人の顔、俺本人を目の前にしてどうなるのか見てみたいしな」
「分かった。だったら私の後についてきてくれ」
そうして魔王城の攻防戦は防衛側が三十分足らずで勝利を収めた。




