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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三章 剣ノ勲
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懊悩の末

当然の結果だ。

 「──らぁっ!」


 無尽蔵に繰り出される刃を前に、シガールは切り払い、弾き返す。矢玉を叩き落とすなどの渦中に在って尚、一刺一殺とするほどの凄絶な立ち回りである。

 獣さながらに声を張り上げ、物量に潰されまいとする姿に、アバンツァータ側の兵は僅かに戦慄を覚える。ともすれば、鬨の声に埋もれかねない畏怖(いふ)の念は、シガールに有利に働いた。

 刹那の躊躇(ためら)いが得物の速度を殺したからだ。

 最小限の踏み込みで繰り出した突きを、穂先のしなり(・・・)(もっ)て急所への一撃とする。

 肺腑(はいふ)を貫かれた男が、くぐもった息を吐く。傷口から空気が漏れているのだろう。


 死闘の最中、彼はちらと視線だけ動かして周囲を見やる。

 気が付けば、辺りは敵の死体と返り血とで無造作に染め上げられていた。

 ──腋下(えきか)を、幾本もの剣による刺突が抉る。

 誰かを守る為に、剣を振るってきた。そして今はそれを手に、ただ殺めることに特化していく自分が居ることを認識する。

 両親と仲間が死んだあの林で、死に行く裏切り者を前に誓ったはずだった。

 強きを挫き、弱きを助ける。そのはずだった。だが、今の惨状を作り上げているのは、紛れもない彼自身である。罪の意識は頭の片隅で(くすぶ)り続けていたのだ。

 怒り、或いは義憤。言葉に出来ぬそれらが膨らんでいったのは間違いないだろう。


 ──敵の腹を切り裂き、代償に槍を肩口へ突き込まれる。


 剣や槍。武芸十八般は赤雷に習い、磨きあげられて尚届かぬ領域があることを、まざまざと思い知らされる。

 恐怖が全身を貫く。じっとりと、血と汗で濡れた両の手がそれを増長させていた。

 仲間や味方の死。そして自身の死という、避け得ぬ状況に背筋が凍る。

 しかし、止まってなど居られなかった。迷いもひた隠しにせねばならなかった。もし一瞬でも反応が遅れることがあれば、五体満足では済まないのは明白だからだ。思い悩んでいる間にも、相手は殺しに掛かっている。だからこそ、シガールは止まらない。四肢を負傷しつつも、奮戦するより他にないのである。

 ある時は剣を打ち砕き、戦槌をも弾き返す。腕は刀傷で血みどろ、足も同様で惨憺(さんたん)たる有様だ。

 そんな極限状態にあって、皮肉にも技は()えていく。

 一閃がより鮮烈に、受け流しはより流麗に変じていく様子。それはまるでこの負け戦さえも糧にしようという、一種の貪欲さの表れであるかのようだった。

 とは言え、どんな人間にも限界がある。ましてや、多勢に無勢という不利である。決定的な破綻(はたん)は唐突に訪れた。

 槍の振り下ろしを受け止めたシガールの表情が、苦(もん)(ゆが)む。

 全身を(かす)めていく白刃が、深く肉を(えぐ)ったからだ。


 「……う、ぐ」


 (とむら)いと、長時間の戦闘で既に疲労困憊(こんぱい)だった彼は、手の感覚が鈍っていたのだ。最早やせ我慢すら出来ないほど、呼吸が荒くなっていた。元より疲れきった身体に鞭打っていたのが仇となったのか、得物が驚くほど重く感じられた。

 それは即ち、技が曇る事と同義である。

 抵抗も空しく、彼はやがて腹を剣で穿(うが)たれる。


 致命傷だろうか。とにかく出血が酷かった。(ほの)かな熱感は己の命そのものであるようである。だと言うのに、そら恐ろしい程に現実味が無かった。

 シガールの腕も足も、全てが真紅に染まり、じわりと痛む。感覚が鈍っているらしかった。

 何処か他人事のように思える鈍痛と、朧気(おぼろげ)な思考が愚か者の末路を描き出す。目を閉じれば、きっと胸を掻き抱きかねないほどの恐怖に苛まれるだろう。そんな彼の意思とは裏腹に、彼は膝を折ると呆気なく意識を失うのだった。

この話に限らず、すべての話において、もう少しお話に肉付け出来たのではないかと小一時間……。

悩む…………。


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