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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
二章 異国之剣客
54/120

閑話 参

少しばかり内容が不安定になってきました、やったぜ(笑)

計画通り……(ボソッ

 「ねえ、君。名前は?」


 シガールが、寝具の上で横になった少女に質問をしている。曰く、「何時までも“君”なんて呼び方じゃ不便だ」とのことだ。彼女が診療所に収容された翌日のことである。

 しかし、顔色は宜しくない。血色を失い、不健康な印象を抱かせる肌が痛ましい。傷も癒えていなかった。見れば、内出血の範囲は広がっている。四肢は病的なまでに細く、頬は()けて亡者を想起させた。

 それでも、幾度も尋ねられたからか、弱ったような仕草で頭を抱えてしまう。


 「程々にしておけ、シガール。見ろ、言いづらそうじゃねえか」


 「……あ、そうか。そうだよね、言いたくないこともあるよね?」


 「お主らは邪魔になると、何度言えば分かってくれることやら」


 三人が何とも言えないやり取りをしていると、アルシュが入ってくる。手には薬膳、郊外にて自生する薬草を取りに行ったらしい。麦粥を元にしたのか薬草粥となっており、立ち上る湯気が食欲をそそる。野草は往々にして臭みがあるのだが、調理の工夫故かあまり感じられなかった。アルシュもやれば出来るのだな、と二人が至極失礼な感想を抱いたのは此処だけの話である。


 アルシュの追い出すような仕草に対し、赤雷は二つ返事で扉に手を掛ける。すると、そこにはミシェルが居た。目の前に立つ彼には目もくれず、シガールを見詰めて続けている。彼が気になって仕方ないらしい。

 

 「退()けよ、俺も仕事があるんでな」


 「あ……」


 赤雷の顔を見る彼女の表情は、切なげで不安定だ。彼の苛ついた声音でようやく反応したことから、上の空だと知れた。

 横を通り抜けいくシガールを前に、話し掛ける素振りをみせているが実行に移そうとしていない。躊躇(ためら)っているのは明白だ。先日は醜態を晒し、その上無視までされている。

 年頃の少女にとってはこれほど辛いことはないだろう。嫌われることを何よりも恐れているのだ。身近な人間でもあるだけに関係の変化も有り得る。当然の反応だった。

 ()き付ける意味で、彼は()えて挑発的な言葉を選ぶ。


 「ひでえ面だなあ、おい」


 だが、彼の憎まれ口に対して睨み返しもしない。普段なら睨み付けた上におまけで四つか五つ、罵倒の応酬がある。これはこれで良いことなのだろうが、彼にしてみれば拍子抜けどころの騒ぎではない。

 何とも居心地の悪い空気でしかなかった。


 ──重症だな、こりゃ。


 そう思いつつ、通り過ぎたところで聞こえよがしに呟く。


 「らしくねえぜ、気持ち悪りぃ。妹代わりの、それもぽっと出の小娘に負けるってか? はっ、似合わねえな」


 さすがにそれは彼女の琴線(きんせん)に触れたのだろうか。辛気臭い空気は一転、顰め面で喰ってかかった。


 「──っ! あんたねえ!?」


 振り返って彼は、不遜な笑みを浮かべる。

 ミシェルは目を吊り上げて憤慨していた。しかし、怒っている顔の方が彼としては落ち着く。何より、その方が年相応で可愛らしいと彼は思っていたのだ。それに関しては、シガールもけして悪く思わないことだろう。若い年にしては落ち着いているが、彼はどちらかと言えば賑やかな方が好きだからだ。


 「そっちの方が、お前らしい。今のお前なら、間違いなく“いい女”って言われるだろうさ」


 ミシェルは思わず固まった。(もっと)も、申し訳程度の礼を言おうとした頃には、彼はシガールを追い掛けてしまっていたのだが。


 「ひねくれ者が気取っちゃって! ムカつくのよ、まったく……。ふん、何よ……私が馬鹿だったみたいじゃない」


 言葉とは裏腹に彼女は、先程より気持ちが晴れていることを自覚するのだった。







 赤雷がシガールと王都近郊から戻ると、アルシュが腕組みしながら哨戒していた。襲撃があった様子もなく、人目を憚らない様子は奇異に映る。四刻程度で何か大事があろうはずもない。彼は内心、首を傾げるばかりだ。

 手を挙げて戻った旨を伝えると、彼は「良いところに来たわい」と表情を明るくし、続け様に言った。


 「あの子供、ちとばかり目を離した隙に逃げよった! 今では何処に居るやら……」


 「分からねえってのか」


 アルシュは間をおいてようやく頷く。


 「居ないんじゃしょうがねえ、あいつは諦めよう」


 「赤雷さん!?」


 「お前もな、あんな名前も知らねえ餓鬼の世話を焼けるのか? そりゃあ、お前が稼げる、養えるって言うんなら分かるがな」


 シガールはしかし、譲ろうとしなかった。

 そこに赤雷は、強固な意思を感じる。或いは、正当な理由によって誰かを守ろうとする者のそれに近い。

 最早、現実を見せるしかなかった。


 「……じゃあ聞くがな、お前はあいつらの事情()を知ってるってのか?」


 「赤雷、そろそろその辺りに──」


 「いいや、知っておくべきだ。自覚ねえようだが、あんたも物言いたげだぜ?」


 仲裁に入ろうとしたアルシュだが、言い得ぬ表情を浮かべていた。言われて彼自身、思うところがあったのか沈黙する。

 それ(すなわ)ち、この問答に意味がない事を感じ取ったからに他ならない。


 「あいつらはな、望んでああなった訳じゃねえ。言うに言えねえような事情をそれぞれに抱えて、な。それを他人が土足で踏み荒らしてみろ、どんな気分になると思う?」


 「…………ない」


 「あ?」


 「俺だって、こんな生活、望んでなんかいない!」


 シガールは、自分の思いを込めて全力で叫ぶ。

 だが、その直後、赤雷の顔を見ることでいたたまれない感情に駆られる。彼が物憂げな表情で無言を貫いていたからだ。怒るでもなく泣くでもないその様子に、彼は深く後悔した。


 「……そらみろ。結局のところ、今の生活に満足してる奴なんてそうそう居ねえのさ」


 続けはしなかったが、シガールはその続きを思い浮かべる。

 ──とどのつまり、俺もお前も。

 恐らくはそう言いたかったのだろう。それは確信に近いものだった。


 ──違う……俺は赤雷さんのこと、そんな風に思ってないのに!? ああ、もう!


 唇を真一文字に引き結んだ後、彼は踵を返して雑踏に消える。


 「名演説じゃったのう、赤雷」


 「……言ってやがれ。この因業爺(腐れ)が!」


 舌打ちと罵倒の言葉だけ残し、この場を去る赤雷。彼に向けるアルシュの双眸(そうぼう)は、諦念とも羨望ともつかぬ光に濡れていた。

赤雷「おのれ、アルシュめ。後で一七分割にしてくれる」


*この台詞は本編にはありません。

*元ネタ分かる人はナカーマ(笑)

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