第1話 恋人同士になりました。
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夜の寮は静かだった。
消灯時間を過ぎた廊下には人影もなく、聞こえるのは空調音だけ。
その静寂の中で、真砂静はベッドに寝転びながらスマホを眺めていた。
スマホの画面をスクロールしても、気になるトピックスはない。
「!」
もう弄るのを止めようかと上体を起こすと、ドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
ドアを開けると、立っていたのは水瀬優牙だった。
いつもの無表情で静を見ている。
「水瀬くん、どうしたの?」
「ちょっとだけ……」
「うん?」
「……話したい」
「いいよ、おいで」
静がベッドに腰掛けて手招きすると、優牙は隣へ座った。
二人の肩が軽く触れる。
普段なら気にしない距離なのに、静はなぜか意識してしまった。
「水瀬くんがこの時間に来てくれるなんて珍しいね」
「そう?」
「それで話って?」
「……うん」
短い返事。
優牙はなにか言いたそうに視線を泳がせている。
「悩み事?」
「悩み事じゃない」
「じゃあなに?」
「俺、先輩といるの落ち着く」
「っ?」
さらりと言われて、静は一瞬言葉を失った。
優牙は天然だ。
だから、こういうことを平気で言うが、言われた側はたまらない。
「……そりゃあ、どうも」
「うん」
優牙は満足そうに頷いた。
「………」
「………」
二人の間に沈黙が流れるが、気まずくはない。
しばらくして、優牙が口を開く。
「先輩」
「ん?」
「最近、他のやつといること多い」
「そう?」
「そう」
即答だった。
少しだけ拗ねたような声。
そのことに気付いて、静は思わず笑ってしまう。
「嫉妬?」
「………」
「図星じゃん」
「違う」
「顔に書いてあるよ」
「違う違う」
否定しながらも、優牙の耳が少し赤い。
静は堪えきれず吹き出した。
「かわいいなぁ~」
「かわいくない」
「いーや、かわいいよ」
「……真砂先輩の方がかわいい」
「は?」
優牙は真顔で静を見ている。
冗談ではないらしい。
「先輩は優しい」
「普通だよ」
「優しい」
「………」
「だから好き」
好き。
その二文字が静の頭の中で何度も反響する。
優牙は真っ直ぐ静を見つめている。
サッカーをしている時と同じ目。
だからこそ、優牙が本気だと分かってしまう。
「それ、どういう意味の?」
静は自分でも情けないくらい小さな声だと思った。
付き合ってるのに、意味を尋ねるなんておかしな話だ。
「恋愛の方」
「っ!」
即答され、静は思わず両手で顔を覆う。
「反則だよ……」
「?」
「そんな真顔で言わないで」
「だめ?」
「だめじゃないけど……」
優牙は首を傾げる。
本当に分かっていないらしく、静はため息をついた。
「……僕も」
「?」
「水瀬くんのこと、好きだよ」
「………」
数秒の沈黙。
優牙の目が少しだけ見開かれていた。
感情表現が少ない優牙にしては珍しい反応だった。
「ほんと?」
「ほんと」
「……嬉しい」
そう言って優牙は静の肩に頭を預ける。
まるで安心した猫のようだった。
「近い近い」
「いや?」
「……いやじゃないけど」
「よかった」
小さく笑う優牙。
その笑顔を見た瞬間、静は優牙には勝てないなと思った。
サッカーでも恋でも、きっとこの先ずっと。
静がそっと優牙の手を握ると、握り返してくれた。
静かな夜の中で、二人だけの秘密を確かめるように。
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