20 アルの正体
王様の許可を取って、黒い翼の少女を一時的にゼノベア城で休ませる事になり空いている部屋を借りた。
魔力が無くて弱っているとのことなので、マジックポーションを飲ませることになったのだけど。
衰弱していて、起き上がって飲めないようだ。
僕はスプーンで少しずつ少女の口に運んでみた。
少女に付きっ切りで看病していると、噂を聞いてアスマたちが集まってきた。
「まさかトワが美少女を拾ってくるとはね。俺も行けば良かった」
アスマが呟いていた。
「本当、黒い翼が生えてるわね、見たこと無いわ。種族は何かしら?」
ユウリは興味深そうに彼女を眺めている。
「神秘的でとても美しい人ですわね」
レーシャは率直な感想を言ったようだ。
「あれ・・気が付かなかった。君、腕を怪我してるじゃないか」
木の枝に引っかかった時に傷ついたのか白い腕から血が出ていた。
『回復魔法』
僕は直ぐに回復魔法を彼女にかける。
「怪我って大したことは・・って治してくれたのか・・ありがとう」
少女は不思議そうに僕を見ていた。
ウェンディとレーシャは二人でコソコソと話しているみたいだ。
「トワの少女に対する態度が怪しいですわ。どうなっておりますの」
「見てのとおりよ。また一目ぼれしたみたいで・・はぁ」
**
「すまなかった。世話になったの」
彼女は三日経ってようやくまともに動けるようになった。
彼女の名前はアルと言うらしい。
「今回は大丈夫みたいだわ」
「そのようですわね・・このまま帰ってくれれば・・」
何やら、ウェンディとレーシャがコソコソ話している。
いつの間に仲良くなったんだろう?
仲が良いのは良い事だけど。
「トワ、其方が助けてくれなかったら・・わらわは今頃どうなっていたか・・後でお礼をしたいから一週間後この間の森に来てくれるか?」
「お礼?そんな大げさだな。全然気にしなくていいよ」
言葉と裏腹に、僕の心の中に寂しい気持ちがあった。
笑顔で見送りたいのだけど、多分微妙な表情になっていると思う。
「そんな寂しい顔をせずとも・・じきにまた会えるからの」
アルは微かに微笑んだ。
アルが居なくなってから、三日も経たないうちに僕は部屋でぼーっとしていた。
「・・・・」
「トワがどっかに行ってる」
「心ここにあらずですわ」
心にぽっかりと穴が開いた感じ。
アルと居たのはほんの少しだけだというのに。
僕って、ウェンディが言う通り惚れっぽいらしい。
はぁ~。
僕はため息をついていた。
一週間くらいしたら、黒い森にまた来てほしいとアルが言っていた。
そしたらまた会えるんだ。
待つってこんなに辛かったっけ?
「レーシャの時よりも重症だわ」
「何故わたくしを引き合いに?それを言ったら、ウェンディの方がトワと親しいはずなのではありませんの?」
「そのはず・・なんだけどね。私達ももちろん黒の森に行くわよ。首を洗って待ってなさい、アル」
**
黒の森に僕たちは来ていた。
森は静かで、時折鳥の鳴く声が響いている。
「ここで待っていればいいんだよね」
一週間後、黒の森で。
それしか聞かなかった。
この世界では通信手段も何もないので、来るまでのんびり待つしかない。
異世界の待ち合わせはのんびりとしたものだ。
「待たせてすまなかったの。ようやく準備が整ったのでな」
黒い翼の少女アルが現れた。
アルが右手をかざすと、ぐにゃりと空間が歪んだ気がした。
「場所は極秘なのでな。直通で行こうと思っての」
僕と、ウェンディ、レーシャはアルに連れられ森の奥へ入っていった。
「わぁ、ここは洞窟ですの?」
森を入っていったと思ったら、景色がガラリと変わった。
暗くヒンヤリとした室内。
水の滴る音がする。
アルは手に松明を持ち、火をつける。
「まぁ、そんなとこじゃな。てっきりトワだけが来ると思っておったわ」
「「私達はトワと、とーっても仲が良いので」」
ウェンディとレーシャの声が重なった。
「お友達ってやつじゃな?まあよかろう。もう少し奥の方じゃ」
言われた方を見ると奥に似つかわしくない建物が立っていた。
まるでお城みたいな。
そういえば森って魔王が住んでいたんだっけ。
いや・・まさか・・ね?
目の前の少女は黒髪で翼が生えていて、美人で人間じゃないみたいだけど・・。
城の中へ入るとガランとしていた。
「部下は全然居らんのじゃ。一人しか居らんのでな」
洞窟の中のはずなのに、空間がやたらと広い。
空間魔法とかが使われているのだろうか?
「こちらの方が良かろう?」
僕たちは大きいテーブルのある部屋へ通され椅子に腰かけた。
食堂なのだろうか。
僕の隣にアドが座る。
対面にウェンディとレーシャ。
「お礼といっても、大したもてなしも出来ないが・・今回特別に用意したのじゃ。ほれ、この果物とか美味しいんじゃぞ?どうぞ召し上がれ」
赤い実の果実に、黄色い色の果実。
見たことのない色とりどりの果実が置かれている。
女子二人は目の前の果物に夢中のようだ。
食べやすく切られていて、皿に盛られた果実が瑞々しい。
「いい香りですわ」
「何だか高級そうねえ」
僕はアルに疑問を口にした。
「ねぇ、アル変なこと聞いて良い?」
「なんじゃ?」
「このお城って魔王城じゃないよね?」
女子二人の手が止まった。
果物を手に持とうと動いていた手が。
「・・・・な」
「なんですって!?」
「やはり、知っておったか。だからと言ってなんじゃって感じだがな。この城はいかにも魔王城で間違いはない。わらわは魔王アルビレスじゃ」
女子二人が目の前の果実をじっと見つめていた。
食べたそうにしているな。
「ええい!」
ウェンディが果実を口に放り込んだ。
「え・・えっと」
レーシャは食べようかどうしようか迷っているみたいだった。
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