波乱の萌芽
ちんたらしているお話でお馴染み、異端ノ魔剣士最新話。
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もう少し手を加えるべきかとも思いますが、現状でとりあえず……。
通りの聞き込みを終え、シガールと赤雷が診療所付近へ戻ってくると、アルシュと板金鎧を纏う者──騎士たち数人が話をしている最中であった。遠目から見ても険悪そうな雰囲気である。幾分か足早に接近し会話を聞き取ることができたのは、ひとえにアルシュが凄まじい剣幕で捲し立てている為だ。
離れていても耳に入るほど、アルシュの言は厳しい。通行人は我関せずを貫いて、避けて通っている有様だった。
「先ほどから言っておるだろうが、あやつは居ないとな!?」
「……しかし、彼は日頃からこの診療所に顔を出しているではありませんか」
「知らぬと言ったら知らぬ! ここで立ち話をしている暇があるというのなら、探しに行くが道理じゃろう!?」
「そうは言いますが、彼の行方に心当たりはあるでしょう。少し前にも居たようですし……」
苛立ち紛れに頭をかきむしる。
もう何度目になるか分からない繰り言に、アルシュは堪忍袋の緒が切れる寸前である。普段の胡散臭い──もとい柔和な笑みが、剣呑で不気味なものにすり変わっている。寡勢でなければ臓物のひとつを鷲掴みにして血肉をぶちまけるか、身の凍るような脅迫のひとつでも見舞って追い払う心積りだろう。
だが、アルシュはただ耐え忍ぶ。それが出来なければ、ミシェル共々陽の目を見ることは叶わない。
“騎士団”と銘打ってあるが、王都近郊ならばいざ知らず、このような場末での実態は傭兵に近しい無頼漢どもがせいぜいだ。下手を打てば尋問を口実とした嬲り殺しの憂き目に遭いかねない。
赤雷の行動ひとつに喧しく講釈を垂れる彼も、何時しか自覚せぬ内に甘くなっていたのだ。
元はと言えばアルシュの不注意だった。アルシュとて薬の調合をしていようと外の様子には気を遣っている。今回も異邦人の件があってからというもの、アルシュは普段以上に配慮をしているつもりであった。しかし、それは甘いと思い知る。
──自制心のなんたるかも知らぬ輩が「我慢している」と宣うことと何が変わろうか……。
本当に配慮しているつもりだけだったとは、アルシュも思わなかった。配慮しているという人間に限って、最善とは言いがたい行動をしているものであり、アルシュは激しい自己嫌悪に陥った。
ミシェルには水を汲みに行って貰い、尾行に気を付けろと注意を促してはいた。しかし、帰途に就いたミシェルは尾行に気付かず、騎士団にアルシュの居場所を特定させた訳だ。騎士がここを利用することは皆無で、アルシュも街の奥まったところに診療所を構えている。警戒が緩んでいなかった、といえば嘘になる。今回の件に関しては歯噛みするより他ない。
そもそも荒事の専門である騎士と、一般人の気配りの程度に雲泥の差があるのは当然だ。騎士は何も戦闘行動のみに特化している訳ではないのだから。
求められる力量には武術もあるが、それだけで騎士は務まらない。戦闘に斥候、情報処理能力。その他、野外での生存能力など。
そもそもが軍事力として機能する人間と、道行く一般人とではどだい比較にもならないのだ。それは如何に貧民窟で長く過ごしていようと変わることはない。最善策はアルシュ本人が外で仕事をこなすことだった。
事件がある時を除けば巡回の道筋は常に固定化されており、アルシュはそれを知っていたからだ。加えて荒事の心得がある。街の騎士団に関する動向は既知のことであった。それでも赤雷らが情報収集に出掛け、抑止力として作用することを期待していたのは否定しようがない。
(希望的観測で動くようになろうとは、儂も随分落ちぶれたのう……)
気が抜けているとしか言い様がなかった。
適当な方向を教えようとした時、背後から唐突に声が掛かり全員がそちらを向いた。
そこには、今話題沸騰中の赤雷がシガールを引き連れて立っていた。
「よお先生。何やってるんだよ、こんなところで大声だして」
──馬鹿。話から事情を察することは出来んのか。
思わず喉元まで上った罵倒を呑み込み、視線に申し訳程度の叱責と侮蔑を込めて威圧するが、当の赤雷はどこ吹く風といった様子だ。
待ってましたと言わんばかりに、横あいから騎士が一人前へ出る。中年とおぼしい男で、風雨にさらされたと見える浅黒い肌が特徴的だ。
「ようやく来たか。あんたには聞きたいことが山ほどある、ちょっとばかり詰所に来てもらおう」
「……一体なんだというんだ? せめて罪状くらいは教えて貰えるのだろうな?」
気が立っているのか、赤雷の不遜な態度に男は気色ばむ。
「……いいから来い。 街中での殺しはお前の仕業だろうが! しらばっくれようとしても──」
「そこまでにしておきなさい、アルベール」
掴み掛からんばかりの男──アルベールを、端整な容貌の青年が片手で制する。低いがよく通るその声音は赤雷にも覚えがあった。金髪碧眼で高い鼻梁と中性的な容姿を併せ持ち、一見したところ優男に映るが、切れ長の双眸は潜り抜けた死線を物語るように鋭い。眼光は常に剣気を纏うようで威圧的かつ慎重な色を湛え、油断は微塵も窺えないほどだ。
渋々ではあるものの、口火を切ったアルベールが退いたところを見るに、彼──クール=サージュの方が格上らしい。
よりによって、この男と赤雷は犬猿の仲だ。一触即発の空気になることも多く、遭遇すると必ずこうなる。騎士たちは殺気立ってか、普段よりも三割増しで険悪な雰囲気である。
赤雷が現れてから、というのもあるだろう。
なにしろ、実力者同士が穏便でないやり取りをしているのだから、その緊張も納得である。
──クールと赤雷、果たしてどちらが強いのか。
──初撃は誰が受けるのか。
──一挙手一投足すら逃せない。
クールの配下達の目は戦場へと向けられ、今まさに臨戦態勢となっていた。
その時シガールが一見、自然体で前に出る。何時でも得物を抜ける構えだ。
そんなシガールに赤雷は下がれと命じる。転じて赤雷がシガールと入れ違い、前に出た。
「連隊長さんのお出ましか」
あくまでも飄々と話す赤雷に、青年は柳眉を吊り上げる。
「貴方は礼儀というものを持ち合わせていないようだ。 ……実は、路地裏で変死を遂げた男がいましてね。 その嫌疑は貴方に掛かっているのですよ」
鼻で笑い、赤雷は笑みを歪ませる。見るものの神経を逆撫でするような意地の悪さを、これでもかと詰め込めんだような顔だ。
一瞬、騎士の眉がぴくりと跳ねる。
「だったらどうしたというんだ。 そもそも目撃者がいるのか?」
「ええ、その者の話によると『黒い外套姿で、一撃のもとに男を屠った』とのことです」
その言葉を聞くや否や、赤雷が皮肉げに嗤う。
「確たる証拠もなしに『詰所に来い』と来たか、騎士様とやらは大層な御仁の多いことだ。 その程度の格好なら、往来で飽きるほど目につく。 大体、なぜ暗殺者の線ということを視野に入れない? 死人は一撃で殺られたんだろう」
「それは……」
図星を指されてか、クールが口ごもる。すかさず赤雷が畳み掛ける。
「そらみろ。 裏付けを取らない上に、先入観で物を言う。 おおかたの予想としては、俺を敵視する輩の偽情報ってところだろうさ」
表向きは敵対しておらずとも、水面下で誤情報を流すなど搦め手で攻めてくる組織がある。赤雷とて顔は広く、横の繋りも数多いが、そこは個人と組織の差であり如何ともしがたいのだ。
暫しの沈黙の後、しかしと、クールは真っ向から力強く切り出す。
「貴方も容疑のある人間の一人です。 私はこの件に全力を注ぐ。 もし下手人であるならば、その時は覚悟して頂く」
「“覚悟”だとか“正義”だとか、騎士様ってのは大変だな」
込められた皮肉に気付いたのか、射殺さんばかりの視線を向けるクールに対し、赤雷は肩を竦めるのみだ。
背を向けて踵を返す騎士団の一行を、シガールは姿が見えなくなるまで警戒していた。
診療所を後にしたアルベールは、帰途で方策を練っていた。が、途中で考えるのを止めた。
(赤雷を詰所に誘導する策は失敗か。 いずれあいつにも動いてもらわねばならんか……まったく、憂鬱だ。 お堅い連隊長どのの性分も面倒よな。 いずれは騎士なぞ辞めて野盗でもやるか)
思索すら面倒になる。目の前の連隊長は口を開けば、やれ治安維持だの、正義だのと喧しい男であるのに加え、裏では蘭にこき使われているのだ。これで鬱々としない方がどうかしている。
沈んだ気持ちを抑え、クールに声を掛けた。
「連隊長どの」
「どうしました、アルベール」
「ちょいと厠に行って来ますわ」
「……なるべく早くにして下さい」
そう言い残し、アルベールは仲間と離れ路地裏で息を潜める。程なくして板金鎧を身に付けた男が掛けて来る。
「来たか」
「アルベール副隊長、手筈どおりに傭兵四十人を雇用しました」
この傭兵は蘭が持ち寄った貴金属を換金し、また彼の指示で雇い入れたものだ。若い騎士はそこで訝しげにアルベールをみやる。
「ところで、傭兵なぞ雇って如何なさるおつもりですか? 私には戦争をする準備にしか見えませんが」
これにはさしものアルベールも呵々大笑した。部下の青年がわずかに眉根を寄せる。時間にして一分、高笑いを終えたアルベールは眦を擦りながら言った。
「まあ、なんだ……戦争という表現はあながち間違ってはいないな。 兎に角、俺の言う通りにしていろ。 少なくとも嵐に巻き込まれるということはあるまい」
「はあ……」
意図するところが掴みきれないといった風に、青年は間の抜けた返事をした。
一方で、アルベールと別れたクールは胸を撫で下ろしていた。
(あの少年……)
思い起こすのは、紺の短髪が印象的な美少年である。彼は、見た目どこにでも居そうな少年に想いを馳せていた。
あの少年が放つ眼光と、殺意の奔流。それはまさに剣士でいうところの、剣気なるものであったのだ。如何な研鑽と場数を踏めばああも鋭くなるのか、この騎士には想像も付かない。
考えれば考える程、シガールという少年の得体が知れなくなるような気さえしてくる。クールは僅かに寒気を覚えた。
──果たしてこの場にいる幾人が、彼とまともに斬り結ぶことが叶うだろうか。 あの赤雷と修練を積んでいるのならば、あの剣気は納得できるがそれにしても──。
強すぎる。そう締めくくった。
いつの間にかその思考すら、赤雷を相手にどうすれば初撃を有利に運べるかということに刷り代わり、シガールのことに関しても考えすぎだと片付けられるのだった。
──赤雷の気に当てられたのだろうな。仮にも将だというのに……引き締めねばなるまい。
私の作品より、殺戮者の方が面白いですよ(笑)
ぶっちゃけ、私も○殺しさせたいのですが、作風からして──無茶とは言わないけれど──無理だというもので(汗)
人○しを所望するのでしたら、出来ないことはないですよ?──自信ないですが(笑)
というより、拙作を推さずに他作を推すスタイルってどうなんでしょう(笑)




