第6話 再会
本編の前に、本作における冒険者のランク分けについて軽く解説しておきます。
・D級:初心者(駆け出し)
・C級:最も人数が多い層
・B級:一般冒険者の終着点
・A級:冒険者の最高位。昇級試練に挑む者はごく少数のみ。
・「二つ名」付きのA級:A級クエストで多数の実績を残し、他者からの推薦を経て獲得できる特別な階級。
会場はすでに一番の盛り上がりを見せていた。
午前中の激しいバトルを勝ち抜き、大会はいよいよ注目の決勝を迎えた。
司会のバルガスがリングの真ん中に立ち、声を拡張する魔法で叫んだ。
「野次馬共! 次のバトルで、あの金貨5枚とボーナスが誰の手に渡るかが決まるぜ! まずは予選から大暴れしてるCランク魔法剣士、リネアだ!」
大きな声援の中、リネアがリングに上がる。
その目は相変わらず、景品の台に鎮座する『無垢月光草』に釘付けだった。
「そして相手は……」
バルガスはコホンと咳払いをし、突然声のトーンを上げた。
「北の国からの特別ゲスト! Aランク冒険者、『エリート』トゴルトだ!」
その言葉と共に、ミスリルの軽い鎧を着た、細身の剣を持つイケメン剣士がリングに上がった。
VIP席からの大きな拍手を浴びながら、その顔にはトップクラスの強者らしい自信たっぷりの笑みを浮かべている。
「ちょっと待ちなさいよ!」
リネアは振り返り、トゴルトを指差して大声で文句を言った。
「ふざけないで! ランクアップのテストに、なんで二つ名持ちのAランクが出てるのよ! Aランクより上なんてないじゃない!」
バルガスは困った顔をして、魔法で「小声」にしてリネアに説明した。(もちろん会場全体に丸聞こえだ)
「スポンサーの貴族サマたちが出した条件なんだよ……雛鳥同士の小競り合いじゃなく、『ルーキーが壁に挑む』熱いバトルが見たいってな。安心しろ、いい動きを見せれば、負けてもランクアップと賞金は約束されてるルールだぜ!」
「つまり、こいつを倒さないと、優勝の月光草はもらえないってことね……」
リネアはギリッと歯を食いしばり、トゴルトを睨みつけた。その目にはメラメラと闘志が燃え上がっている。
「さあ、おいで、お嬢ちゃん」
トゴルトは綺麗に剣をくるりと回した。「おれ様が手加減してやるよ」
「馬鹿にしないでよ、特権階級の犬が!」
カーン!
ゴングが鳴ると同時に、リネアは躊躇うことなく全力を出した。
いつもの片手剣ではなく、腰を低くして2本の特製ショートソードを引き抜く。
エルフの強い魔力が、一瞬で剣に注ぎ込まれる。
2本の刃には、荒れ狂う青い風と、バチバチと音を立てる眩しい雷が纏わりついた。
それと同時に、彼女は手品のように腰からカラフルな薬瓶を4、5個取り出し、トゴルトとリングの周りへ一気に投げつけた。
パリンッ! パリンッ! パリンッ!
瓶が割れた瞬間、様々な化学の煙が噴き上がった。
ツンとする赤い煙、前が見えなくなる黒い霧、少し麻痺の毒がある紫の粉……それらがリングを包み込み、会場はあっという間にカオスと化した。
「なんだこれは!?」
トゴルトは少し眉をひそめ、剣を振って煙を散らそうとする。
前が見えなくなったその瞬間、リネアが幽霊のように煙の中から飛び出した。
風と雷を纏った2本の剣が嵐のように、トゴルトの急所めがけて、容赦のない連打を叩き込む。
ガキンッ! キンッ! ガガガッ!
煙の中で、金属がぶつかる火花が激しく散る。
リネアの攻撃は凄まじく、一発一発に捨て身の覚悟がこもっていた。
トゴルトはすぐに余裕の笑みを消した。
目の前のハーフエルフが、ただのCランクなんてものではないと気がついたのだ。
だがA級として、彼の実力はやはり一枚上手だった。
リネアの嵐のような双剣を前にしても、トゴルトはいつもギリギリの所で、ピタリとその刃を弾き返していた。
リネアがどれだけ速く動いても、トゴルトは常に半テンポ速い。
雷の斬り込みがどれほど鋭くても、あの細い剣はさらに嫌な角度からガードをすり抜けてくる。
すべての動きが封じられ、常に相手にリードされるプレッシャーで、リネアの息はどんどん荒くなる。
これこそが、冒険者のランクの間にそびえ立つ、小さく見えて絶対に越えられない高い壁だ。
「そこまでだ」
リネアの攻撃を30回以上防いだ後、トゴルトは彼女が息継ぎをするほんのわずかな隙を見逃さなかった。
彼は強いオーラを爆発させ、リネアの2本の剣をポンと跳ね除けると、そのまま重たい蹴りを彼女の腹に叩き込んだ。
「ぐっ!」
リネアはうめき声を上げて吹き飛ばされ、リングの縁に重く叩きつけられた。手の中の剣も地面に落ちる。
「勝負ありだな」
トゴルトは格好良くマントを揺らし、細身の剣を掲げてニヤリと笑った。
「この剣の光の前では、すべては無駄だ。諦めな、お嬢ちゃんよ!」
彼は勝ちを決める最後の一発を入れようと、前に歩み出た。
その瞬間、リングの下、選手の通路にある重たい鉄の扉が「バンッ」と音を立てて開いた。
ついさっき地下で暗殺者を倒したばかりのローウェンだ。
体に薄い血の匂いと「マジで事後処理やりたくない」という不満をたっぷり溜め込み、表情ひとつ変えずに歩いてきた。バルガスを探すつもりらしい。
トゴルトが最後の一発を振り下ろそうとした時、視線の隅にその男が映った。
トゴルトは何気なくチラリと見て、高く掲げた剣をそのままピタリと止めた。
幾つもの死線を越えてきたA級冒険者の頭の中が、その瞬間、真っ白になった。
(待て、あの死んだ魚のような目……ローウェン!? なんであいつがこんな田舎にいるんだ!?)
自分がまだ決勝のリングの上にいることもすっかり忘れ、ローウェンの無表情な顔を見つめたまま、丸太のように固まってしまった。
リネアは、こいつがなぜ急にボーッとしたのかなんて気にしない。
相手がとんでもない隙を見せたのを見て、体を半分起こしたリネアは躊躇わなかった。
体に残ったすべてのエルフの魔力を、右の拳にギュッと集める。
「余所見してんじゃないわよ!」
大声と共に、魔力でパワーアップしたリネアの右ストレートが、大砲のようにトゴルトの顔面に遠慮なくクリーンヒットした。
ドゴォォォン!!!
顎が砕けるような、鈍い音が会場に響き渡る。
トゴルトの顔面は魔力のパンチで無残に歪み、悲鳴を上げる暇すらなかった。
ジャストミートされたボールのように、観客がポカンとする中で空中を3回転し、そのままリングの外へとドスンと落ちていった。
会場がシーンと静まり返る。
そのとんでもない一発のパンチによって、この「昇級テスト」は、パニックと大騒ぎの中でドラマチックに終わってしまった。
その後の流れは、バルガスがものすごく適当に処理した。
最速のスピードで金貨5枚をリネアの手にねじ込み、顔にでっかいタンコブを作って気を失っているトゴルトを医務室へ運ばせる。
最後にそれっぽい挨拶をして、貴族たちが帰る馬車を用意すると、そそくさと大会の終わりを告げた。
夕方。スタート村のギルドマスターの部屋。
「……つまり、そういうことだ。相手の武器には魔王軍の邪気が残っていた。ただのテロ事件じゃない」
ローウェンはへし折れた2本の毒ナイフと、マントの男から回収した所持品を机の上に放り投げた。
バルガスは机の上を見て顔を青くし、額から冷や汗を流した。
「魔王軍が絡んでるだと……。うちみたいな田舎の『事後処理班』がどうにかできるレベルじゃねえぞ!」
「後で各国のギルドと本部に報告書を送って、北の連中がどう動くか見るしかねえな。でかいトラブルは上の奴らに任せようぜ!」
バルガスは無理やり落ち着いたふりをして言った。
その時、執務室の扉が「バンッ!」と勢いよく開け放たれた。
「ギルドマスター! どこに隠れてるのよ!」
息を切らせたリネアが部屋に飛び込んでくるなり、バルガスの机に両手をついて身を乗り出した。
「大会が終わってからずっと探してたのよ! さあ、早くあたしの優勝の月光草を渡しなさい!」
いきなりの乱入に、バルガスはビクッと肩を揺らした。ローウェンはというと、厄介事が増えたのを感じて、ただ面倒くさそうに半歩後ろへ下がっただけだった。
「わ、わかったから机を叩くな!」
バルガスはやれやれとため息をつき、引き出しを開けた。
うっすらと光る『無垢月光草』が入った特製のガラス瓶を取り出し、彼女に手渡す。
瓶を受け取ったリネアは、珍しく子供のようにはしゃいだ、マッドな顔になった。「やった! これよ! 混じりっ気のない完璧な魔力……昔、古い本で見たのと同じだわ!」
リネアは目をキラキラさせて瓶を見つめた。
「これのためにエルフの森の周りをひっくり返して探したのに見つからなくて、最後には中のエルフたちから『100年立ち入り禁止』の手配書まで出されたのよ。今日、ついに手に入れたわ! ふふふふっ!」
ローウェンは横で彼女を見ながら、心の中で静かに突っ込んだ。
(エルフの土地でいったい何をやらかせば、100年も立ち入り禁止になるんだ……)
「これがあれば、『万能調和剤』の完成まであと一歩よ! えへ、えへへ……」
リネアはガラス瓶をきつく抱きしめ、ぞっとするような笑い声を上げた。
……
夜。スタート村の酒場「断剣」は、ものすごい人ごみで、焼けた肉と安物の酒の匂いが溢れていた。
「おやっさん! 今夜はみんなの分、あたしのおごりよ!」
金貨5枚の賞金をもらい、最高の研究素材を手に入れたリネアは、珍しく気前がよかった。
ピカピカの金貨1枚をカウンターに叩きつけると、酒場の中に耳が痛くなるほどの大きな声援が爆発した。
「おおーっ! エルフのねーちゃん、バンザイ!」
「カンパーイ!」
ローウェンは隅の木のテーブルに座り、黙って酒を飲んでいた。
「で、あんたは地下水道でどんなトラブルにあったのよ?」
リネアは肉を大きくかじりながら、興味津々で聞いた。「面倒くさがりのあんたが剣を抜くなんて、よっぽどでしょ?」
「別になにも。ただの迷子の馬鹿がいただけだ。もう片付けたよ」
ローウェンは適当にごまかした。あんな面倒なことは、もう思い出したくもない。
その時、酒場の重たい木の扉が開いた。
背の高い男が入ってくる。
酒場の騒ぎ声が一瞬ピタッと止まり、多くの冒険者がプッと吹き出すのを我慢した。
やって来たのは、昼間にリングで大恥をかいたAランク冒険者、トゴルトだったからだ。
元はイケメンだった彼の顔の左半分には、ボールみたいな大きさの青あざとタンコブができていて、とても間抜けな顔になっている。
トゴルトはキョロキョロと周りを見て、すぐに隅に座るローウェンを見つけた。
周りの目なんかまったく気にせず、大股でこちらへ歩いてくる。
「やっぱりな!」
トゴルトはローウェンの机をバンッと叩き、彼の鼻を指差して大声で叫んだ。
「お前、ローウェンだろう!? あの『不動』ローウェンだ!」
ローウェンは黙って木のジョッキを置き、頭が痛そうに眉間を揉んだ。
「はぁ……マジでお前にだけはバレたくなかったんだが」
「何言ってんだよ!」
トゴルトは遠慮なく椅子を引き、ローウェンの前に座った。顔のタンコブをさすりながら笑う。
「元はと言えば、お前が本部の偉いさんと酒を飲んで適当なことを言ったせいで、この尻拭い専門の『事後処理班』なんてものができたんだろうが! ギルドにいる限り、いつかは会うに決まってるぜ!」
この噂話を聞いて、リネアは肉を食べる手をピタッと止めた。
彼女はゆっくりと首を向け、グリーンの目でローウェンをじっと見つめた。
目がキラキラしている。「酒に酔って新しいチームを作った」というとんでもない話に、恐ろしく興味を惹かれたらしい。
「へぇ? ギルドの事後処理班って、あんたが作ったの?」
リネアはからかうように、面白そうに聞いた。
相棒の興味津々な視線と、目の前にいる昔の仲間のニヤニヤした笑いを受けて、ローウェンは仕方なく、ただでさえボサボサの髪をガシガシと掻いた。
彼はごまかすように酒のジョッキを持ち上げて、小さくため息をついた。
「その話は……また今度だ」




