移動開始
次の依頼が決定してすぐに私達は準備を開始した。
長距離移動になるし、長い間野宿となりそうだから念入りに。
準備をするだけで、前回のゾンビ討伐の報酬はスッカラカンだよ。
新しい装備の新調も出来なかったし、やっぱり距離があると苦労するね。
でも本当、いつも思うけどマジックバックって凄く便利だよ。
沢山は居るし、どんな状況でも使用できるって凄いよね。
確か魔法を無効化する魔法でも無効化出来ないし、もっと研究しないと。
「馬車の用意が出来ました。問題は誰が馬を操るかですね」
「そこら辺も手配しておいてよ…」
「手配しようと思ったんですが、条件がね。
流石に巨人のアンデッドを討伐にって言うと嫌がるんですよ。
普通の人であればね。
更に共に移動する冒険者というのも勇者候補とその補佐。
リトさんの名は知れ渡っているとは言え
1人に命を預けるというのは不安なのでしょう」
「うーん…私は基本的に移動は徒歩だから馬術は…」
「私もエルフの村に住んでただけであまり外には出歩いてない。
それに立場上は里の長。遠出となっても村の者が馬を操ってた」
「私はそもそも馬とか…うぅ、ど、どうしよう…」
「なら、私が操りましょうか? 馬」
「…え? エルちゃん、そんな事も出来るの?」
「ま、まぁ…」
勇者様と一緒に冒険してたときに何度か馬は操ってた記憶がある。
後はお姉様達を送り迎えするときに私が馬を操ってって事も多かった。
殆どお姉様達は城から出ないけど、たまに暇だと言って出るからね。
そう言う場合は大体、村というか国が1つ地図から消えてたけど…
「ちょっと芸達者すぎません?
エルさんってそこまで出歩いていたんですか?
高い魔法技術と高い探索能力や家事スキル。あなたほどの年齢で
そこまで同時に持てるとは思えませんが…」
「ま、魔法を調べてたりすると、色々な本を読むんですよ!
その本を暇つぶしとかでちょっと読んだら、大体試したくなって…
お、思い立ったが吉日って言いますし、こう積極的に…」
「……ふーむ、まぁ良いでしょう。出来ると言うなら…
本来なら私が出来れば良いだけの話なのに
出来ないからこんな事態になってるわけですし…詮索しません」
「詮索だなんて、疑いすぎですよー」
うぅ、あまり下手な事は言えないなぁ…
「うーん、エルちゃんみたいに私も色々と出来るようになりたいなぁ…」
「私も…と言うか、私が出来る事って何があったかしら…」
「私の予想では戦う事しか出来ないかと」
「あの…酷すぎない? 一応、私は独り身よ。
炊事洗濯くらいはこなせるって…エルちゃんやミリア程じゃ無いけど」
「炊事洗濯が出来るのであれば、部屋を汚さないでください」
「出来ると言っただけでやるとは言ってないからね」
「……」
「ごめんなさい、いやほら、出来るけどやらないって言うか
ほら、何か別の事に夢中になってたら出来ないと言うかやる気が出ないというか」
「私も二日酔いになりましたが
ちゃんと気持ち悪いとか言いながらやりましたよ?」
「うぅ…そ、それは性格って奴ね…」
「……はぁ、そんなんだから独り身なんですよ、あなたは」
「あなたが言うの? 特大のブーメランでしょ?」
「ぐぅ…」
ま、まぁ、夜遅くまでお酒飲んでたし、結婚はしてないよね…
「こ、これでも恋はした事あるんですよ!」
「え!? マジで!? 私はした事無いのに!?」
「し、した事無いんですか? あなた」
「まぁ…最低限の条件が私より強い人って条件だし」
「……それは、また随分とハードルが高いですね。
さてまぁ、こうなるとミリアさんの恋愛経験を知りたくなりますね」
「私はそう言う経験無いぞ? 気になる奴は居たが」
「ふむふむ、詳しく」
「……所で、恋バナをして居る暇があるのか? 時間は大丈夫なのか?
状況的にあまりのんびり出来るとは思えないが」
「た、確かにそうね…アンデッドの巨人が居るってなるとその被害は未知数。
あまりのんびり話をする余裕は無いかしら。じゃあ、移動中にしましょうか」
「最初からそれで良かったじゃないか…」
若干恋バナに花が咲きそうになったけど、私達は移動をした。
馬車を操るのは私がする事になった。
当然と言えば当然なんだけどね、私くらいしか馬を操れないから。
それにしてもこの馬車、あまり広い範囲を見渡せないね。
窓は小さいし、監視の目を何処かに増やしておきたい。
周囲を見渡せるような位置に誰かを配置する。
候補は1人…いや、1匹しか居ないけど。
「…さてと、出て来てウルルちゃん!」
私はすぐに魔法陣を召喚して、ウルルちゃんを呼び出した。
「ウルル! お呼びとあらばいつでも!」
魔法陣を組んでウルルちゃんを呼び出すとやっぱりすぐに出て来てくれた。
元気よく魔法陣から飛び出して、1回転して着地。その動作は必要なのかな?
「ごめんね、ウルルちゃん、お手伝いをして欲しいの」
「はい! 何なりと! 例えご主人の為に命を捨てろと言われても
このウルル! 一切の躊躇いなくこの命を捧げましょう!」
「そ、そう言うんじゃ無いの…ちょっと馬車で移動しようと思うから
移動してる間、馬車の屋根上に待機して、周囲を監視して欲しいの」
「はい! お安いご用です! 何かあればご報告します!」
「うん、お願いね」
私の指示を聞いてすぐにウルルちゃんは馬車の屋根に移動してお座りをした。
そして、周囲を厳重に警戒してくれてる。
これで視界の問題は確保できるね。
「じゃあ、移動を始めましょうか」
「そうね、しかし、ウルルちゃん可愛いわねぇ…
屋根上じゃ無くて、私達の癒やし担当として馬車の中に」
「監視の目は多い方が良いですし、あそこは周囲を360度見渡せます。
それにウルルちゃんは鼻も良いから、異変に即座に気付いてくれますからね。
視界が悪い馬車ですし、監視役は必要ですよ」
「まぁそうよね、この馬車視界悪すぎ」
「す、すみません…急いで手配したのでそこまで気が回りませんでした…」
「あなたって、結構ドジよね」
「ま、まぁ…否定はしませんが、こ、これでも有能な方なんですよ!?」
「まぁ、あなたが有能なのは認めるけどさ」
専属受付嬢としては死亡率はかなり低い方らしいからね。
取り扱う依頼が高難易度の物ばかりだし、死亡率が高いのが普通らしいけどね。
そうだよね、最高ランクの冒険者が行なう依頼なんて想定外が多いのは当然。
そんな危険な相手の情報を事細かに集められるとも思えないし
どうしてもイレギュラーが起こる。死亡率が高いのは必然と言えるかな。
「あぁ、そうだミザリー姉ちゃん、危険度ってあるの?」
「巨人族のアンデッドですか? そうですね、危険度は未知数です。
情報が全くありませんからね。ただ推定としてSSランクはあるでしょう」
「容赦ないのね、依頼内容。エルちゃんとリズちゃんのペンダントを見なさい。
赤よ? 冒険者としてのレベルはまだAランクでしょ、あれ」
「はいそうですね、普通なら避ける依頼ですが…あの2人ですからね。
あのペンダント、さっさと変えて銀とか…いや、金にした方が良い気がします」
「おぉ! 最高ランク!」
「実績だけ見れば、最高ランクの実力はあるからな…ミルレール撃退してるし」
「それはほぼエルちゃん単独の功績で、更に言えばミルレールの油断の結果よ。
そうだ、ミルレールの危険度があるとすれば、どれ位?」
「ま、魔王の娘の1人ですよね…危険度…とか付けられるレベルなんですか?」
危険度で言えば最高ランク以上の危険な存在なんだよね、ミルレールお姉様。
単身で国1つは容易に破壊できる実力があるし…危険度は付けられるとは思えない。
正直言うと、私以外の子は全員、国は1人で破壊できる実力がある。
ブレイズお姉様には兵士達の攻撃なんてまず当らないし効果はないだろうし
テイルドールお姉様は本気を出せば、一撃で国の全てを吹き飛ばせる。
ミルレールお姉様への攻撃は殆ど効果はないだろうし
レイラードの魔法もテイルドールお姉様と同じく、国を吹き飛ばすには十分。
それにレイラードは私達、魔物の中で唯一無限に成長出来る存在。
今、どうなってるかさっぱり分からない…
「私が思うに最高ランクなんて比じゃ無い位強いわね…」
「因みにさ、最高ランクってどんなのが居るの? 私、分からない」
「あ、そうなんですか? じゃあ、メジャーなので…まずドラゴンですね」
「格好いいね、ドラゴン」
「超危険です、まず半端な魔法は効果ありませんからね、
ドラゴンの特性です。魔力消費が低い魔法は効果がありません」
「なる程、だからあの時、ミルレールに私達の攻撃が通らなかったのか…」
ミルレールお姉様はドラゴンと魔王のハーフだからね。
一定数以上の魔力消費が伴う魔法を無効化するのはドラゴンの特性。
更にその特性が強化された状態なのがミルレールお姉様。
中途半端な魔法は全く効果が無い。よっぽど魔力を消費しないと…
「更には非常に高い第六感と言える感覚が優れています。
なので、不意打ちなどは殆ど効果が無いと言えますね。
更には非常に強固な鱗を持ち、半端な物理攻撃も通りません。
魔法は扱いませんが、その存在は国1つを容易に落とせます。
中には人の姿を模したドラゴンも居るそうですが
こちらの方が脅威です、身体能力が異常に高いわけですからね。
周囲を殲滅するという点で言えばドラゴンは元の姿の方が脅威ですが、
単純な個としての能力は人型の方が上です」
「人の姿をしたドラゴン…ミルレールはそれなのかな?」
「いや、でもミルレールはエルちゃんの不意打ちを食らってたわ。
そんなに鋭い第六感とかがある様には思えないけど」
「きっと手加減してたんだろう。本気を出していれば
きっとエルの不意打ちさえ避けていただろう」
そう、ミルレールお姉様が最初から本気なら、私は絶対に勝ってない。
ミルレールお姉様が本気を出せば、未来予知さえ出来る程の感覚で避ける。
あの時は私達の事を意に返していなかったから不意打ちで倒せただけ。
「…話を聞いただけでも、ミルレールの実力は最高ランクを容易に超えますね。
歴代の勇者達は何故そんな化け物を倒せてきたのか…謎です。
200年前、最後の勇者もどうやってミルレールを退け
魔王の元にたどり着いたのか…さっぱり分かりませんね」
「勇者は魔物を殺せば殺す程に力が手に入ってたらしいよ。
だから、ミルレールを倒せるくらいに魔物を倒してきたんだと思う」
「歴史ではそうですね…ですが、それ程の突出した実力を誇る娘達を
倒せる程に成長する為に、どれ程の魔物を倒せば良いんでしょうか?」
「分からないけど、凄く沢山?」
「はぁ、魔物を殺せば殺す程に強くねぇ、実感が湧くくらいに成長するなら
魔物討伐とか、かなり楽しそうね、それ。殺せば殺す程に強くなるわけだし」
「…いや、でもおかしいぞ? 確かガルムは魔物を殺す事を好んでいなかった。
実際、危険な魔物も最終的には見逃していたんだ」
「…ふーむ、最後の勇者の話が本当なら、異例なタイプですね」
勇者様は魔物を殺そうとしなかった。退ける事はしてたけど
魔物を殺すと言う行動は仕方ない場面でしかしてなかった。
それでも勇者様は強かった…精神的にも肉体的にも。
逆に私は弱かった…だって、私は終始死ぬのが恐かったんだ。
最初は恐くなかったのに…でも、旅を続けていけば行く程に
私は死ぬのが恐くなって…それで…う、うぅ、わ、私は…
「私の予想だとね、200年前の勇者様が魔王を倒せたのって
エビルニアのお陰だと思うんだよ。何で最後勇者様を殺したのか
それはさっぱり分からないし、どうして殺したんだ! って思うけど」
「私もそう思う。エビルニアの存在が彼らを守ってたんだ。
200年前、実際に彼らと出会った私の意見だ。
何故裏切ったのか、それは分からないが…どんな事情があったんだろう」
「死ぬのが恐かったとか? 魔王に勝てないって思って…
いやでもおかしいよね、歴史だとその後、勇者様の力が爆発して
勇者に大きなダメージを与えて、同時にエビルニアも死んだってさ。
でも、勇者様にそれだけ力があるなら、魔王に勝てたんじゃ無いのかな?
ずっと一緒に居たなら、エビルニアも分かりそうだけど。
それに、普通なら死んじゃってすぐに爆発するんじゃ?
エビルニアに殺されそうになった時に爆発したのかな?
それにエビルニアは何で復活しなかったのかな? 不思議なことが多いよ」
「同時では無いだろう。少なくとも私の記憶では同時では無かった。
あまり里からは出てなかったが、一時期、魔物の動きが活発化したんだ。
里への襲撃も多かった。そして、魔物の活動が止んだのは
魔物が活発化して、1年ほど…恐らく、魔王はこの時に重傷を負った」
う、うぅ、ど、どうしよう…は、話を切らないと。
で、でも、なんて言い出せば良いの?
この状態で話を切るのは明らかにおかしい!
「魔王に重傷を与えたのは、勇者様の力ではないと?」
「そうだ、きっと…エビルニアだったんじゃ無いか?
エビルニアは相手の魔力を奪える力があった訳だしな」
「でも、それだと余計にエビルニアが勇者を殺した理由が!」
「うーん、もしかしたら、勇者や仲間達の力を奪わないと勝てなかったとか?」
「それなら、すぐにするじゃん!」
「え、えっと…」
も、もう止められない…私には何も言えない。
どうして移動中にこんな話題になっちゃったんだろう…ど、どうしよう。
こ、このままだと私…う、うぅ
「ご主人!」
「ふぇ!?」
「血の臭いがします!」
「血の臭い!?」
「はぁ!?」
ウルルちゃんの唐突な報告に私は驚き声を荒げてしまった。
血の臭いって…でも、ここはまだ国からそんなに離れてないよ!
「ど、どう言うこと!? ここはまだ国からそんなに離れてない!」
「他の依頼は無かった…国に近い距離に魔物がいれば最優先で…
いや、確か1つ依頼がありました! 勇者候補の依頼が!」
「じゃあ何!? 勇者候補!? 他の勇者候補が居るの!?」
「血の臭いと言ってましたね…何処からですか!」
「こっち! ご主人、こっちです!」
「わ、分かった!」
ウルルちゃんの案内に従って
私達は急いで血の臭いがすると言う方向へ進んだ。
もし怪我をしてるんだったら、急いで助けないと!




