第15話 ED治療薬を作ろう
アレックスはカナン男爵家へ滞在したままレーアン子爵家と何度か手紙をやり取りしながら、何かを決めてから帰っていった。
途中でサミエルの父の表情がアレックスと同じようにうるさい感じに変わった瞬間があったが、ディアナに具体的なことが告げられることはなかった。
サミエルに伝えられることもなく、カナン男爵家とレーアン子爵家の間で何かが決められたようだ。
アレックスいわく「最終的には、サミエルとディアナが決めることだから」と放置された。
家同士の取り決めは出来たようだが、本人たちが進めないと事は動かないらしい。
解せぬ。
ディアナはアレックスが帰宅する前に抗議した。
「家同士の契約を結んでからの結婚って、当人同士が何もしなくても結婚できるものではないの?」
「いや。2人とも大人だからね。そこは当人同士でなんとかしないと。レーアン子爵家も、カナン男爵家も、結婚には賛成だよ。だから2人の気持ちが決まったら反対しないし、サインひとつで結婚できるようにしてあるからね」
アレックスは表情でうるさく揶揄ってくるだけで具体的な協力をしてくれる気はないようだ。
ED治療薬に関する相談には散々答えてくれたが、サミエルとの仲を取り持ってくれる気はゼロだった。
アレックスの帰宅後、ディアナは本格的に魔法薬作りに取り掛かった。
手紙で相談したり、材料の手配をしたりしながら進めるディアナの手伝いをするのはマリーだ。
「あら、お嬢さま。今度の魔法薬は、ロマンティック魔法薬ですか?」
「ええ。今度のものはラブが付くのよ」
「ラブロマンティック魔法薬ですか。なんだか素敵ですね」
詳細は言えない。
マリーもいい年なので性的なことに無知というわけではないが、ED治療薬となると生々しすぎてダメである。
「この魔法薬でカップルの素敵な時間が盛り上がるといいですね」
「そうね、マリー」
ディアナは適当に誤魔化した。
サミエルのおばあさまが管理していた庭は、ディアナが指示して整え直している。
作業の合間には、サミエルとその庭を眺めながらお茶を楽しむことも増えた。
会話は盛り上がるものの、2人の関係や交際に関する話については、モゴモゴしてしまって先に進まない。
ディアナはサミエル越しの庭を見ながら思う。
(セロリをち〇立ち草と呼ぶ地方があるとか、言えないし。こう……サミエルの向こうに生えているセロリはもちろん、ニンニクやニラも、ただの野菜とは見えなくなってしまった……これが大人になるということ?)
多分違う。
それは分かっているが、ディアナの思考は明後日の方向へ飛びやすくなっていた。
(これが……恋⁉)
それも多分違うが、全く違うとは言い難い。
1つ確実に言えることは、ずっと付き合いのある幼馴染への恋心を自覚するということは、平常心を吹っ飛ばす威力がある。
ディアナは魔法薬の開発に励んだ。




