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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
四章 暴虐の魔剣士
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異動 壱

 「どうしてこうなったんだ……」


 シガールは(うめ)いた。

 何度目になるかも分からないぼやきが、風に巻かれて消える。彼が立つ地は、王都の近郊ではない。西側の国境が程近い屯所──その外にある練兵場だ。

 一月前、異動の命を受け、降り立ったのがここである。団長であるローランによれば、この地に侵略の兆しがあるとのことだった。とは言え、低い可能性であることには変わりなく、あくまで保険としての派遣であるらしい。


 (そう言えば、西の副長が死んだとかで、周りは随分騒いでたからな。団長も、頭を抱えていたし……)


 彼が耳打ちしてきた内容も、正直言って先が思いやられるものだ。なにせ、国境の先は山岳地帯となっている。登れなくは無いが、行軍するとなればかなり危険を伴うものになることだろう。

 更に、その立地の恩恵か、長くに渡り争いとは無縁だった為か、練度が心配されている。

 端的に言えば、その懸念は正しかった。西方の町、オンジュにおける連隊長であるジェロームは、精悍(せいかん)な顔立ちではあるがやや頼りない。事実、技量を測るという名目の打ち合いでは、シガール相手に数秒しか持たない有様だ。平和ぼけしていることは否めない。試合の直前、冷やかしてきた彼の部下もいけ好かなかった。仮にも武器を取るのだ。剣を扱う者としてあるまじき振る舞いである。

 野次馬根性丸出しの連中、というのがオンジュ屯所に対するシガールの感想だった。


 (まったく、散々だったな)


 連隊長を()じ伏せたかと思えば、今度は腕に覚えがあるという者がこぞってシガールに殺到。彼に試合を申し込む事態に陥った。

 新参者ということで、可愛がり──という建て前の新人いびり──だったのだろう。一対多など、明らかな悪意に満ちた、試合とは名ばかりのものだ。

 ローランらを恨みがましく思う気持ちが芽生えるが、彼の言葉を思い出し、オンジュの者達を(ことごと)く打ち負かすことにした。何せ、シガールは望んで一対多を想定した修練を積んだ身だ。臆する気持ちなど毛ほども無い。

 だが、負けたものは勝つまで挑み掛かるもの。それは赤雷の経験と持論だ。それに(なら)い、勝敗によらない決着を付けることにした。それは即ち、武器を弾き落とすという手段だ。

 諦めの悪い人間に、そこまで思い知らせるのは流石に困難を極めた。いかにローラン達から信用を得ようと、ここではそれは通用しないからである。武器を幾度も拾い向かって来るものも見受けられた。諦めが悪いことは称賛に値するが、度が過ぎれば鬱陶しいだけだ。


 決定的な変化は、痺れを切らしたシガールが、()()()()()()()()()()時からだ。

 そもそも相手の木剣を叩き折る心算でいたのだが、どういう訳か全力の一撃はしかし両断させるに至ったのである。赤雷の話でも、そんな話は聞いたこともない。それを為し得た当人も困惑するばかりなのだ。如何に早く振ろうと、へし折るか弾き飛ばすしかないはずである。

 後に続く者にしてもそれは変わらなかった。もっとも、切り飛ばしたのは、最初の一人に対してのみの結果だ。切り飛ばした箇所の断面にしても、まるで刃物で両断されたような鋭い切り口を見せる。


 五人、六人と束になって掛かろうと鎧袖一触の様相だ。その数が倍になろうと、瞬く間に得物を弾き戦闘不能に追い込む。何せシガールが体得しているのは、正真正銘──本物の戦場で振るわれる剣である。よく言えば型にはまった程度の剣では、傷ひとつ付けられない。

 彼にしてみれば、何処までも無駄の多い素人剣術でしかなかった。もはや武器を弾き飛ばすなど、造作もないことなのだ。


 そんな神がかり的な技を目にし続けた彼らは、とうとうシガールとその力量を認める。更には、弟子入りを懇願する者が現れ、ジェロームは自分が補佐に回ると言って聞かなかった。


 「……思った以上に厄介だな」


 改心するのは有り難い。しかし、隊長自身がその職を(なげう)つというのは、ローランの心証が宜しく無い。彼らが何を考え上でこうも豹変したのかも、分かりかねる。

 これまでの出来事に頭を痛めながらも、彼は一月前のことを思い返すのだった。

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