アルビレオの邂逅 16
『言葉足らずなのかなんなのか本当にわからないな、君たちは』
「想い足らずじゃないだけいいでしょ……」
確かにそうかもしれない部分もあるが、とミユキは唇を尖らせた。
明るい午後の日。お茶を飲みつつミユキはスピーカーにしたスマートフォンと話していた。
『で、君はいつまでそこにいるんだ?』
「いつまでも」
ミユキは即答した。
「居住、という意味では今後動く可能性は全然あるけどね。でもまだ暫くこの国にいると思うよ。───あちこちに顔を出すことはたくさんあってもね」
そして、
「───ともりと一緒に、ずっといる」
それが答え。
漸く出せた、ミユキの答え。
傷も痛みも抱え出した、ミユキが心から愛する答え。
───ひとはそれを、幸せと呼ぶ。
「困ったことがあったら、ともりと相談しながら進む。ともりと選ぶ。───ずっとずっと、そうする」
『───そうか』
微かに歪む音の向こうで、───どこか安堵したような声。
『そうか』
「───うん」
彼を識るひと。
ミユキがずっとずっと想っていると、識っているひと。
それでも愛情は、死んだわけじゃない。失くしたわけじゃない。
───だってひとは、そうやって愛し愛されていくから。
「───生きてるって、そういうことでしょ?」
ノイズの向こうに向かって、ミユキは微笑った。
『そうだな。───だから僕たちは』
「大丈夫なんだ」
微笑う。───幸せに。
漸く出せた答えの向こう側で。
「ただいま、みーさん」
「おかえり、ともり」
夕食を用意していると恋人が帰って来た。恋人。なんだかすごい。
「恋人……本当に素敵な響き……」
「思考にするっと入って来るねともりは……」
口に出してはいなかったのだが。まあいいけれど。
「ただいま俺の最愛、恋人、愛しいひと、俺の唯一絶対、俺の」
「それまだ続くかなあ!」
「逆に何故続かないと思うの」
「強い、恋人が強い」
破壊力を更に増していたともりが微笑い───ミユキを抱きしめる。
「ただいま。───ミユキ」
「おかえりなさい。───ともり」
ただいま、おかえり。───たったこれだけで。
二人でいるだけで。
心が満たされ、輝く。───これ以上なく。
「……ずっと続くよ。ずっとずっと」
「うん。───うん」
頰を撫でる指先があたたかい。
抱きしめる手の温度が愛おしい。
そうだね、と微笑むと、同じようにともりも笑った。
〈 アルビレオの邂逅 アルビレオの呼応 〉




