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 その後、クラスの女子から聞いた。浦田は、残念イケメンとして有名らしい。


 入学当初は、あのルックスが注目を集め、女子から大人気だった。しかしだんだん、彼女たちは浦田の奇行に気づきはじめた。

 浦田は毎日、朝の星占いで提示されたラッキーアイテムを探し歩いているのだ。折角顔が良くても、お釣りがくるほど変人なのである。


 それは俺も、数日で痛感した。

 翌日の朝、早速浦田が教室に顔を覗かせた。


「樫屋、底の抜けてる紙袋持ってるか?」


「袋として終わってんのに入手してどうすんだよ」


「ラッキーアイテムだから」


「まあ、持ってるけど」


 俺はロッカーの端っこに詰めていた、底のない紙袋を取り出した。

 その翌日も、浦田が来た。


「パソコンのキーボードのLのキーだけ、持ってる?」


「それ、キーボード本体はLが外れてる状態なわけだが」


「でもLのキーがラッキーアイテムだから」


「まあ、持ってるけど」


 俺はペンケースの中に忍ばせていたLを、浦田の手のひらに置いた。

 そのまた翌日も。


「三分の一だけ残ってる冷凍うどん、ある?」


「どういう状況だよ」


「仕方ないだろ、それがラッキーアイテムなんだ」


「まあ、持ってるけど」


 俺は鞄の中の保冷バッグから、開封済みだけれど丁寧に口を閉じた冷凍うどんを出した。


 彼は毎日、ラッキーアイテムを借りに来た。

 そしてその度に俺は、なんやかんやで貸せた。


「占いのラッキーアイテムが『三分の一だけ残ってる冷凍うどん』ってなんなんだよ。どんな占いだよ」


 頭を抱える俺を、クラスメイトたちが困惑した顔で見ている。


「変なもん借りに来る浦田はもちろん変人だけど、全部貸せてる樫屋も大概変人だぞ……」


「なんかたまたま偶然持ってたんだよ。紙袋は袋として使えなくても雑紙として使えることもあるから取っておくし、Lは外れちゃったやつあとで直そうと思ってなくさないように持ってたし、冷凍うどんは、小腹が空いたときのために……」


 浦田が注文してくるアイテムは、いつも斜め上である。一体どんな変な占いを見ているのだろう。クラスメイトたちの言うとおり、それに全て応えられてしまう俺も俺なのだが。

 

 知り合ってから二週間くらい、浦田は毎日俺を頼りに来た。

 ヒビの入ったビー玉、使いかけの白い絵の具、残量がギリギリあるかないかの単四乾電池、片方だけの箸。わけの分からないラッキーアイテムを求められる日々が続いた。


 今日も誰かが俺の元へ駆け込んでくる。


「樫屋ー! 家庭科で使う糸忘れた。青いミシン糸、持ってる?」


「持ってるよ。はい」


「樫屋、糊ある?」


「あるよ。はい」


 同じクラスはもちろん、よそのクラスや他の学年の人までもがやってくる。いろいろと貸し出しているところへ、別のクラスの先生が顔を覗かせた。


「樫屋。赤ペン貸してくれ」


「はい」


 先生まで借りに来る。

 当然、兄貴も来る。


「洸平ー! 悪い、今日は調理実習なの忘れてた。パン粉とバター持ってるか!?」


「そう言うと思って、持ってきておいてよかったよ。小麦粉は?」


「そうだった、小麦粉も要るんだった。貸して、てか頂戴」


 兄貴は俺の準備のよさにしっかり甘える。本当は俺を頼らず自分で用意するように、躾したいところである。今日も寝坊していた上に、朝からだらだらスマホを見ていてなかなか布団から出てこなかったし、そうやって遅刻ギリギリになって慌てるから忘れ物するんだし。

 兄貴が教室から出ていくと、次にドアから遠慮がちに覗いてきたのは、浦田だった。


「今日のラッキーアイテムは期限切れのクーポンだ。ハンバーガーとポテトの。持ってる?」


「そんなもんラッキーアイテムにしてる占いってなんなの? そんな占い見ない方が良くない? まあ、持ってるけど」


 貸し出しを求められるのは、大抵、文房具か教科書とかだけれど、浦田だけは毎回予想もできないようなものを借りに来る。

 期限切れのクーポンを差し出すと、浦田はまるで宝物みたいに受け取った。


「これ見てたらハンバーガー食べたくなってきたな。樫屋、今日の放課後、暇か? ハンバーガー食べに行こう」


「クーポンの期限、切れてるのに?」


「別に定価を払えばいいだけだろ。ここんところ、樫屋の世話になってばっかりだし、たまにはお礼に奢らせてくれ」


 たしかに毎日のように、こいつになにか貸している。意味不明なものを貸してほしがるぶん、兄貴以上にタチが悪い。

 浦田とは物を貸すだけの関係であって、それ以外の会話はしたことがない。こいつとハンバーガーを食べに行くのも、一対一で喋る良い機会かもしれない。特に断る理由もないし、放課後は腹が減るし。


「そう言ってくれるなら奢ってもらおう。じゃ、放課後な」


「よし、ポテトも好きなだけ頼んでいいからな」


 浦田は嬉しそうに微笑んで、クーポンをポケットにしまった。



「浦田はさあ、占いなんて信じてんのか? マジのマジに?」


 放課後、俺たちは約束どおり駅前のハンバーガーショップに入った。制服姿の学生で混み合う店内。窓際の席に座って、ハンバーガーとポテトに手を伸ばす。

 俺の質問に、浦田はあっさり首を横に振った。


「信じてるわけない」


「そこはせめて信じてろよ。信じてないなら、なんで毎日ラッキーアイテム探してんの」


 ポテトをかじる俺と向かい合い、浦田はハンバーガーの包み紙を指先でいじりながら言った。


「俺、寮に住んでてさ」


「あ、寮生なんだ」


「家が遠くて通うの大変な距離だからな。で、まあその寮が、住みはじめたばっかなこともあって、なんもないんだ」


 学校が所有している学生寮は、最低限の家具や家電があるだけだと聞く。個人の私物を持ち込むのは自由だが、快適な部屋に最適化していくまでには、時間がかかる。


「娯楽がSNSしかない」


「現代病って感じがするな」


 浦田の部屋は今、シンプルすぎて娯楽がないのだ。彼はハンバーガーを食べ、ストローでシェイクを飲んで、続けた。


「朝起きてからぼーっとSNS見てたら、毎日更新する占いアカウントを見つけてな。星座ごとにラッキーアイテムが発表される」


「あー、数少ない娯楽がそれだから、ラッキーアイテム探してんのか!」


「そう。なんか宝探しみたいで、面白いし」


 ああ、なるほど。それが浦田の奇行の動機か。


「占いを信じてるんじゃなくて、その日の最初に提示されたアイテムを探す遊びをしてるってことか」


「分かってくれたか」


「いや、分かんねーけど。でも探すのが楽しみなら、俺に言えば解決しちゃうの楽しくなくない?」


 どうしても見つからなかったときの最終手段にするならまだしも、朝から俺のところに来てしまうのでは、折角の宝探しが一瞬で終わってしまうではないか。

 浦田は虚空を見上げて少し考えたのち、言った。


「……たしかに!」


「だろ?」


「でも、ラッキーアイテムっていうからには一日の早いうちに手に入れたほうがいい。ラッキーアイテム探しはリアルタイムアタックだ」


 浦田は占いにゲーム性を見いだしている。


「なによりサボテンとか三分の一冷凍うどんなんて、見つけようがない。樫屋に借りる以外にクリアの手段がない」


「それもそうか」


 じゃあ、もっと見つけやすいアイテムを提示してくる占いを見ればいいのに……。浦田はハンバーガーを食べ進めつつ、言った。


「樫屋が毎回ちゃんと持ってるのも、面白い」


「面白がってんのかよ。俺だってなんで持ってるのか、自分でもよく分かんないよ」


 俺はストローで、氷をカラカラと鳴らした。今度は浦田の方から質問してきた。


「それ疑問だったんだよ。なんで樫屋はなんでも持ってるんだ?」


「だらしねえ兄貴がいるから。兄貴が忘れ物する前提で準備してるから、次第に必要以上に入念に備えるようになった感じだな」


 俺の返事に、浦田はふうんと鼻を鳴らした。


「元は兄貴のためか。じゃ、兄貴以外からも『貸して貸して』って人が来んの、迷惑じゃねーの?」


「迷惑ではないけど……全然知らない人からも便利屋扱いされるのは、まあ、ちょっとモヤッとしないこともない」


 ハンバーガーの残りのひと欠片を口に突っ込み、飲み込む。自分の中で、自分の気持ちを呑み込むように、答えた。


「でも俺は他に取り柄がないから、人様の役に立たてるなら、便利屋でも良いかなと思ってる」


「そっか……」


 浦田はそう呟いて、カップの底のシェイクをストローで啜った。


「樫屋は何座?」


「ん? かに座だけど?」


 俺が答えると、浦田はスマホを指でつつきはじめた。


「樫屋のラッキーアイテム見る」


「いいよ、どうでも」


 俺の投げやりな返事も気にせず、彼はSNSの画面を俺に掲げた。


「かに座のラッキーアイテムは、しなしなになったフライドポテトだって。はい、食べて」


「お、おお。うん、しなしなのポテト好きだけど」


 俺は紙ケースの底にへばりつくポテトを、指でつまんだ。

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