酒は飲んでも飲まれるな
飲み比べでどんちゃん騒ぎした翌朝。
『うぶ…おうぇぇぇぇぇ…』
『うっ…オロロロロロロ…』
朝イチに部屋を飛び出した猿と猫が真っ青な顔でトイレに駆け込んだのは自業自得だと言っておく。
「あんだけ強い酒かっぱかっぱ飲んでりゃそうなるに決まってんだろうに。アホだな」
「相変わらずオツム空っぽです」
トイレの前で水の入った瓶を手に、俺とジャコが肩を竦める。
『げほっ…こ、これで勝ったと思うなよ…次は…うっぷ…おぶぇぇぇぇぇ…』
『こほ…な、何度でも来るがいい…返り討ちに……おぼろろろ…』
「吐きながら言っても説得力ねぇよ」
ドアの隙間からキーシャに水を差し入れてやると、ドアの向こうで必死に水を飲み下す音が聞こえてくる。
ジャコも同様にトゥゼンへ水をくれてやったようだ。
全くよ、酒ってのは自分が飲める適量を、楽しく嗜むもんだぜ?
あいつらはそれを解っちゃいない。
「ビットさん、呆れてるみたいですけど、昨夜は見物に熱中してましたよね?」
「あ、バレてた?」
自分を棚に上げていた俺を、ジャコがじとりとした目で睨みつける。
いやぁ、他人の勝負事ってのは傍目から見ると楽しくってさぁ。
『き…きぼぢわるい…』
『しぬ…』
「………あんだけ強い酒を、あんな量飲んでりゃ、普通死んでるぞ。吸血種で良かったな」
『×☆○××…』
皮肉を交えつつ言ってやると、言語にならない恨み言が聞こえてきた。
何度でも言ってやる、自業自得だと。
とは言え、いつまでもこいつらがゲーゲーゲロゲロカエルになってるのもどうかと思うので、一応助け舟は出してやる。
「ジャコ、ちょいとばかしお使い頼めるか?」
「……あの、見た目はこんなですが、一応19歳です、私」
子供扱いに不満があったのか、カボチャ頭を震わせながら、語気を強めにそう返された。
ああ、そうだったの。ごめんね。
だから血晶魔法でナイフを多数作って構えないで…ってぎゃああああ!!!
ジャコに何を頼んだのかというと、ひとっ走り娼館街へと向かってもらった。
言わずもがな、ギンに相談するためだ。
あいつは大抵の事は大概こなせる天才様だ。
以前のように医者の真似事なんかもお手の物。
今回はアホ二人が二日酔いでダウンしてしまったので、その治療を頼む事にした。
「………酒40杯で酔い潰れるなんて、なっさけないねぇ」
「うるせぇ…誰だあんた…」
「くぅ…言い返せない…」
食堂のテーブルに突っ伏してグロッキーな二人を見て、ギンは呆れて笑いながらゴリゴリと薬草をすり潰している。
因みにギンは超がつく酒豪。こいつらの三倍飲んでも平然としていたのを覚えている。
………お前、常人種だよな?
「…そら、出来たよ」
数種類の薬草をすり潰し、それを薬鍋で煮込んだ汁をよそって二人に渡す。
………色は毒々しい紫色、コポコポと気泡が浮いていた。
………薬、だよな?
「……ど、毒か…!?」
「アホ、あたしが作った薬にケチつけんのかい?二日酔いにゃそれが一番さね」
煎じ薬を見たトゥゼンは怖気づいている。
うん。分かる。その気持ちすっげー分かる。二日酔いしない体質で本当に良かった。
「……が、害は無いんだな?」
「当然さね。いいからさっさと飲みな」
念を押すキーシャに呆れながらギンは苛立たしげにそう言った。
二人共おっかなびっくり器に口を付け、昨夜の飲み比べを髣髴とさせるいい飲みっぷりで一気に薬を煽った。
「………………まっず!」
そのままバタンとテーブルに突っ伏す。
………死んだ?ねぇ死んだ?
結論から言う。死んでなかった。
ただギンの薬の破壊的な不味さに気絶しただけだった。
………服薬治療を必要としない不死人で本当に良かった。
「悪いな、こんな事で呼び出して」
「構いやしないさ。元々あたしは隠居の身だからねぇ」
「それに」とギンは一拍置いて言葉を続ける。
「昨日、お嬢ちゃん達の言う、排斥派とやらと思しき情報を掴んだから丁度よかったよ」
「マジで?」
「まじで。しかも話自体はここ一ヶ月の間に流れたらしいよ」
そうギンは頷いて煙管を一飲。
思ったよりも早いな。
……今の時代、情報の流れは昔と比べて大分遅い。
にもかかわらず、その情報を掴むのが早かったということは…。
「思ったよりも近くか」
「ん。場所は山の向こう、港町マイロだよ。………なんでも、吸血種の海賊同士が小競り合いをしているらしいね」
ご意見ご感想お待ちしております。




