本領発揮。冷めぬ興奮。
ゆっくりと、体を起こそうとして、止まる。
腕に、力が入らない。
動かしずらい体に鞭打って、冷蔵庫にある飲み物に手をかける。
「……水」
乾いた喉が、訴える。
手探りで、近くに置いてあったペットボトルを掴む。
キャップを回す。
それだけの動作が、やけに億劫だ。
「……はぁ」
一口、流し込む。
冷たい。
現実の温度。それが、感覚を引き戻してくる。
現実。
戻ってきたはずなのに、体は、まだ“あっち”に引きずられている気がする。
全身が重い。鉛でも仕込まれたみたいに、鈍い。
指先を動かす。
じわじわと、感覚が戻ってくる。
脳と体のズレ。
このズレがあまり好きになれない。
小さく顔をしかめる。
慣れれば違うのかもしれない。
だが今はまだ、この“ズレ”が気持ち悪い。
「……さて」
ようやく、思考が回り始める。
『ソロダンジョンを開始』の選択を迫られてる状態で、
俺は、
ログアウトすることに決めた。
ゲームに飽きたとかそんなんじゃない。むしろ、逆。
夢中になり過ぎていたから、もっと集中するために休憩を挟むことにした。
実際、ログアウト前に塔の内部は一通り見て回った。
扉。壁。床。
階段やエレベーターがあるかもと、歩き回ったが特に何もなかった。
モンスターも特に出てこなかったから「ここって安全じゃないか?」と思いログアウトした次第だ。
パソコンに視線を向け、キーボードに指を走らせる。
対象は、
アクシズ・リコレクション「黒の塔」
あのゲームの名前と知りたい情報。
間違っても、攻略情報を見たい訳じゃない。
考察が知りたくなった。
黒い塔。
ダンジョン。
“ソロ専用”。
そして――
黒の塔内で言っていた”アーク・オブ・リコレクション”について、
「やっぱり、大した情報は乗ってないか。」
黒い塔についてはいくつか見ることはできたが、アーク・オブ・リコレクションについてはほとんど名前すら出ていない。
どうやらみんな、探索よりも、検証の方を先にしているようだ。
俺だって、キャラクリのことが無ければ、気が済むまでスキルコネクトの検証をしていただろう。
掲示板のスキルコネクトの検証を見ないようにして、ゲームの情報を取る。
__やるなら自分で検証したいしな。
誰かの正解をなぞるつもりはない。それじゃ、意味がない。
「……まあ、後で答え合わせはするけどな」
小さく笑う。
完全な縛りじゃない。
ただ、順番の問題だ。
まずは、自分で考える。それから、見る。
しばらく、適当に情報を漁る。
設定。世界観。
断片を繋ぐ。
時間が、過ぎる。
…………。
………。
……。
「おし!………やるか!」
流石に我慢の限界が来た。
休息は十分とった。
頭も回っている。
VRゲームのヘットギアを起動して、再び背中を預ける。
口元が、わずかに上がり、自身が高揚していることがわかる。
「さあ………次はダンジョン攻略だ!」
電源が入ったことがわかり、ゲームの中へ。
ログインしたこと確認し、体の調子を確かめるためにストレッチをする。
痛いわけでも、苦しいわけでもないが、体の感覚が、
HP全損の危機であることを教えてくれる。
軽く肩を回し、前を見る。
|「黒の塔」アーク・オブ・リコレクションへようこそ
|ダンジョン「輪廻を巡る十二象」
|
|ソロダンジョンを開始しますか?
|・YES・NO
前回と何も変わらない選択が表示される。
迷わず即座に。
YESを選択する。
瞬間、ダンジョンが”呼応”する。
床全体に走る光が一斉に、部屋の床の中心へと導かれる。
光る線が、円を描き。
また、その中心に凹凸が現れる。
感圧版式のスイッチだ。
「なら、これはエレベーターか。」
この会社の作品では、多くある手法だ。
「おぉぅ…………。リアルに乗るとは思わなかった。………ゲーム内だけど。」
手すりもなく、壁もない。
少し不安に思いつつ体重をかけて乗る。
低い振動音と共にゆっくりと、だが、確実に上へと向かっていく。
やがて。
床が、止まる。
上の階層に来た。
床のエレベーターが、上階の床とピッタリ沿うようにはまる。
エレベーターの凹凸がなくなり、感圧版のスイッチを押すことができなくなった。
もう後戻りができないんだと、暗に示された。
ウィンドウが表示される。
|ソロダンジョンへようこそ
|このダンジョンはあなた方に技術を与える試練です。
|頑張ってください。
|
|残りリスポーン回数:3
「はぁ?…………。」
待て待て待て。突っ込みどころがあるな。
一つずつ整理しよう。
まず、『ソロダンジョン』は、まあいい、何回か表示されてるし、どうせ俺はお一人だ。
『あなた方』はプレイヤーに向けて言ってるのか?
『技術を与える』って何様だよ。………ダンジョン様か。
「で、………最後にだ。」
視線が、そこに固定される。
『残りリスポーン回数:3』
「……出たな。」
小さく、笑う。
理不尽。
制限。
失敗=終わりに近づくシステム。
「……いいじゃねぇか。」
むしろ。
それでこそ。
「こうじゃねぇとなぁ……イデアロム社ぁ……!」
目が、自然と細くなる。
興奮。
期待。
そして。
挑戦欲。
「……やってやるよ。」
ウィンドウを閉じる。前を見る。
そこにあるのは未知。
そして、試練。
「――攻略、開始だ。」
人参ぶら下げてる状態で、何話か待たせました。本当にごめんなさい。次こそはダンジョン攻略です。




