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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三・五章 滅亡ノ鐘
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夜更け

筆が乗った……オジサン嬉しいッ!

手前味噌ですが、この間Twitterで懇意の方に宣伝RTされているのを知って、ニヤニヤが止まらずに居たら……。


「兄ちゃん、何笑ってるの? ……キモいから止めて」

と言われてですね、幼い頃の可愛い妹が懐かしくなりました( ノД`)…

社会人なのに身内には当たりが辛い(´;ω;`)ブワッ

   赤雷一行は、町で宿を取る。結局、日付けが変わる頃にようやく転がり込むこととなった。

 傍目には年季の入った老舗(しにせ)と言った風情だが、大っぴらに言えば(あばら)屋だ。外装はそこそこだとしても、内装は草臥(くたび)れて見る影もない。燭台(しょくだい)()び付いており、寝具も(きし)んでいる。襤褸(ぼろ)という言葉がぴったりである。安宿であることを差し引いても、酷い有様だ。


 だが、旅の疲れもあってかアルシュは早々に仮眠の姿勢を取る。一部屋に三人と、気持ち手狭ではあるが休息に支障は無さそうだ。その点においては喜ばしい場所であった。


 「すまんな赤雷、儂はそろそろ限界じゃ」


 「もういい、早く休めよ先生。ミシェル、お前もだ」


 「私も見張りをする。これなら何があっても……」


 「──見張りに二人も居るかよ。いつも通り交代で入れ替わる。それにだ、何かあった時『動けません』は通らん。疲れを癒すのも仕事のうちだ、とな──何度言わせる」


 提案の問題点を指摘した赤雷に、不承不承といった様子でミシェルは部屋の隅に移動する。座って長剣──二尺三寸程度と、やや短め──を肩に立て掛け目を(つむ)ると、すぐに寝息が聞こえてきた。余程疲れていると見える。愛くるしい容姿が、武器と相まって場違いだ。格好だけ見れば、まさに戦士然としていた。座ったまま休むなど、年頃の少女とは思わせない姿である。

 彼女が眠っている事を確認して、赤雷は小さく(つぶや)く。


 「……今に始まったことじゃねえけどよ、俺も随分嫌われたもんだな」


 「なんじゃったかな、こう言うのを“身から出た錆”とか言うんじゃったか?」


 「ほざけ。てめえ、意味が分かった上で言ってるだろ」


 のらりくらりとかわすアルシュに、彼は青筋を浮かばせた。すると、アルシュはおどけた様子で閉眼する。


 「寝る前まで粋がってんじゃねえよ、くそが。疲れてるんじゃねえのか」


 「…………寂しいのか?」


 「──死ね」


 その言葉を最後に、静寂が訪れた。二人して寝息を立てている。手持無沙汰(ぶさた)な彼は、やることがない。警戒は怠らないが、眠気を誤魔化すのも兼ねて思索に(ふけ)る事とした。思い浮かぶのは、シガールと最後の最後まで仲違いしていたことだ。


 (へっ、後悔先に立たず……か。何が、『昔話するほど歳食ってねえだろ、あんた』だ。見事にてめえの事じゃねえか)


 考えれば考える程、こうすれば良かったのではないかと、不毛な改善案ばかり浮かんでいく。アルシュに言える筋合いではないなと、自嘲が漏れた。

 憎まれ口こそ叩いていたが、シガールやミシェルらと過ごしていた日々は尊い物に相違ない。最早、誤魔化しようもなかった。

 事ここに至り、彼は気付く。シガールの笑顔をあまり見たことが無いという事実である。

 だが、いざ笑うと輝かしい顔になるのだ。


 「馬鹿みてえだな、今の今まで気付きもしねえのか」


 『人は無くして初めてその大切さに気付く』とはよく言ったものだと──彼はそう思った。まるで餓鬼だと声を殺して笑う。

 シガールと屋台で昼食を摂ったことも、喧嘩して彼を泣かせたことも。全ては、かけがえの無いものだったのだ。

 ただ一時の感情に流され、自分の手でそれを台無しにしてしまった。彼は寂寥(せきりょう)感に囚われる。

 或いは傷の舐め合いだったのかも知れない──偽りの親子関係はしかし、確かな情念を発するものとなっていたのである。認めるだけの度量が無かったのかも知れない。己の弱さは、腕っぷしだけではないようだ。


 「……こんな事じゃいけねえ。シガールの野郎に腑抜け呼ばわりされかねん」


 感傷に浸り掛けて、頭を振る。仮にも、シガールの師でもあるのだ。無防備にも願望を口にするのは流石に躊躇(ためら)われた。

 赤雷に不敵な笑みが戻る。そして、交代を申し出ようとした──その時だ。


 ──足音? 夜警にしては人数が多い。音が響いて場所は分からんが……少なくとも、こちらに向かってはいる。


 想像より早く状況が動いた、と彼は感じる。計画性が無いのか。それとも彼方(あちら)が焦っているからなのかは判然としない。

 夜霧のせいだろうか、些細な音を拾うことが出来たのは幸運である。


 「起きろ! 宿の外がおかしい」


 「すまん、寝入っておった」


 構わん。そう返すのと、ミシェルが窓際に張り付くのは同時だった。彼女は視認されることを避け、慎重に下の様子を(うかが)う。

 松明の灯りはそれほどではないが、用心しているのだろう。赤雷は感心した。


 「宿の主人が先頭に居る。後はざっと見るだけで三〇人近く」


 「やはりな、あいつも絡んでやがるか」


 アルシュも主人の態度に合点がいったようだ。特にミシェルを見たときの顔は、何とも言えないものだった。あれは恐らく、獲物が懐に飛び込んだことを喜ぶもののそれなのだろう。赤雷は毒づいた。


 「女を(さら)っておるのか? しかし、それでは説明が付かぬな。どうなっとるんじゃ、この町は」


 「ンなもん、今に始まった事でもねえ。ぶちのめして、あいつらの事情ってのを話して貰おうぜ。……丁度いい、間抜けが六人ばかり帯剣してやって来るらしいからな」


 入口付近で物音がしていた。気を遣っているつもりだろうが、やはり素人だ。履き物は革靴の類だろうし、何より剣帯の音が聞こえていた。屋外とは違い、状況の把握も容易である。荒事に特化している分、彼らは隠密に不向きだった。この事実は、赤雷達にとって僥倖(ぎょうこう)である。

 全員が思考することは同じ、“殺す気はないのか”ということだ。その気があるなら、毒を盛ることも宿に火を放つことも出来た。だというのにそれをしなかった事が引っ掛かっていた。しかし、状況は絶えず流動するものである。疑問の答えを探すときではなかった。

 ──構えろ。

 赤雷が目配せで周知する。ミシェルは剣の鞘を、アルシュは安楽椅子を手にして待ち構えた。程なくして、突撃の段取りを確認する声が届くと、アルシュの顔が嘲笑の気配を帯びる。

 笑止千万、そんな言葉がよく似合う顔だ。


 瞬間、扉が破られる。寝具は(あらかじ)めアルシュが膨らませており、そこに誰かが休んでいる様に偽装してあった。赤雷らは開かれた扉に隠れる恰好であり、襲撃者に発見される事はない。

 彼らが誰も居ない寝具に殺到する。

 計算違いだったのは、宿の主人と給仕を合わせて八人であることだが、もはや物の数は問題ではない。(そろ)いも揃って敵に背を向けて居るのだから。


 赤雷が鯉口を切り、瞬く間に武装した二人を刀背打ちで昏倒させる。それと同時に、アルシュとミシェルが踊り掛かった。

 呆気に取られ、及び腰となった彼らは敵ではない。狩る側が一転、狩られる側へと回ったのだ。

 ミシェルは(しな)やかな身のこなしで立ち回り、敵の腹部に鞘を叩き込む。赤雷とアルシュも、得物を振るって戦士を潰しに掛かった。手狭な場所から通路に移るまで戦闘が繰り広げられる。

 アルシュが椅子で剣を受け止めれば、赤雷が滑り込んで刀を振るった。使えるものは使う──寡勢(かせい)の強みがここにある。

 逃げ出す給仕を逃がしそうになったが、入口に先回りしていたミシェルが首筋に短剣を当て──制圧が完了。

 赤雷は、包囲している男達に向けて叫んだ。


 「お前らの先鋒(せんぽう)は、俺らが全員捕縛した! 観念して出て来やがれ! 出て来ないってんなら、こいつらの素っ首をひとつずつ()ねちまうぞ、いいな!?」


 夜の町に、怒号が響く。

 ざわめきが広がる、そんな気配が感じられた。戸惑っているようだ。ミシェルの見立てによると、荒事に特に心得があるのは先に突入した六人。他は一般人のようだ。小さくない衝撃が伝播(でんぱ)していく。聞けば、慣れない武器で身を固めても結果は見えているだの、女を差し出さなければだのと()めているようだった。

 溜め息を吐き、赤雷が前に出る。(あご)でしゃくって見せると、アルシュが気絶した男を宿の前に引っ張ってきた。

 ──月光に、白刃が閃く。乱れ刃の刃紋が艶然と佇んでいた。


 「まず手始めにこいつの首を頂く。おっと、手前(てめえ)らも無関係だと思うなよ。こいつらが終われば、次は手前らの番だ」


 突き付けた刀を(ひるがえ)し、最後通(ちょう)を終えると、一人が小走りでやって来た。近い者の顔ぶれの中では一番年かさのある男だ。町の長かも知れなかった。


 「待たれよ! 身勝手は百も承知──だが、彼らは助けて欲しい。この町の事情を話させて頂きたいのだ」


 「ふん、最初っからお前みたいなのが出て来れば、こんなこと(芝居)しなくても良かったンだよ。話せ、聞いてやっから」


 仄暗い明りが照らした表情に、生気は感じられない。毒気を抜かれた赤雷は舌打ちを溢す。ミシェルとアルシュは無言でその様子を見守る。

 貴方がたに助けてくれとは言わんが、と前置きしてから彼は町の事を話し始めた。

尺……約30cm

寸……約3cm





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