第14話 夕食会
少々気合を入れてドレスアップをしたディアナは、マリーの操る馬車に乗って本館へ向かった。
アレックスがカナン男爵家の本館へ泊っていくことになったので、久しぶりに皆で食事をとサミエルの母に誘われて、ディアナも一緒に夕食を摂ることになったのだ。
本館に到着するとサミエルが迎えにでてきた。
馬車の扉を開けたサミエルは、ディアナの姿を見て一瞬息を呑んだ。
ディアナがフワリと微笑むと、サミエルははっとした表情を浮かべてから、彼女へと向かって手を差し出した。
「綺麗だよ、ディアナ」
「ありがとう、サミエル」
今夜のディアナは、アレックスが「独身に戻った記念だよ」と言ってプレゼントしてくれたドレスのうちの1枚を着ていた。
10代の若者のような華やかさはないが、古くなった手持ちのドレスに比べると格段にあか抜けて見える。
(新しいドレスは心が躍るわね。サミエルも気に入ってくれたようでよかったわ。お兄さまは昔からセンスがよいから……)
サミエルにエスコートされて食堂に向かいながら、ディアナはつい過去のことを考えた。
地味な容姿ながらも華やかな10代のこと、実力を認められ忙しく稼ぎながらも地味な20代のことを思い返す。
(10代の頃はデビュタントもあったし、お披露目を兼ねてイーサンにエスコートされて夜会に出たこともあった。でも結婚してからは夜会にも出ていないし、個人宅の夕食会へ招かれるようなこともなかったわね)
この10年を振り返り、仕事ばかりの地味な生活だったことに気付いたディアナは、改めてゲンナリした。
(まだ20代も少しだけど残ってるから楽しまないとっ!)
ディアナはエスコートしてくれているサミエルを見上げて笑みを浮かべた。
サミエルの頬が分かりやすく赤く染まる。
(これは脈ありのサインかしら? お兄さまは縁談の打診をしてくれたのかしらね。いくらバツイチの30近い女だといっても、あまりガツガツいったら嫌われちゃう。悪い印象を持たれないように事を有利に進めたいなら、使える身内は使わなきゃ!)
ディアナはウキウキした気持ちでカナン男爵家の食堂へと入っていった。
他の参加者は既に席へとついていた。
挨拶を終えたディアナは、サミエルにエスコートされて彼の隣の席へと座る。
正面にはアレックスが座っていた。
兄はディアナと目が合うと、一瞬だけサミエルへ視線を向けて揶揄うようにニヤリと笑った。
(もうお兄さまってば相変わらずなんだからっ。隙あらば妹を揶揄うような悪癖のあるお兄さまは、無視よ無視)
ディアナは素知らぬふりをして、サミエルの両親や兄と談笑した。
カナン男爵家の食事は、美味しくて豪華だ。
別館で暮らすディアナが食べている物も食材やメニューは同じようで、既に馴染みのある料理も多い。
(このホタテのテリーヌは食べたことがあるわ。今日はキャビアが添えてあるのね。アスパラガスもカナン男爵家ではよく出る……あ、飾りのお花は初めてね。スープはトウモロコシだわ。この間のカボチャのスープも美味しかったけど、トウモロコシも美味しいわね)
ワインも領地で作っている上質なものが提供された。
(ワインが美味しくて食事も進んでしまうわ。パンも皮はパリッとしていて中はふわふわで美味しいのよね。魚の皮もパリパリで美味しい。本当にカナン男爵家のシェフは腕がいいわ。あら牛肉だけでなくフォアグラもある。牛肉とフォアグラの組み合わせは豪華よね。夕食会ならでは、って感じ)
サミエルは妙に意識しているのか、ディアナと視線を合わせようとはしなかった。
(これは逆に脈あり? 分からないわ。私にリアルタイムでの状況分析は無理っ! あとでお兄さまに確認してみよう。そしてEDが婚約を申し込まなかった理由なら、私が解決してみせるわ。薬師としてのプライドにかけて!)
ディアナは食後のコーヒーとデザートを楽しみながら、妙な方向で闘志を燃やしていた。




