第20話「魔力測定を受けるわ、身体測定じゃないのよ」
寮で休憩を取った後、ロザリア達新入生は全員野外実習場に集められた。
構造はほぼ闘技場で、大きさは大きめのグランド程の小判型、広場の周りをぐるりと高い石壁が囲っており、その上に観客席があるものだ。
実習場の中央には大きな正方形のステージが3つあり、ロザリア達は中央のステージ前にクラスごとに5つのグループで並ばされている。
生徒が揃い、点呼が終わると、ステージ上の教師が説明を始めた。
「静粛に! ……はい、生徒の皆さんに集まっていただいたのは、今から皆さんの魔力封印を解除し、魔力測定を行う為です。皆さんはある程度の魔力があるものと既に認定されておりますが、その魔力の属性および強さを公式に測定するものです」
「さて、魔力属性には、皆さんが普段の生活でもなじみ深い、地水火風の文字どおりな働きをする、自然4大力がありますが、それぞれに上位属性が存在しています、岩氷炎嵐ですね。
他にも4大力を統括する高位属性がありますが、それが現れる事は数百年に1度の伝説レベルの事態なので、
普通は地水火風のどれかが割り当てられる、と思ってください。地水火風の上位属性でも、めったに現れませんので」
声を出している教師は割と遠くに離れているはずなのに、近くで声が聞こえるような感じがする、どうも魔法で声をこちらの近くに飛ばしているらしい、この学園は本当に様々な所で魔法が活用されているようだ。
「皆さんにはそれぞれステージに上がってもらい、この鑑定球に触ってもらいます、触る事で皆さんの魔力封印が解け、属性と強さを鑑定します。ステージに上がっていただくのは、万が一封印が解かれた時に暴走状態になっても、
ステージ四方にある消魔塔が余分な魔力を吸収することで魔力事故を防ぐ為と、ステージ自体に結界が張られているので、周囲に被害を出さないようにする安全の為です。何重にも安全策を講じてありますので、安心して下さい」
見ると、確かにステージの四隅に小さい塔のようなものが立ててある、大きさは大人が手で抱えるにはちょっと無理かな、くらいの太さ、大人3人分くらいの高さで、天辺には大きな透明の球体が置かれている、あれが魔力を吸収するのだろうか。
「それでは、魔力測定を開始します。ごらんの通りクラス毎に5つ鑑定球を並べてありますので、各クラスで名前を呼ばれた方から順番に触ってもらい、鑑定結果の用紙を受け取って、列に戻ってください」
そこからは悲喜こもごもだった。主に悲が多い、やはり人は誰でも自分の隠された能力は凄い、と思いたいものだが、それが公衆の面前で丸見えにされるのだから。
「うえー、地かよ、地味……」「ええ……一族はだいたい火なのに水!? なにかの間違いじゃないの!?」「風なのは良いけど魔力強度がEって…一般人レベルじゃないですか! 帰らなきゃダメかなぁ」
「良いですかー、属性というのはあくまで得意とするものであって、他の属性が使えないというものではありませんし、属性自体に優劣はありません。
また、魔力強度はAからEの5段階ありますが、あくまで現時点でのものであって、訓練によって伸ばせますので、決して気を落とさないようにー」
などと教師が慰めなのかよくわからない説明をする中、ロザリアの順番が回ってきた。
「次の生徒、ロザリア・ローゼンフェルドさん、前へ」
その名が呼ばれた瞬間、明らかに周囲がざわついた、確かに自分の家格はこの中で一番上だろうが、優越感なぞ感じるはずもなく。ロザリアはひたすらやりにくい、と思った。
『うえ~、どう見ても凄い注目されちゃってるんですけどー! やだもう帰りた~い、これで地味でE判定、みたいな微妙な結果ならどうしたら良いのよー! みんな生まれてからここに来るまで魔力持ちなの隠そうとするはずだわ……』
一般的に学園に入学するまでは魔力持ちかは隠す傾向にあるという。封印が解かれるまでは将来的にどれほどの実力なのか不明なので、いざ解除してたいした魔力もありません、となると普段の素行によっては非常に恥ずかしい思いをするから、という事の意味をロザリアは思い知った。
逃げるわけにも行かないので、ロザリアは返事をして表面上は平静を装ってステージに上がるが、落ち着いて見えるのは見た目だけで、よく見ると足は震えてるわ冷や汗は流してるわと内心大騒ぎだった。
ステージの鑑定球に近づく、優美な装飾の車輪付き木製台座の上に、一抱えもありそうな透明の球体が設置されており、台座にも球体にも精緻な金属の装飾が施されていた。
ロザリアは覚悟を決めて、そっと片手で触れる「両手で触れてください」あわてて両方の手のひらを触れさせる。
すると、手のひらが球体に吸い付くような感覚と共に、透明だった球体の中心に光が灯り、徐々に大きくなる。同時に何もなかったはずの球体表面に何かの光る文字が多数浮かび上がり始めた。
球体が発する光は、最初は白だったのが徐々に赤色に変わり、浮かび上がった文字も装飾の多い豪華なものに変わる。赤い光球が球体の大きさと同じになった所で、今度は周囲がざわつき始める。
「おい塔の方も光り始めたぞ!」誰かの声にハッと前方左右のステージ隅を見てみると、たしかに塔の天辺の透明な球体が同様に光り始めた。
「おいおい、まだ15才だろ!? 一気に5つ光り始めるってとんでもないな!」
背後を見るのは気が引けるので見れないが、教師の発言からすると、どうも四隅の全部が同時に光り始めたらしい、大丈夫なのかしらと思い始めた所で声をかけられた。
「もう良いですよ、手を離してください、とんでもない才能ですね……属性は炎、魔力強度はAです」
何故か鑑定球に手のひらが吸い寄せられるような感覚がして、手を離すのにほんの少し力が要ったが、ロザリアは鑑定書を受け取り、説明を受けた。
「炎? 火ではないのですか?」
「いやぁ、私も最初からいきなり炎なんて初めて見たよ、先程も言っただろう? 火の上位属性だよ。普通は火の属性を持った者が長い長い修練の先にたどり着くものなんだけどね」
「まぁ……、あと、魔力強度A、っていうのは何でしょうか?」
「そちらはどれだけ強い魔法を使えるか、何回使えるか、の目安だね。素晴らしい才能だけれど、実はこれが上限かもしれないし、これから先もっと強くなるかもしれない。
すごい才能だけど力が強すぎて制御できず、逆に大した力を出せないかもしれない、まぁ今の実力が上限だとしても十分過ぎるけどね」
「現状の認定結果だけに惑わされてはならない、というわけですね、良くわかりました、今後も自戒し、使いこなせるよう精進いたしますわ。それでは失礼いたします」
『やった! 凄いレアな属性ゲットしたみたいなんですけど! 炎!? マジ!? チョー格好いいんですけど! 戦隊だとセンターか追加戦士! 〇〇キュアとかだと強キャラポジション!』
ロザリアは内心アゲアゲモードなのだが、周囲の目もあるので、できるだけ表情を抑えて教師に優雅な一礼をし、その場を辞去した。
「すっげ……さすが赤の貴族のご令嬢」「あの人王太子様の婚約者でしょ? 選ばれるだけありますわね」「上位貴族に強力な魔力持ちが多いのって本当なんだなぁ」
列に戻る途中の周囲は羨望と賞賛の声だらけなのだが、ロザリアは内心恥ずかしい事この上無かった
『恥っず!! マジ恥ずい! 何なのこの(ウチ、また何かやっちゃいましたー?)的な感じ!? 確かに地とかだと嫌だなってちょっと思ったけど、火だと格好いいなってもの凄く思ったけどー! あんまりこんな事で自分をアピりたくないんですけどー!!』
羞恥心からかやや早歩きに列に戻ると、今朝校門で出会った”ヒロイン”の少女が列の中にいた、どうも同じクラスだったようだ。
ハッとこちらを見て、怯えたような表情をするが、ロザリアは相手の心証を良くしておこう、と逆にできるだけ優雅な笑顔で微笑みかけた、が、それを見た少女はまた呆然とした顔をする。
『一体何なんなの、いくらウチの役割が悪役令嬢だといっても、さすがにまだ何もしてないんですけどー? ウチ落ち込んじゃうよー?』と若干凹んでいた。
その後、何十人もが鑑定を受けたが、上位属性は出ないどころか、消魔塔が光り始める事もなかなか無く、鑑定球を合わせて2つのD判定が最高だった、やはり自分のはかなり規格外だったのか、とロザリアは改めて自分の魔力の凄さを認識するのだった。
「次、クレアさん、前に出てください」
「は、はい!」
”ヒロイン”の少女が、あわてて走っていく、クレアという名だったのか、とロザリアはクレアの鑑定を見守るのだった。
次回 第21話「ちょっとー!なんだか突然!大変な事になったんだけどー!?」