折れた哭角
[猫に小判]。
このスキルは、《輪廻を巡る十二象》。
そのボスである黒猫を倒すことで、取得権利を得られる特殊スキル。
スキルでありながら、他のスキルを扱う。
それ故に、このスキルは”独立した意思”を持つ黒猫__閏尾を召喚する。
閏尾は、プレイヤーとは別個に行動し、自律的にスキルやアイテムを扱う。
命令を聞くだけの召喚獣じゃない。
独立した思考。
独立した判断。
独立した戦闘。
だからこそ。
[猫に小判]には、“特殊な使い方”が存在する。
そして。
残子のナイフ。
《輪廻を巡る十二象》第一象――子のドロップ品。
今の俺が、投擲用として主軸にしている武器。
インベントリにまだ、大量に複製されており、その数は十数本ほど、取り出したナイフを武器スキル[残像]で、増やし続ければナイフが枯渇することはない。
けど、
武器スキルには、厄介な仕様がある。
そのスキルを持っている武器を装備することで、強制的にセットしていたスキルを押し退けてスロットの枠に入ってくる。装備することがこのスキルが入ってくる条件なので、むやみに使うことができなかった。
けど、
もし、
装備を外せたら…………。
インベントリを操作する手が、速くなる。
大量にあるナイフ群から、とある物を探している。
「こんなに、増やすんじゃなかったな。」
青鬼の金棒を回避する。
轟音。
地面が砕ける。
青鬼の直線的な攻撃を、避けながら操作する手を止めない。
一々攻撃の度に、動きが止まるからわかりやすい。
けど、当たればたぶんHPは吹っ飛ぶ。緊張感だけは、一切消えない。
そして。指が、止まった。
選択。
取り出したのは__杖。
初期装備の1つ。魔法を使うための触媒。今のスキル構成では使い物にならないもの。
けど、
装備は変更された。
そして、見るのは、青鬼の腕。
蠢く肉に巻き込まれ、裏返り内側に収まった。最初に投擲された、まだ腕に刺さったままのナイフ。
このナイフは、武器スキル[残像]で、増える前の一本目。
「どれだけの時間。装備してねぇと思ってる。」
影ではなく、”本物”の装備枠。
つまり。元の武器は、既に“装備扱いじゃない”。
なら。
「いい加減外れろよ。」
突如。スキル枠が__空白へ変わる。
武器スキル[残像]が、消失した。
装備変更され、条件喪失したため、スロットが解放される。
ステータスは変わってない、体調に変化はない。
けど、
「準備は、あと1つ。___閏尾!」
スキル[猫に小判]。独立した意思を持つ黒猫__黒い影が、
__ナーォ。
消えていく。
ダメージエフェクトじゃない。ポリゴンの光に変換されたような消え方ではない。
”力の切り替え”、その変化が身体に現れる。
一瞬。
全身から力が抜ける。
そして次の瞬間。冴えわたる様に視野が広くなる。
「ありがとう。閏尾。」
スキルの枠が変化する。武器スキルがなくなったため、[魔力操作]と[猫に小判]の構成が、書き換わる。
[魔力操作]、[水球]、[投擲]。
「セット、完了。」
スキル[猫に小判]の特殊な使い方。
[猫に小判]を解除した瞬間。もし、スキルセット枠に空きがある場合。閏尾側にセットされていたスキルを、こちらへ移せる。仕様の穴。裏技だ。
スキルをセットする訳は、決まってる。
「スキルコネクト!」
「[魔力操作]×[水球]」
掌の前に生み出された水球が、ゆらりと浮かぶ。
その表面に、魔力の糸が絡みついた。
|スキルコネクト[水導弾]を発動。
放つ。
水球は一直線に飛び出し――直後、不自然な軌道で急旋回する。
まるで意思を持つ弾丸のように、水球が空中を追い回す。
杖を動かすたび、水球は軌道を変え、加速し、ゴブリンへ食らいつく。
ゴブリンを巻き込みながら、なお水球は止まらない。
土を巻き込み、地面を削り、巨大化していく。
やがて、黒い塔に当たり、爆散。………するかに思えた。
だが、水球は砕けない。黒い塔の壁をなぞる様に、上へ、上へと昇っていく。
そして。
”折れた黒の塔”その折れた付け根へ。
「最初に、水球を当てたとき。その時から、まともに戦うものじゃないと思った。」
そのHPの多さに、体力が桁違いなんだと。
だから。
「切り替えた。」
視線を上にあげたと同時___衝撃音が空間を震わす。
身体が、地面が、空間が音を伝播させる。
スキルコネクトの[水導弾]が、黒い塔の“折れ目”へ叩き込まれた音。
悲鳴が上がっている。
閏尾の水球。たとえ、”鬼”に当たらずとも、打ち続けていた理由。
黒い塔に衝撃を蓄積させて、その折れ目を深く、広げるために。
哭き声が辺りを支配する。下からも、上からも。
最後の仕上げ、ゴブリンを倒しきってしまったら、《共哭き》が始まり、スキルが使えなくなる。俺も、閏尾も。
だから、スキルコネクトが必要だった。“今この瞬間”でも自在に動かせる、水弾が。
上空。巨大な影が、傾く。
下に居るものすべてを押しつぶそうと、上から、巨大な質量が落ちてくる。
影が落ちる。
哭き声が、響く。
鬼の宴。
__終わりが、迫る。
スキルコネクト[水導弾]は、ナイフを量産してたときの準備で試してました。特に、表記はしてないですけど、キクシオは使ったことのないスキルを土壇場で使うほど、度胸はないです。




