第16話 完成!
今日は久しぶりにアレックスがカナン男爵家を訪問し、ディアナと顔を合わせての打ち合わせだ。
ディアナはED治療のための魔法薬は作れても実験はできない。
そこはアレックスに依頼してある。
「お前の作った治療薬は、効果が確認できたぞ」
「それはよかったわ」
アレックスは花街の知り合いに使ってもらって効果を試していると言っていたが、どこまで本当のことか分からない。
「ロマンティック魔法薬も、ラブロマンティック魔法薬も、女性の冷え性にも効く血行促進タイプよ。だから、男女問わず使えるわよ」
ディアナのED治療薬は、日常的に服用する精力剤タイプの魔法薬と、特別な日に使うタイプの魔法薬を組み合わせて使う。
なおディアナに効果の詳細は分からない。
「はははっ。なぜそれが効くのか分からんな?」
「私にもよく分からないわ。プラシーボ効果かしら?」
ディアナは肩をすくめて両手の平を天に向けた。
安全性重視の魔法薬作りをしているディアナの魔法薬には、作っている本人にもよく分からない効果が出てしまうこともある。
「やっぱり、アレか? この色とキラキラかな?」
アレックスは小瓶を手に取って目の前で振っている。
透明な青い小瓶の中に入っている液体は、窓から入る太陽の日差しを弾いてキラキラしていた。
「そうね。キラキラにはこだわったわ」
ディアナの魔法薬はビジュアルにもこだわりがある。
ちなみにキラキラ光って見えるのは、有効成分が固まったものだ。
「精力剤は、男性向けは少し紫がかかった青に金のキラキラ。女性向けはピンクに金のキラキラが入ったものにしてあるわ。だからラブロマンティック魔法薬は、七色に光るシルバータイプで作ってみたの」
「何がどう『だから』なのかは分からないが、花街で聞いてみたら女性受けがよかったよ」
「まぁ、気分のものだから。瓶も可愛いでしょ?」
「そうだね」
アレックスは頷いた。
「透明な瓶を使っているから、使用期限は短いけれど。用途を考えたら長期保存が出来る魔法薬にしないほうがいいと思うの」
「そうだね。まめに店頭へ買いに来てくれたほうが、商会としても儲かるしねぇ~」
小さな瓶に詰められた魔法薬を揺らしながらアレックスが言う。
「ここまでくれば、あとは販売しちゃおうか。サミエルには、おリボンつけて私からプレゼントしておくよ」
「もう、お兄さま。ニヤニヤしないで」
アレックスは表情だけでディアナを揶揄い、彼女を赤面させた。
「なぁ、ディアナ。これって『愛のロマンティックタイムを盛り上げる』魔法薬で、避妊の効果はないんだな?」
「ええ。もちろん。むしろ子どもはできやすくなるはずよ」
ディアナは(ED治療薬なのだから、子どもの欲しいカップルが使うのでは?)と思ったが、そもそもそんな魔法薬なら花街で使わないということには思いが至ってはいなかった。
「子どもの欲しい貴族夫人が購入するなら、化粧品とか他もついでに買ってくれるだろうし。夫側なら、もっと高い物をついでに売りつけてもいいし。逆にサービスしといて子供用品で儲けるという方法もある」
「お兄さま。楽しそうね?」
「ああ。どうやって儲けてやろうかと考えるのは楽しいものだよ」
ディアナは眉をひそめた。
「お金は沢山あったほうがいいけど。そういうのを考えるのは苦手だわ」
「ふふ。お前は商売向きではないからね。商売のほうは私に任せてくれればいいよ」
アレックスは何かを考えながら目の前で青い小瓶を振っていたが、急に何かを思いついたようにパッと表情を輝かせた。
「なあ、ディアナ。イーサンのことだけど。地味な妻が家を出て、新しい嫁を迎え入れる余裕が生まれた。あいつは派手な女を妻にしたいんだろ? せっかくだから、イーサンの望む通りにしてやろうじゃないか」
アレックスはニヤリと笑った。
それは見慣れているはずのディアナでも背筋がゾクリとするような、冷酷な悪魔のような笑みだった。




