氷柱の頂で拾うもの
氷柱の頂上。その細い足場の上で、深く息を吐く。
目の前に表示されていたウィンドウを閉じながら、肩を落とした。
「………時間稼ぎにしても、待たせ過ぎだ。」
戻ってくる位置はわかっていたのに、何を手間取っていたのか。
まあ、間に合ったからよかったものを。白刃取りじゃないんだから、ギリギリ狙らうんじゃないよ。
遠く森の奥。木々の隙間から飛び出した青い光が一直線に空を裂く。黒髪のPKが反応する。
”水球”。それが、真っ直ぐ速度を上げる。俺ではなく。黒髪へ向かって飛来する。
反応速度そのものは異常だった。
氷に刺さった槍を手放し、ステータスにものをいわせた回避行動。
残像すら出てきそうなほどの速度で回避しているのだが、遅い。何せ、気づくのが遅れている。ダメージは免れない。
圧縮された水塊が弾け飛び、氷柱全体を揺らした。
水飛沫が刃物のように散り、黒髪を切り裂くように通過する。黒い髪が乱れる。
「__どうゆうこと……。どうして魔法が…………。」
理解が追いついていない顔。驚愕した顔が上を向く。
何が起こっているかわからないような表情を浮かべているが、やっていることは、そっちと同じことなんだよな。要は、
__気づけなかったでしょう? 私たちが1人だけじゃないことに。
閏尾がいた事を、知らなかっただろう。
もう1人いたってやつだ。1人と言うか、一匹なんだけど。
PK達が現れた瞬間。仮面を着ける前に、嫌な予感がして、閏尾を抱き寄せようとしたところ。嫌がられて逃げられた。見事な猫パンチ付きで。それっきり気配を消して、何処かに行っていた。何処に行ったかは、わからなかったが、俺は閏尾に構ってる余裕はねえ。
プレイヤ―との初会合で、緊張しまくっている脳味噌が焼き切れそうになっている状態で、猫の行方まで気にしろと言われても無理である。
猫は気まぐれなもんだ。そのうち、戻ってくると思ってたが、戦闘が始まってしまった。
仮面のせいで、スキルに余裕が無い現状。何処に行ったのかわからない。閏尾もとい、[猫に小判]にスキル枠を潰すのはどうかと思ったが、戦闘中だ。スキルを組み替えている暇なんてない。
だから考えた。
なら、戻ってくるための時間稼ぎ。をと、それだけを考えてたのだが、まさか、弓の使い手の方から援護が、来るとは思わなかった。
森の方から、キクシオに氷のつぶてが飛来してくる。それを避けようとするが、よく確認して見れば、何処かの家紋が入った氷の杖。慌てて掴む。
なんて、雑な扱いだ。縦ロールさんが泣くぞ。
間髪入れずに、杖を前へ向ける。だが、踏みとどまる。
今、黒髪を狙っても普通に回避されるだけだ。なら、杖を別の場所へ向ける。
それに過剰に反応する者が1人。膨大な膂力を持って行動する。
氷のつららが、先ほどまでいた場所。PK達。甲冑とフードを被った2人がいた場所が氷に貫かれる。だが、捉えたのは残像だけだ。逃げられてしまった。
過剰に反応した黒髪のPKが、2人を担いで回避していた。
数を減らさしてはくれないか。せめて、あの二人を落とせれば、少なくとも2対1。勝機が見える。
だが、あの黒髪がいる限り、それも難しいらしい。
「__なるほど、なるほどなるほどね。わかったわ。…………貴方にも伏兵が居たのね。」
状況を理解すると怒りの顔で、俺を睨んでいるが、どちらかと言うと自分に怒ってそうな感じだ。
「__何で、こんな事にも気づけなかったのかしら。”鬼”にたった一人で勝てる方がおかしかったのよ。それなのに…………。」
__不気味な気迫に押されて、”鬼”に対抗するためのスキルコネクトまで使って。私たちが、プレイヤー相手にモンスター相手に対する立ち回りをさせられていた…………。
屈辱だ。と顔にそう書いている。
怖い。そっちの勘違いでしょうに、同じことやられたからと言って怒らないでよ。強化されてるから、迫力も強くなってるのか。
それはそうと、高い位置から辺りを見ていたおかげで、見つけたものがある。
それは、”格好がつくもの”だ。
氷柱の頂上を蹴る。砕け散る氷。身体が宙へ投げ出される。
何処を探してもないなと思ってたんだよ。まさか、そっちの方にあったとは。
今向かっているのはちょうど、閏尾が居るであろう。視線の先。森の入口付近。巨木へ深々と突き刺さっている一本の影。ある物が目に届く。
その前に、後ろに悪寒。
背後を見れば、黒髪のPK。水球で吹き飛ばされた槍を既に回収している。こちらを見ている。
目が合う。次の瞬間。
投擲。
風が悲鳴を上げるような音を立てながら、俺を追跡する。速すぎる。強化系のスキルを3種。2重に付与されたそのステータスの暴力が牙を向く。避けられる気がしない。
怖い。めちゃくちゃ怖い。けど、こっちも”大砲”がある。
森から、一直線。青い線が飛ぶ。高速回転する水の塊が、ステータスの暴力によって振るわれた槍に直撃するタイミングで、ある物の場所に着く。
後ろから、轟音と衝撃を感じるが、気にしない。
巨木に突き刺さったある物。
黒い鉄塊。鬼の怪力を象徴する武器。
”黒い金棒”を手に取り、スキルを発動する。
鬼ほどの怪力が無ければ、持ち上げる事もかなわない。黒髪のPK程の膂力が無ければ、振るうことはかなわないだろう。
後ろには、またも、水球に飛ばされた槍を掴み迫る者がいる。
だが、俺には、瓦礫撤去を少しでも楽させようとスキルを交換した。筋力を倍加するものしかない。けれど、これで十分。
|スキル発動 [バカぢから]。
全身を熱が駆け巡る。筋肉が軋む。
スタミナが猛烈な勢いで削られていく。赤いオーラが足元から這い上がる。
”黒い金棒”こいつの質量なら、さっきの瓦礫とは比較にならない。
そう簡単に、ステータスの膂力で吹き飛ばされたりしない。
…………タイミングが重要だ。
少しでも早ければ空振り。少しでも遅ければ串刺し。
一発勝負。
後ろから、黒が迫る音が聞こえる。
槍の銀閃が、地を踏み砕く音が、場所を知らせる。
スタミナが削れていく。赤いオーラは肩まで浸かっている。
まだだ、まだ、そして、音が、消える。
後ろが、わからない。
タイミングが、わからない。
死。
その文字が浮かび上がる。
__ナァーーー。
反射的に身体が動く。
スタミナを切れる直前。金棒を後ろに叩きつける。
振り向けば、眼前にPKと向き合い。槍と金棒が交差するタイミングで、
第三者が現れる。
いや、この場合。PKの仲間の連中でもないから、”第四者”と言った方がいいのか。
何せ、そのプレイヤー。パンプキン膝小僧は、白いプレイヤーネームを掲げながら、槍と金棒が交差するその場所で、俺と黒髪のPKの間に挟まる様にいる。
「お互い、止まってください!! 」
手のひらを、俺と黒髪のPKに向けながら、その闖入者は、静止命令をしていた。




