10.決闘
観客席からはヨルドへの歓声と俺への罵声、あとは脅しに近い応援が聞こえてきた。
俺が目を合わせるとヨルドは不敵な笑みを浮かべた。
俺とヨルドとの距離は約20メートル、不意打ちが出来ない距離だ。
《喰らう者》で速攻倒すと観客に怪しまれるだろうし、近接戦では俺が不利
『では決闘開始です!』
ヨルドが突っ込んでくる。おそらく秒殺で決めるつもりだ。
なら俺も《喰らう者》を使わずに秒殺してやろう。
「詠唱——」
俺は右手に力をためる。
ヨルドの剣が俺に届く瞬間、俺はその魔法を放った。
「——空間振動!」
ヨルドは俺の放つ魔法に反応してか即座に攻撃を止めてかわそうと横に跳んだ。
だがこの魔法は攻撃魔法ではない。これは《闇属性魔法》が覚える精神魔法だ。
その内容は単純に空間に振動を発生させるだけの魔法。
だがこの魔法は飛行生物に対しては効果をいかんなく発揮する。
それもそのはず。彼らは空間の乱れを受けて平衡感覚から五感までが狂わせられるのだから。
当然それは陸上生物にも通用するが効果はあまり望めない。
何故なら陸上生物は陸に踏ん張ることで平衡感覚を保つことが出来るからである。
だがヨルドは攻撃魔法に警戒して横に跳んでしまった。
結果ヨルドは空中で自身の感覚を失い、跳んだ先の地面で体勢を崩して立て直しに数秒のラグが発生した。
これで俺は不平等性を欠くことなく彼を秒殺できる。...後でギルド職員にいつ魔法を覚えたのか聞かれそうだけど。
俺は一気にヨルドへ剣を振りかぶる。距離で言えば俺の剣がヨルドに届くことは無い。
だがヨルドは距離感覚を失って俺の剣が届くかどうか分かっていない。さらに言えば体勢を立て直している彼が冷静な判断が下せたかどうかも怪しいところだ。
そうして彼は俺へ剣を振るってしまった。
俺の攻撃力は110。ヨルドの攻撃力は183。
だがヨルドは治りきっていない平衡感覚に力を入れるための触覚、不格好な体制での反撃などいろいろな悪条件をそろえさせられた為に普段の半分の力も入れることが出来なかった。
そうして打ち合った剣は綺麗にヨルドのもとから離れて遠くの地面に突き刺さった。
最後に俺がヨルドの首元に剣を当てて終わり。
試合開始から数秒後の出来事だった
「ではギルドマスターさん、降参を宣言していただけますか。していただけなければここで首を刎ねます」
「......降参だ」
しばらくの沈黙の後、数人の拍手を皮切りに拍手は大きくなっていった。
『予想外の展開でしたか勝負を制したのはFランクの天才武闘家、シンジだー!なお、この実況はシラレ=コリーがお送りいたしました!』
だから武闘家じゃないって。
「なあシンジ君」
なんだ、ヨルドまだ話す元気があったのか。
「なんですギルドマスターさん」
「いや、ヨルドと呼んでくれ。僕より強いやつにそう呼ばれるのはなんかしっくりこない」
「...なんです、ヨルドさん」
ヨルドは少しビミョーな顔をしたがすぐにさっきの表情に戻って立ち上がる。
「シンジ君、キミは僕にいったい何をしたんだい?」
「何をした、とは」
「とぼけても無駄だ。僕は攻撃魔法だと思って避けようとしたが、シンジ君はあの時攻撃ではない別の魔法を使ったんだろう。それじゃなきゃ僕が体勢を崩すわけがない」
「随分と自信があるんですね」
「当然だ。こう見えても僕はAランクの冒険者だからね。つまづいた程度でいちいち体勢を崩していたら今頃僕は天に召されているさ」
なるほどな、だからヨルドは近接戦闘に持ち込もうと突っ込んできたわけか。多少の抵抗なら長年の勘で対処できるから。
これはホントに魔法を覚えておいて正解だったな。
「精神魔法ですよ。闇系統の」
「そうか。いやだがあそこまで効果の発揮するものは無かったはずだ」
「それはあくまでも魔法本来の使い方が出来ていないからですよ」
俺はヨルドに勝敗を分けた《空間振動》についてできるだけ簡単に説明した。
俺はあまり他人に教えるのが得意な方ではないが、ヨルドは理解できたようだった。
「...確かにそれなら僕にここまで影響したのも分かる。が、シンジ君、君は魔法なんて使えたのかい?」
「使えましたが。何故ですか」
「あーいやーそれはだなー、そう!ハンターベアに魔法の後がなかったからてっきり使えないものだと!だが闇系統の魔法を使ったんだったら納得だな!」
ヨルド、俺のスキルとかステータスとか知ってたからな。驚くのも無理はない。
「それでヨルドさん、強力な武器を提供していただけるとのことでしたが」
「あ、ああ、そうだったな。そいつはギルドにある。ついてきてもらってもいいか」
「ええ、手に入るのなら構いません」
「そうか。だがシンジ君、あれは絶対に怒らせちゃいけない。怒らせればきっと命は無いだろう」
「武器を怒らせる?よくわかりませんがまあ気を付けましょう」
俺は借りた武器を返してヨルドとギルドへ向かった。




