懊悩の末
当然の結果だ。
「──らぁっ!」
無尽蔵に繰り出される刃を前に、シガールは切り払い、弾き返す。矢玉を叩き落とすなどの渦中に在って尚、一刺一殺とするほどの凄絶な立ち回りである。
獣さながらに声を張り上げ、物量に潰されまいとする姿に、アバンツァータ側の兵は僅かに戦慄を覚える。ともすれば、鬨の声に埋もれかねない畏怖の念は、シガールに有利に働いた。
刹那の躊躇いが得物の速度を殺したからだ。
最小限の踏み込みで繰り出した突きを、穂先のしなりで以て急所への一撃とする。
肺腑を貫かれた男が、くぐもった息を吐く。傷口から空気が漏れているのだろう。
死闘の最中、彼はちらと視線だけ動かして周囲を見やる。
気が付けば、辺りは敵の死体と返り血とで無造作に染め上げられていた。
──腋下を、幾本もの剣による刺突が抉る。
誰かを守る為に、剣を振るってきた。そして今はそれを手に、ただ殺めることに特化していく自分が居ることを認識する。
両親と仲間が死んだあの林で、死に行く裏切り者を前に誓ったはずだった。
強きを挫き、弱きを助ける。そのはずだった。だが、今の惨状を作り上げているのは、紛れもない彼自身である。罪の意識は頭の片隅で燻り続けていたのだ。
怒り、或いは義憤。言葉に出来ぬそれらが膨らんでいったのは間違いないだろう。
──敵の腹を切り裂き、代償に槍を肩口へ突き込まれる。
剣や槍。武芸十八般は赤雷に習い、磨きあげられて尚届かぬ領域があることを、まざまざと思い知らされる。
恐怖が全身を貫く。じっとりと、血と汗で濡れた両の手がそれを増長させていた。
仲間や味方の死。そして自身の死という、避け得ぬ状況に背筋が凍る。
しかし、止まってなど居られなかった。迷いもひた隠しにせねばならなかった。もし一瞬でも反応が遅れることがあれば、五体満足では済まないのは明白だからだ。思い悩んでいる間にも、相手は殺しに掛かっている。だからこそ、シガールは止まらない。四肢を負傷しつつも、奮戦するより他にないのである。
ある時は剣を打ち砕き、戦槌をも弾き返す。腕は刀傷で血みどろ、足も同様で惨憺たる有様だ。
そんな極限状態にあって、皮肉にも技は冴えていく。
一閃がより鮮烈に、受け流しはより流麗に変じていく様子。それはまるでこの負け戦さえも糧にしようという、一種の貪欲さの表れであるかのようだった。
とは言え、どんな人間にも限界がある。ましてや、多勢に無勢という不利である。決定的な破綻は唐突に訪れた。
槍の振り下ろしを受け止めたシガールの表情が、苦悶に歪む。
全身を掠めていく白刃が、深く肉を抉ったからだ。
「……う、ぐ」
弔いと、長時間の戦闘で既に疲労困憊だった彼は、手の感覚が鈍っていたのだ。最早やせ我慢すら出来ないほど、呼吸が荒くなっていた。元より疲れきった身体に鞭打っていたのが仇となったのか、得物が驚くほど重く感じられた。
それは即ち、技が曇る事と同義である。
抵抗も空しく、彼はやがて腹を剣で穿たれる。
致命傷だろうか。とにかく出血が酷かった。仄かな熱感は己の命そのものであるようである。だと言うのに、そら恐ろしい程に現実味が無かった。
シガールの腕も足も、全てが真紅に染まり、じわりと痛む。感覚が鈍っているらしかった。
何処か他人事のように思える鈍痛と、朧気な思考が愚か者の末路を描き出す。目を閉じれば、きっと胸を掻き抱きかねないほどの恐怖に苛まれるだろう。そんな彼の意思とは裏腹に、彼は膝を折ると呆気なく意識を失うのだった。
この話に限らず、すべての話において、もう少しお話に肉付け出来たのではないかと小一時間……。
悩む…………。




