15.聖剣誘拐
道具屋『へレス』の中で俺たちは色々なものを買った。
キャンプ用品から始まり、食料、錬金薬品といった消耗品、武器を研ぐための砥石(付属品さん用)を買って、続いて魔道具売り場に来ている。
「当然と言えば当然なんだろうけどやっぱ高いな」
「自己魔力供給できる杖が金貨80枚、読むだけで魔法を覚えられる魔力文書が金貨150枚、どれも平民が手を出せるものではありませんね」
「さっきの買い物で結構お金使っちまったんだよな」
「火竜の首、売らないの?」
「売るとしても明日。とりあえず今日は買わないな。帰るか」
『へレス』を出ると外はもう暗くなっていた。
買い物に夢中で時間をかけてしまっていたらしい。
宿に戻る途中で何者かが俺たちの後をつけて来ていた。
二人に途中の路地を曲がることを伝えてそいつを誘い込む。
俺たちは路地を曲がったところで《透明化》を使う。
後ろから付けてきたそいつが路地の奥できょろきょろし始めたのが合図だった。
始めに付属品さんが背後からそいつの首根っこを掴み呼吸器官を圧迫、呼吸困難で気を失ったのを確認してから抱きかかえて何気ない風を装い路地裏から出ていく。
そのままいつもの宿についてから一人分の料金を追加で払って部屋に戻った。
寝起きにすぐ暴れられないように手足を縄で拘束し、椅子に固定する。
その間ずっとグリモアは敵意むき出しだった。
三十分ほどしたところでそいつは目を覚ました。
美少年だった。
「お前ら、僕を誰だと思っている!さっさとこの縄を解け!」
「それは無理。だってお前ストーカーだろ、スト-カー解放したらろくなことにならねえ」
「ストーカーだと!ふざけるな!僕はただ————グフッ」
グリモアがみぞおちを殴りつけたことでそいつの話が途切れる。
「グリモア、急にどうした。そいつになんか恨みでもあったのか?」
「......何でもない」
そういってグリモアは話を逸らそうとしたようだが残念なことに少し遅かったみたいだ。なぜなら俺には心の声が全て聞こえてしまったから。
要はこの美少年は今巷で話題の聖剣様で、なぜかグリモアはそれを俺に知られたくないみたいだ。
まあグリモアが隠そうとしていることを無理に聞く必要はないか。
「とりあえずストーカー、今日は大人しくここに泊まっていけ」
「当然だ!なぜ僕が君から離れなくてはいけないんだ!」
「マスター、何故」
「だってこいつの分の宿代払っちゃったから。今ここでこいつを返しても損しかしないだろ」
聖剣はグリモアに威張りげな顔を向け、グリモアは聖剣に刺し殺しそうな視線を向けている。だからってここで喧嘩を始めようとするとグリモアの一方的な暴力が始まるけどな。
それから俺たちは聖剣美少年君相手に数時間に及ぶ尋問を行った。
結果として言えば成功とも失敗とも受け取れる。
失敗として見れば聖剣君が聖剣について触れそうなところでグリモアがみぞおちに蹴りやら殴りやらでそれ以上の会話が続かなかったこと。
成功としてみれば《心眼》でいろいろと筒抜けであること。......これ普通に成功だったわ。
「というわけで僕は彼に一生ついて行くんだ」
と宣言する聖剣君だけど、グリモアの必死の阻止のおかげで理由が全く伝ってない。
「そうか。じゃあ今日ゆっくり休んだらおうちに帰るんだぞ」
「当然——じゃないわ!話聞いてた!?僕はここに残るっていってるんだ!」
「主、先に外で食事とってきてもいいですか?さすがにお腹が減ってきました」
「ん、もうそんな時間か。グリモア、お前はどうする。食べるか食べないか」
「今日は待ってる」
「分かった。食べ終わったらまた戻ってくるから」
そう言って俺と付属品さんは自分たちの部屋を後にして食事処へと歩を進めた。
部屋を出る前、グリモアの恐ろしい考えに聖剣君のメンタルがやられないようにと心の中で祈っておく。
二人が部屋に戻ったとき、そこにはゴシック系のドレスを着て首輪をつけられていた聖剣君と首輪のリードを持ったグリモアがいた。
その姿はさながらペットとご主人様だった。
「............あのー、グリモアはいったい何をやっているんだ?付属品さん?」
「そこで私に振られても困るんですが。私だってちょっと引いてるんですから」
「なら付属品さん、グリモアに聞いてみてくれ。俺はドアの前で待ってるから」
「無理です。あの中に入り込むくらいなら私、この体要らないです」
俺と付属品さんで擦り付け合いをしていると、聖剣君がこちらに気づいて近づいてくる。やめろこっちくんな。
聖剣君が俺に擦れそうになった時、首輪のリードがグリモアに引っ張られて聖剣君が元の位置に戻る。
「ポチ、お手」
「だから僕は犬じゃない!」
「............」
「分かった、分かったから!やるからって待ってそれはダメだって痛い痛い痛い痛い!」
聖剣が魔剣にアイアンクロ―をくらわせている。
新婚の夫婦かな?
「お願い、もうやめて...。分かったから、分かったから!」
「ダメ、私は最低でも女の尊厳を踏みにじる」
「ほどほどに————って、え?」
どういうこと?彼は美少年で?今グリモアに女性としての尊厳を踏みにじられていて?
「それってもしかして、聖剣君って彼女だったのか?」
二人はこちらを向いて同時に言葉を放った。
「僕は女だ!」
「聖剣って知ってたの」




