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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三章 剣ノ勲
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絶望

せめて一章九万字近くはいきたいですね(;^∀^)

この調子だと、恐らく予想以上に文字数が低減しそうです(汗)

 シガールが目を覚ますと、そこは王都の目抜き通りだった。

 紫や黄色の、鮮やかな旗が風に揺らめいている。人波を掻き分けていく、忙しげな女。仏頂面で店番をする露店商のおやじなど、様々な人種の坩堝(るつぼ)となっていた。

 少し横を向けば、哨戒中の兵士の一団が映る。


 (……これは?)


 唐突な状況に、困惑してしまう。記憶が確かであるならば、彼は全身を負傷し倒れ伏したはずだからだ。

 ただ、手足の感触が無かった。視線だけが動いているようで、自由が効かない。

 ──動かなければ。

 曖昧(あいまい)な意識の中で、気持ちがはやる。剣を取らねば仲間が、仲の良い気さくな男逹達が危機に瀕しているかも知れないのだ。手をこまねいているだけなど、耐えられようはずがなかった。

 隊商の仲間、マジーや両親が死んでいく姿が思い浮かぶ。目を閉じれば、まるで昨日のことのように思えた。(まぶた)に焼き付いた光景を二度と作らない為にと、彼は必死だ。

 ──が、身体が、動かない。

 普段であれば、手元を見ずとも掴める剣の柄ですら握れなかった。

 

 (動け、動けってんだよ、この……くそったれ! これじゃあ、まるで──まるであの時(・・・)みたいじゃないかっ!)


 目の前で腹部を貫かれた母。

 その時のシガールだが、実は半ば(すく)んでいた。大半は怒りであったが、武器を持った命の奪い合いに恐れを感じていたのだ。どういうわけか動かない自身に、状況を投影する。

 身体が動いていれば、剣を扱える技量と力さえあればと呪詛(じゅそ)を吐いた。

 今の今まで血を吐くような鍛練の末に、技術を磨きあげてきたのだ。赤雷直伝の剣術を会得(えとく)せん、と──。ここで動かずして何が剣士か。内心で烈火の如く燃える怒りに(さいな)まれる。


 「……なっ!?」


 突如、脈絡なく場面が切り替わったことに彼は絶句した。

 町のど真ん中に、かつての怨敵と(リュンヌ)が現れる。当時と変わらない、短槍が賊の手に握られている。当時のように、リュンヌは羽交い締めにされていた。あの時の悪夢が(よみがえ)るなど、想像したくもなかった。

 走らなくては。

 行動はしかし、叶わない。

 敢えなく突き刺さる凶刃が、彼女の腹を容易く食い破る。気が触れそうだった。溢れる血飛沫(しぶき)を撒き散らして果てていく姿に、愕然(がくぜん)とした。


 ──また俺は、目の前で大切な人を死なせるというのか!? 剣技に磨きをかけたというのに!


 泣きたくても、泣けなかった。

 (いら)立ちは自身の不甲斐なさへと向けられたものだ。全身が沸騰するほどの熱に浮かされ、目の前が赤く染まる。

 そうしている間にも、景色が移り変わっていく。

 続いてソレイユ、マジーが死に行く様が再現される。傷の細部さえも、だ。最早それは悪夢以外にないだろう。

 それでも尚、彼は声なき声で叫ぶしかなかった。狂おしい程に悲しいはずだが、涙が流れることはない。悲しみが行き過ぎたのか、それとも皆が死んだ日に涙が枯れてしまったからなのか。

 自問自答を繰り返しても、それすら判然としない。他ならぬ自身のことであろうとも、分からないことがある。両親、果ては赤雷やアルシュですらもがそうだった。説明が付かないことは世の中には溢れているのだから。

 それでも彼は納得するということをしなかった。答えが見えない中に在っても、そこに意味を見出だそうとしているようである。

 だが、もう見ていられなかった。


 あの日(・・・)、自分に足りなかったものを改めて、いや応なしに自覚させられる。

 頭を思い切り殴られた気分だった。身を千切られる程辛い記憶だ。だというのに、泣けないことがそれを助長する。

 ──何故俺は泣けないのか、と。

 思い返せば、悲しい思いをしてきた。泣くほどではないにしろ、歯痒い思いも。ところが、最も忌むべき日のことを思い描いて尚、涙一滴零れない。

 俺はそこまでの冷血漢だったのか、と彼は自身を責めた。

 そして、傭兵達の姿が血に沈んでいく。新参者も、為す術なく敵に呑まれていった。

 命()いも、怨嗟(えんさ)の声も何一つ違えることがない。それはシガールが今まで目の当たりにしてきた惨状だ。(かぶり)を振ったとて、過ぎたことは変えられない。顔を伏せたところで、問題から目を逸らしただけに過ぎないのだから。

 どれ程苦悩していただろうか、足元が崩れていくような錯覚を受ける。まるでこの世の終わりのようだった。

 もしかしたら、自分は既に死んでいるのではないかと彼は思った。


 (もしそうなら、どれだけ楽なんだろう……)


 仮にそうであるとしたら、これ以上の喜びはないだろう。

 苦しむことも、傷付くこともない。死の恐怖に怯えることも無いのだ。それが安寧の場所に思えてきたとき、それは降って涌いた。


 ──お前()が弱かったばっかりに。


 背筋が凍る。地の底から這いずってくるような複数の声音に、身が(すく)む。声の主がどんな者達であるか、考えるまでもなかった。

 両親とマジー。気さくだった傭兵達から、今までシガールが殺めてきた者達。そして、目の前で殺されていった者達のそれが一体となっていたのだ。

 落ち行く先が奈落に思えてならず、全身が(あわ)立つ。


 ──忘れるな、ということか! 忘れたことは、ただの一度も無いと言うのに……!


 激しい恐怖に、身の毛がよだつ。


 (俺は、強くなりたい……だからお願い、許して! ──皆、ごめんなさいっ!)


 混乱の極地にある思考の端で、彼は昔の穏やかだった頃を懐かしんだ。

現在検討中なのは、外伝と言うか、没シナリオと言うか。日常の何でもないシーンもあげてみようかな、というところですかね?


特に終盤に差し掛かったせいか、鬱成分もシリアスシーンも多くなってますし。

主人公の負の側面や心理面しか出ていないのも──そう言う作風です──如何なものかと。


とりあえず、検討中です。

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