幸せ
結局お父さん、魔法陣を描くこと出来なかったね。
魔力の制御は凄く上手いのに、感覚が重要だと技術面で秀でても
完成までは至らないことが多いんだろうなぁ。
…それにしてもこの部屋、汚い…昨日の今日で何があったの?
休みが終わったから、いつもの部屋に来たけど…うーん。
「エルちゃん、昨日はどうだった? 久しぶりのお家!」
「あ、うん、楽しかったよ」
私は久しぶりに家族団欒を味わうことが出来た。
でも、リトさんの前でこう言う話はしない方が良いのかな…
「いやぁ、私は1日中ぶっ倒れてたわ。酒癖が悪いのも考え物ね」
「私もだな、と言うか、一緒にダウンしてたな」
「え? 一緒なんですか?」
「まぁね、エルフは単独行動あまり出来ないでしょ? 珍しいし。
だから、私が相部屋してるのよ。お金もあまり無いみたいだしね」
「あまり多くは持ってきてないからな。
それに土地勘も無いし宿の取り方もイマイチわからない」
「あぁ、それでリトさんと」
「そう言う事」
確かにエルフにしてみれば、この街はあまり慣れないかな。
「と言っても、私達が住んでるのはこの部屋なんだけどね」
「あ、ずっとここに居たんですね」
「無料だしね、お城の豪華な部屋に無料で住めるなんて最高よ」
「…有料にした方が良いですかね?」
「ミザリー!?」
「全く! 部屋汚すぎです! ちゃんと掃除してください!」
私は何も言わなかったけど、やっぱりミザリーさんはハッキリ言うなぁ。
「こ、これはほら! 昨日は1日中グッスリだったから!」
「そ、掃除はしようと思ったんだが、ね、眠気の方が勝って…」
「じゃあ今すぐ掃除してください!
ここはあなた達2人だけの部屋じゃ無いんですよ!?
と言うか! 本来ならばエルさんとリズさんのお部屋です!
あなた達は立場上、おまけなんですよ!」
「おまけって酷い言い草! いや、分かってるけどさ!
確かに勇者候補の部屋であると言う事は自覚してるけど!」
「他の勇者候補のお部屋はもっと清潔なのですよ! あなた達だけです!」
「ほ、他の勇者候補って…あ、居るのね」
全く出会ってないから他に居るって言うのは分からなかったけど
もうすでに他の勇者候補も選定されてるんだ。
「そうですよ、もう他の勇者候補は居ます。高ランクの冒険者が少ないんで
選定した後、誰に世話を任せるかで長らく確定してなかっただけですし」
「ふーん、殆ど名前とか聞かなかったから居ないと思ってたわ。で、凄いの?」
「……な、何がですか?」
「いや、他の勇者候補。凄いの?」
「……正直言います。比べる対象が規格外なのでなんとも言えませんが
一般的な人と比べれば格段に強いです。勇者候補ですし」
「比べる対象って誰よ…うん、分かるけど一応聞いておくわ」
「分かるなら聞かないでくださいよ」
どうしよう、凄い見られてる気がする。
「エルちゃんは凄いからね、希代の天才だし」
「止めてください! 凄く恥ずかしいです!
そ、それに私は天才じゃ無いです!
分類で言えば無能な類いですし!」
「はぁ?」
「…ご、ごめんなさい」
分かってる、私が人類サイドで言えば相当強いのは…
で、でも、私の場合は天才って言うか凡才以下だったし落ちこぼれだったし…
うぅ、天才とかそういう風に言われると、何だか…うぅ…
「エルちゃんは天才って言うか努力の天才って感じの方が近いのかな?
エルちゃんが小さいときのことはよく分からないけど、凄く頑張ってたらしい。
それに新しい魔法を考えてるときも、凄い頑張ってたし。
天才って言うか、こう頑張り屋さんって感じ!」
「ある意味、それは才能ですけどね。しかしですねぇ、エルさんのスペックは
どうも常軌を逸すると思うんですよ。多才というか、知識人というか」
「料理の腕もピカイチ、魔法の才能も飛び抜けている。そして気取らない。
謙遜しているというか、自分を卑屈に見ている。それ程の才能がありながら
自分は才能が無いと言ってる…それも本気で言ってる。
自分以上の才能の持ち主に囲まれてた…そんな感じだ」
「そ、そんな事はありませんよ!」
「…うーん」
や、やっぱりミリアさんは私の事を疑ってる。
ま、不味いよ…ど、どうしよう…う、うぅ…
「もう! エルちゃんをいじめないでよ!」
「いや、いじめてるつもりは無いんだ、思ったことを言っただけで」
「本当に?」
「本当だって」
「じゃあ信じるよ」
「お願いするよ」
な、何とかリズちゃんのお陰でミリアさんの追及が逸れた…
あ、危なかった…うぅ、ば、バレたら一大事だからね…
「あ、お話し終わりましたか? それならもう一度言いますね。
さっさと部屋の掃除をしてください!」
「勇者候補の話はどうなったの!?」
「話の軸をずらそうとしないでください!
私は最初から部屋の掃除をしてくださいと言ってます!」
「あ、じゃあ急いでお部屋の掃除を」
「エルさんは手伝わないでください」
「え!? ど、どうしてですか!?」
「部屋を散らかした人が自分達で掃除をするべきです!
エルさん! あなたはあの2人のお母さんではありません!
そもそも向こうの方が遙かに大人! 年下に甘えさせては駄目です!」
「わ、私は掃除とかそう言うのはあまり」
「良いからしなさい! 追い出しますよ!」
「わ、分かったわよ!」
「うぅ、し、仕方ない…片付けよう、リト…」
「そ、そうね…はぁ、こう言うときマイホームとかあれば楽なのかしら」
「いえ、早死にするだけです」
「ご、ごもっとも…うぅ、が、頑張ろう…」
2人が渋々リビングとして使ってる部屋の片付けを始めた。
あ、あはは…ミザリーさん顔を真っ赤っかにして監視してる。
同じ赤でも、昨日見た赤い顔とは全然違うね…あはは。
「でも、やっぱり私も手伝いたいです。前、私の部屋が凄い事になってた時に」
「駄目です!」
「うぅ…」
「あはは、まぁあの時も殆どエルちゃんが片付けてたしね。片付けるの早いし」
「ふ、普段は掃除とかするからね…あの時は研究に夢中だったから…」
「実際、あの時もエルちゃんがここら辺全部片付けてたからね…
正直、何で自室だけあんなザマだったのか…やっぱりエルちゃんって
何か自分を軽んじてること多いわよね。周り第一って感じで…早死にするわよ?」
「私は早死にしても良いですし」
「エルちゃん! 何言ってるのさ!」
「あ、ご、ごめん! その…」
「うーん、エルちゃんの家庭環境は悪そうには全然見えないけど
昔、何かあったの? 何か随分と荒んでるところ多いけど」
「そ、そんな事はありませんよ!」
「お父さんもお母さんも妹も…誰1人悪い人は居ませんから!
一瞬だって、私を悪いように扱ってた事はありません!
常に私の事を大事にしてくれてます! 今だって!」
「……ふふ、そうよね。やっぱり家族ってそうよね」
「あ…」
い、いけない、勢いで…リトさんの両親は…
な、なんて事を…無神経すぎるよ…私は…
「おや、リトさん。何故嬉しそうなんですか?」
「え?」
ミザリーさんの言葉を聞いて、すぐにリトさんの顔を見た。
確かに嬉しそうに笑ってる…ど、どうして、私は酷い事を…
「いやね、やっぱり誰かの幸せな家庭環境の話を聞くとね、嬉しいのよ」
「う、嬉しい…?」
「そう、私もそうだったから、やっぱり家族ってそうじゃないとね。
最高よ、大事な人が幸せに暮らしてるって話を聞けるのは。
そんな話を聞けば聴くほど、私は頑張らないとって思うのよ。
だって良いじゃない、誰かの幸せを守れるって」
「そうだね! 流石リト姉ちゃん! 私もエルちゃんの幸せを守る!
勿論エルちゃんだけじゃないけど、エルちゃんの幸せは絶対に守るの!」
「ふふ、あなたの性格を知らない人が聞いたら、告白に聞えるわね」
「こ、告白!? 何言ってるのさリト姉ちゃん! 私達は女の子同士だよ!」
「いやあるじゃない、同性愛って。うふふ~、ニヤニヤ~」
「違うよ! 大事なお友達の幸せを守りたいって事だよ!」
「あら、顔を赤くしちゃって可愛いわね~、初心なの~? 初心よね~」
「り、リト姉ちゃん! からかわないでよ!」
「ごめんごめん、でもあなたも人並みに照れるのね。何か意外だったから」
「そりゃ照れるよ! 私を何だと思ってるのさ!」
「ごめんごめん! あっはっは!」
あぁ、良いなぁ、こう言う話を聞いたりしたりするの…
そして、本当に凄いな…リトさん…尊敬するよ。
あんな風に私も思えたら…そう、すれば…少し位は。
「長話をしてる所悪いんですが、口ではなく手を動かしてください。
もしくは口と手を動かしてください。ほら早く! 依頼の紹介が遅れます!」
「い、依頼があるなら掃除所じゃ」
「良いから掃除してください! 逃がしませんからね!」
「うひぃ~、はーい…ミリア、頑張りましょう」
「そ、そうだな…はぁ、私も話を聞いてるの楽しかったんだがなぁ…」
「良いから掃除! 時間無くなりますよ!」
「わ、分かったわよー!」
でも、やっぱりミザリーさんには敵わないね、あはは。
本当楽しそうだ。そして、私も楽しい。
……頑張ろう、こんな幸せを守る為に…
「…私もリズちゃんの幸せは絶対に守ってみせるから」
「も、もぅ、思い出すから止めて~」
「あはは、ごめんね」
本当に頑張ろう…強くなろう。今度ミルレールお姉様が来たときに負けないように。
負けて、この幸せが無くなったら嫌だから。




