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第21話「ちょっとー!なんだか突然!大変な事になったんだけどー!?」

「次、クレアさん、前に出てください」

「は、はい!」


ステージ上の教師に(うなが)され、あわてて走っていく少女、その様子を見て周囲の大半を占める貴族子女達から小さな声が上がる。


「あの子家名が無い、って事は平民?」「所作に優雅さの欠片(かけら)もありませんわね……」「よく恥ずかしげも無くここに来られたものだわ」


という周囲のヒソヒソ話に正直イラッと来たロザリアは、

『貴族に生まれたってだけでマウントすんなし! 家名が何だってのよ! 言いたい事があるなら面と向かって言って欲しいんですけどー!!』

という意思と威圧感を、魔力を用いて放ち、周囲を黙らせた。


それでも不満そうに見てくる輩には、『あ”!?』とギャル仕込みのガンを思い切り上品に付ける、ちょっと悪そうな微笑みも混ぜたので、相手は震え上がった。


わずかな悲鳴とともに静まり返った周囲にロザリアは満足はしたが、魔力を解除されるとこんな事ができてしまうのか、と自分の力に少々怖くなってしまった。

思えば、以前の自分が周囲に当たり散らかした時に、その周囲が何も言えなかったのは、無意識に似た事を弱いながらも行っていたのかもしれない。


先程の皆の雰囲気は、魔力を解除されたがゆえの万能感から来るものだったとすると、確かにこれは教育が必要なわけね、と納得し、場合によっては自分の手でシメないと、思うのだった。



「では、クレアさん、両手で触れて下さい」

「はい、あ、あの、私は学校も無い村育ちなので、魔力操作とかそういう教育を一切受けていないのですが、大丈夫でしょうか?」


「ああ、それなら心配いりませんよ、魔力が小さくてもそれを鑑定球が吸い取って増幅して鑑定しますので、全く反応が無いという事はありません、安心して下さい」

「よかった、それでは、触りますね」


クレアが鑑定球に手を近づけた瞬間、両手が物凄い勢いで球に吸い寄せられ、球に張り付いた瞬間、突然鑑定球が白い光と衝撃とともに爆発的な輝き方を始め、同時にステージ四隅の消魔塔も同様に輝き、実習場全体が強烈な光に満たされる。


「え? え? え? えええええええ?」

「何だこの魔力量は! 属性は……光!? 書物にしか載っていないような高位属性だぞ!?」


クレアと教師があわてる中、なおも光は強さを増してゆき、ついには球体からあふれ出て、太い触手のような光の放電現象が何本も粘りつくように辺りをはい回った。不思議とその光はクレアだけをすり抜けている。


「おい危険だ! その漏れた光に触るな! 君! 手を離して! 君の魔力が強すぎる!」

「離れない! 離れないんです! 助けて!」


手を放そうともがくクレアの悲鳴が響く中、どんどん光は強くなり、ついにはステージ四隅の消魔塔が轟音と共に爆発して吹き飛んだ。ステージの中外に破片が飛び散り、多くの生徒達が悲鳴と共に反射的にその場にしゃがみこむ。


「まずい! 魔力を吸収しきれなくなった! このままだと爆発する! 生徒の皆はステージから離れて! 早く! 走れ!!」


血相を変えて叫ぶ教師の声に、生徒たちが一瞬固まった後にパニックを起こし、悲鳴を上げながら一斉に逃げ出して出入口に殺到する、が、全員が一度に出られるはずもなく、あっという間に渋滞を起こして誰も出られなくなってしまった。



「助けて! 誰か助けて! お願い! お願いだから!」


ステージ上ではクレアが何とかして鑑定球から手を離そうもがくが、いくらやっても離れず半狂乱になっていた。


「落ち着いて! 魔力を操作するんだ! まず気を落ち着かせて!」


教師が必死にクレアをなだめるが、それで落ち着くはずもなく、今度はクレアの体が発光を始め、ついにはクレアを中心とした衝撃波が発生し、ステージ上の教師や機材が残らず吹き飛ばされた。教師たちはステージを包むように出現した半球状の光る膜に当たって、ステージ隅に倒れ込む。


「え? あ、あ? あああああああああああ!」


周囲に誰もいなくなった事で、クレアがパニックを起こして絶望的な悲鳴を上げ、どう見ても爆発寸前の危機的状況の中、背後からそっとクレアを抱きしめる者がいた。


「泣かないで、落ち着いて、大丈夫よ。私が側にいるわ」




教師から逃げろ、と言われ、周囲の生徒が皆逃げ出す中、ロザリアは逃げずにむしろステージに近寄って、必死に状況を把握しようとしていた。解除されたばかりの魔法力を、慣れないながらも必死に駆使して分析する。


『あの子、魔力を制御できてない! あのままじゃ魔力爆発が起こる!』

一瞬で四隅の消魔塔が残らず吹き飛んだ事から、ロザリアはこのままではこの実習場だけではすまない事になる、と判断した。

そして、クレアの絶望的な悲鳴が響き渡る。この世で一人ぼっちになったかのような、誰も助けてくれないのを悟ったような。いつか前世の施設で聞いた事のある泣き声。


その瞬間、ロザリアの頭の中は真っ白になり、衝動のままにステージへ駆け上がった、体に当たる魔力による衝撃で傷を負ったり服が切り裂かれるのもかまわず、クレアに駆け寄り、背中から抱きしめる。

悲鳴を上げるクレアを落ち着かせるように、前世で泣き止まない子供をあやしたように、耳元で優しい声をかける。


「泣かないで、落ち着いて、大丈夫よ。私が側にいるわ」


ロザリアの声と背中に感じる温もりに虚を突かれ、クレアの身体から力が抜ける、ロザリアはクレアの胸に、ちょうど心臓の上くらいにそっと自分の手を置く。


「心を落ち着かせて、私の手が触れている所を意識して! できるわね? 大丈夫、私はあなたを置いて逃げたりしないから」

「え……? はい、……はい!」


クレアは自分の胸に置かれたロザリアの手に自分の両手を重ね、必死で落ち着こうとする。


鑑定球からほとばしる光は相変わらず強烈なものの、それ以上大きくなる事は無くなっていた。

ようやくステージ隅まで吹き飛ばされた教師たちが起き上がり、呆然と事態を見守っていた、ステージ周囲の魔力障壁は爆発を外に逃がさない為に衝撃を吸収するものだったので、彼らはむしろほぼ無傷だった。


「大きく息を吸って、もっと! そう、そこから、ゆっくり、息を()いて、吸った時の倍の時間をかけて、焦らないで、時間はあるわ、大丈夫」


ロザリアの声に合わせてクレアが呼吸を整えるごとに、光がどんどん小さくなっていく。


「呼吸を続けて、背筋に、背骨の辺りに熱い感覚を感じるでしょう? それを息を()きながら全身に広げる事をイメージして、手足が熱くなったら、今度は息を吸いながらそれを又背骨に集めて、背骨に集まったらそれを心臓に、私の手のあたりに戻すようにして」


ロザリアは自分が教わった魔力操作の方法を即興で教えていく、クレアが何度も呼吸を続けるうちに光は鑑定球の球体内に収まるサイズにまで小さくなっていた、が、これ以上小さくなる事は無いようだ。


ロザリアはそれを見切ると、「皆さん! 自分を守ってください!」と叫び、教師たちが慌てて自分を守る魔力障壁を展開したのを確認すると、魔力で今の自分にできる限りの身体強化を行い、クレアを背中から抱きしめたまま、思い切り鑑定球を蹴飛ばした。


鑑定球は軽い火花や放電のような光を発しながらクレアの手から離れて吹っ飛び、再び現れたステージ周囲の魔力障壁にぶち当たった。その瞬間、火花や光と共に大爆発が起こり、魔力障壁を道連れに木端微塵に砕け散る。

ロザリアはとっさに自分の分の魔力障壁を展開している暇はない、と、その爆発からクレアをかばった。

爆発の衝撃が収まっても、しばし2人は抱き合ったまま、荒い息を落ち着ける。落ち着いた瞬間、2人はその場に倒れ込んだ。



「大丈夫? クレアさん?」

「はい、あの、ありがとうございます……ロザリア! さん!?」


隣に倒れている、自分を助けてくれた者が誰かを知り、クレアがあわてて起き上がり、呆然とした目でロザリアを見る。


「どうして、助けてくれたんですか? こんな、危険な、死ぬかも知れなかったのに」

「んー? それは、目の前で困っている人がいたら、助けようとするのは当たり前でしょう?」

「ロザリアさん……その腕! 背中から、血が!」


ロザリアは両腕と背中に酷いケガをしていた、背中から流れ出る血がだんだんと周囲に広がり、隣のクレアの(ひざ)を濡らす。鑑定球から漏れ出た魔力で腕を、背中は先ほどの鑑定球の爆発で負傷したようだ。

酷いケガにもかかわらず、ロザリアはもう何の痛みも感じなくなっていた。


「ああ、これ、気にしないで、そんなに痛くないから、あなたが無事で良かったわ」

「ロザリアさん、駄目!目を閉じないで!意識をしっかり持って!誰か!誰か!ロザリアさんが!」


クレアの悲鳴を聞いて、いつかの事故のようだな、とロザリアはぼんやりと思い出していたが、クレアの声がだんだんと、遠く、なる、


『あー、またやらかしたー。これで3回目かー、これは、さすがに死んだかなー。アデル、絶対怒るよねー、リュドヴィック様……』

そして、ロザリアの意識は闇へと落ちていった。


次回 第22話「悪役令嬢ロザリア、再びの目覚め」

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