哭きつく色
赤鬼が、哭いた。
その頭の裏に癒着していた青鬼も、同じ声で哭いた。
二つの哭き声が重なった瞬間、世界から色が抜け落ちる。
視界が白黒に沈み、赤鬼と青鬼だけが、異様に鮮やかな赤と青を保っていた。
そして哭き終わると同時に、黒い塔が軋むように開く。
泣き声に反応したかのように、塔の奥からゴブリンが押し出される。
8体。
それぞれが近接武器を握りしめている。
だが、色が違う。
一般的な緑色のゴブリンではない。
赤く染まったもの、青く染まったもの。
まるで、赤鬼と青鬼の哭き声に“染められた”かのように。
「……状態異常かと思ったが、変わったのは色だけだし。」
十中八九、赤鬼の仕業だ。
だが、どんな技なのかは分からない。
ただ、色が変わっただけで済むような雰囲気ではない。
「出方を探るか………。」
__いや、ダメだ!
ちょうど、敵との位置が良い。
塔から、出てきたゴブリン達は、まだ動く様子は無く塊っている。
そのすぐ近くに赤鬼。
この配置を逃すのは、あまりにも勿体ない。
ここを狙えば、一気に数を減らせる。
「振り出しに戻るには、まだ早い。」
ナイフを8本構える。
指先に力が宿り、[投擲]が発動する。
狙いはゴブリン。
歪曲しながら、飛んで行くナイフだが、流石に、目の前から来る攻撃。簡単に迎撃される。
一部に、弾かれたり避けられたりもしたが、問題ない。
これは、牽制。
標的を、動かさないための攻撃。
「閏尾!」
__ナーォ。
瞬間。巨大な水球が、発射される。威力は申し分のない。
まとめて吹き飛ばせる――そう思った瞬間。
赤鬼に、水球が触れた途端。
つるんっ。
と、弾かれた。
水球はそのまま後方へ滑り、ゴブリンを巻き込みながら塔にぶつかって消滅する。
ゴブリンを倒してたが、思っていた成果を出していない。
赤鬼と、ゴブリンをまとめて攻撃しようとしたが、赤鬼には無傷。
ゴブリンも大した数を巻き込めなかった。
問題はそこじゃない。
ナイフを取り出し、赤鬼へ向けて[投擲]する。
迫るナイフに対し、赤鬼は一切動かない。
ナイフが、赤い肌に触れた途端。
つるりっ。
と、どこかへ飛んで行く。
「…………っち、スキルすらも…………。」
こちらの攻撃が、全部弾かれる。
「謎解きしろってか。」
色の無い世界が、じわじわと迫ってくる。
白と黒だけで構成された空間の中で、
“色を持つ者”と“色を持たない者”が、はっきりと分かれていた。
赤く染まったゴブリンが2体。
短剣と爪を構え、色だけが異様に鮮やかに浮かび上がっている。
その色が、白黒の世界に滲むように揺れていた。
速い動きで距離を詰めてくる。
「色の持たない者は、持つ者に攻撃ができない?」
適当にナイフを投げ、ゴブリンの足を止めさせる。
__違うな。
ゴブリンには、攻撃できた。水球で倒してるし、ナイフの投擲だってダメージは入ってる。
動きの止まった2体のゴブリンを足場にして、青く染まったゴブリンが空中から奇襲してくる。
こちらも、2体。手斧と棍棒を振りかざし、影のように落ちてくる。
「なら、ゴブリンに秘密があるのか?」
潜り込むようにして回避し、
そのまま、空中にいる2体のゴブリンの足を掴み、地面に叩きつける。
動かなくなったゴブリンをよく見ると、
「…………ん?オーラみたいのを纏ってる?」
後ろから、短剣と爪が迫ってくるが、水球がゴブリンに直撃する。
白黒の肌の上に、張り付いている”色”。
赤色と、青色のオーラを纏っている。
「これは…………赤鬼が纏っているオーラと同じ。」
怒気が可視化されたただのエフェクトだと思ってたが、ゴブリンにもこのオーラが纏っている。
いや、”纏わされている”。
「なるほど、ゴブリンも”色を持たない者”だったってわけか。」
だから攻撃が通った。
…………けど、待てよ。
これじゃあ、振り出しに戻らないか?
色の持たない者は、色を持つ者に攻撃できない。
これが、確定したことになる。
左右から、槍と双剣、赤と青のゴブリンが色を纏って来る。
思考が止まり、考えあぐねる。
左右にナイフを投げ、その場から逃げる。
同時に赤鬼が迫ってくる気配を感じる。
こいつからは、全力で逃げる。
助けを求めるように、”相棒”に視線を向けると、
「……ええ?……。」
閏尾の頭に、”赤い角”が生えていた。
「どうした!そんな、怒らせるようなことしたか俺⁉」
__ニャッ!
驚いたような声を上げる。
閏尾自身も、今気づいたらしい。
怒ってるわけじゃないようだ。よかった~。
__ペチペチ。
「お前も着いてるよ」と、言わんばかりに閏尾に頭を叩かれる。
「いやいや。これは、青い仮面で、…………あ、ホントだ。」
頭を触ってみれば、確かに角が生えている。
何色だこれ?
青い色が、視界を掠める。
「……青か。」
ここにきて、新しい情報。”角”。
今のところ、俺たちにしかできてないけど、
ヤバいな…………。
本格的に頭が、ごちゃごちゃしてきた。
見た目的にも、その中身も。
「あー。わからん。」
何かのバフの可能性もあるし、もう一度、赤鬼に攻撃してみるか?
足を止め、後ろを振り向く。
赤鬼が、すごい形相で迫ってくる。
まずは、投擲。
指に力を入れ、狙いは、赤鬼。
真っ直ぐナイフが飛んで行き、赤鬼の仮面に、吸い込まれるように、
だが、赤鬼が足を止め、金棒で迎撃。
「ん?迎撃した。」
__当たりか?
利かないなら、さっきみたいに避けないよな。
それとも、動かされることを嫌がったか。
次は、閏尾の水球。
空気を裂くように発射される。
これで、避けたり、また迎撃したりしたら、”角”を持つことが対抗手段になる。
つるんっ。
水球が赤鬼に触れる瞬間、弾かれる。そのまま、背後に飛んで行った。
赤鬼は速度を変えずに、迫ってくる。
「あれ?どういうことだ?」
俺の攻撃は迎撃し、閏尾の攻撃には何もしなかった。
赤と青の哭き声を纏った鬼が、
白黒の世界を裂くように迫ってくる。




