欲に噛まれた思考。
…………ヤバい。
__ヤバい。
やばいやばいやばいやばいっ。
さっきまでの浮かれた自分を殴りたい。
何で確認しなかった。何で気づかなかった。
青ざめた顔をしながら、状況の整理を続けていく。
「この戦闘が始まる前、ふもとの森で何してた。俺…………。」
[魔力操作]だ…………。
MP(魔力)の回復してたわ。俺。
減った傍から、回復させて。
この戦闘の準備してた………。
赤鬼が動き出す。
金棒を片手で、やすやすと振り回し、地面を砕きながらこちらへ迫る。
「___は!…………。」
まずいことを思い出した。
「…………[ハイジャンプ]も、付けてねえ…………。」
…………まずい。
__まずい。
まずいまずいまずいまずいっ。
欲に塗れて、確認することを怠った!
完全に浮かれてた。
仮面つけてニヤけてる場合じゃなかった。
「__回避…………スキル。一つも、着いてねぇ。」
ヤッッッバい。
今なにも考えれねぇ…………。
視界が、ぼやけてくる。
もう、目の前には、赤鬼の巨体が迫ってきている。
一回。…………デスしとくか。
青鬼戦で、自分で思ってるより、疲れてんだよ、多分。
ここまで、来るの大変だったんだよ、多分。
現実逃避をしながら、自分の死を受け入れ始めようとしているとき。
__ペシッン!
ぼやけた視界が___鮮明になる。
振り上げられている。黒い棍棒。
その体躯に任せた、強烈な一撃が、自身に降りかかる。
土煙が、舞っている。
標的が地面もろとも叩きつけられて、土煙だけが立ち上っていた。
土煙の中に青い面の光だけを探していた。
青い面を着けていたため、それを回収しようと、自ら動いたが、こんなんで消えるなら別の物か。
そう考え、興味が失せたように、金棒に力を入れ、引き戻そうとしようとして、
__違和感。
赤い腕に、何かが___。
その直後、声がする。
「そんな、急いで帰んなよ。…………初恋か?」
潰れたはずの”モノ”が、声を出す。
「うぶそうだもんな。…………顔真っ赤だし。」
土煙が、晴れていく。
青い鬼の面が、
傷だらけになったその片面が、こちらを真っ直ぐ捉えてくる。
赤い血肉が躍動し、赤い面が震える。
____お前なのかと。
…………あぶねぇ、あぶねぇ。
振り上げられた、黒い金棒。その持ち手である腕に、ナイフを投げて。
振り下ろす軌道を曲げた。
その一瞬のズレに、身体を沈め、反るように軌道から抜ける。
巨体が、仇になったな。関節の位置にさえ的確に当てることが出来て初めて行える事だが。
「………いや、まさか当たるとは………。」
それも、これも。
閏尾のおかげだ。
あの一撃で、正気に戻った。
あれが、無ければ、俺はもう一度、渓谷からやり直しだ。余計疲れるわ。
「それに、目の前に、目的のものがあるんだ。」
何のために、ここまで来たと思ってる。
これを手に入れないで、死ねねえよな!
倒せばいいんだ。倒せば。
赤鬼を見れば、金棒を片手で担いで、こちらをガン見している。
腕に刺さったナイフをお構いなしで、持ち上げてるよ。
__あぁん!何ガン飛ばしトンのジャ!ワレ!
__うちの大将が、黙ってねえぞ!
「ねえ、兄貴!」
視線を上げ、黒猫__兄貴に目を向ける。
__ペシッペシッ。
“誰が兄貴だ”と言わんばかりに叩かれる。
「いや、だって。……今、うちの最大戦力はあんたですよ。」
こっちはまともな、戦闘のスキルが、無いんですもん。
MPタンクとしては、役立てますよ。兄貴!
赤鬼が、動き出す。
地面を踏み砕きながら、赤い巨体が迫ってくる。
「閏尾は、どうする?降りるか?乗ったままか?」
__ペシッペシッ。
まあ、そうだよな。
今いる場所、周囲を見れば、ゴブリンに取り囲まれている。
青鬼の時のように怯えられているのかもしれないが、これは”恐怖による支配”のようにも見える。
つまり、完全に統率がとれている。
隙を晒せば、後ろからやられる。
今は、閏尾の乗り物になってるしかないか。
「まあ、後、出来る事は…………牽制かな。」
スキルを発動させる。
片手に持っていた。ナイフがブレる。
一本だけだったはずが__8本へと増える。
両手に、4本づつ。指に挟むように持ち。
近づいてきていたゴブリン達に、投げる。
使い捨て上等!
MP(魔力)を、気にする必要は無いんだ。なら、5本以上だって普通に出すことが出来る。
当たれば、消えるんだけどね。
「一、二、三の…………8体か。」
ゴブリンの数は、大したことがない。
それよりも、問題なのが、
赤い影が、目の前にいる。
砂埃を上げ、
黒い金棒が地面を引きずる音がする。
赤鬼がすくい上げるように、下から、上に振り上げようとしている。
「__っ……。」
全力で、回避に努めるが、間に合わない。
金棒が、当たることを確信する前に、
頭の上から、水球が、発射される。
衝撃。
爆ぜる水。
と同時に、赤鬼との距離が開く。
赤鬼に追従するように、ゴブリンが集まっていく。
背後に吸い寄せられいるように。
赤鬼の次の動きを待つように。
「ふざけてるな…………。ボスと戦いながら雑魚の相手しなきゃならないとは。」
数の暴力が牙を剥く。
__ペシッ。
「ああ。そうだな。9対2か。」
ふふ。
どっちにしても、不利じゃん。
顔が歪む。青い片面と同じように。




