表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/142

エルフの長とダークエルフの長

「ふん…エルフの長も堕ちた物だな…ミリア」

「……何で私達が満身創痍だと言う事が分かった…」

「あの規模の戦いをしていれば気付くさ。

 そもそも我々はお前らを潰すために常に動向を見ていたしな」

「……もう一度、手を取り合うことは…」

「それは出来ない。それは、お前が1番理解してるはずだろう」

「なんで…昔の…私達は一緒に…そうだろ…フレッグ」

「……怨むなら、お前の両親と弱い自分を怨め…ミリア」


エルフとダークエルフの間に出来た深い溝。

昔はダークエルフは危険な存在と考えられては居たけど

流石に魔物に分類されるほどでは無かったと思う。


200年の間に何があったのか、私達には分からない。

だけど、私達がどちらに協力すべきかはすぐに分かる。

私達が協力すべきは当然、私達を助けてくれたエルフだ。


「マジックショット!」

「な!」


今すぐにでもエルフの長を殺そうとして居たダークエルフに魔法を放った。

だけど、私の魔法はそのダークエルフに当ることは無かった。

その魔法を防ぐ物があったから。それはエルフの防御魔法。


「何を…ミリアさん!」

「……こいつは…私に任せて欲しい…」

「相手はダークエルフですよ! 分かってるでしょ!?」

「申し訳ない、ミザリーさん…だけど、私にも私の過去があるから」


ボロボロだったはずのミリアさんはフラフラと立ち上がる。

その姿を何もせず、ダークエルフの長は見守っていた。


「……あのまま、私を殺させていれば良かったのに…馬鹿な奴だよ。

 200年前から、お前は1度だって私と戦って倒せてはいないのに」

「だからだよ…最初から最後までお前に負けっぱなしって言うのは癪だからな」


ミリアさんは戦える状態では無いと分かるほどにボロボロだった。

それでもミリアさんはあのダークエルフと戦う姿勢を維持していた。


「フレッグさん、加勢します」

「下がれ…ミリアは私が1人で戦う。お前らはあいつらが邪魔をしないように見張ってろ。

 しかし幸運だったな、お前達。ミリアが私と戦う意思を見せたお陰で命拾いしたんだ」


ダークエルフの長は私達の方を向き、そう呟く。

私達が動かなければ、ダークエルフ達を仕向けないって事だしね。

そして、その言葉を聞いてミリアさんがにやりと笑う。


「ふふ…命拾いをしたのはお前達の方だ…

 もしあいつらがお前らと戦えば勝負にはならない。

 あいつらはあれだけの手勢で魔王の娘、ミルレールを退けたんだからな」

「…あぁ、一部始終は知っているからな。あのエルという娘…

 ただの人間とは思えない。200年前の記憶にも似たような姿をした奴が居たしな」

「あいつは死んでる。そう伝えられてる。だから、似てるだけだろう。

 魔王の娘でありながら、勇者に恋した少女。エビルニアは…もう居ない」

「え? どう言うこと…? エビルニアは勇者に恋したって…」


な、なな、なんで知ってるのこの人!? そ、そんな素振りは見せてないのに!

え!? え!? どうして!? どうして知ってるの!?

聞きたい、聞きたいけど聞けないよ!


「何でエルちゃん動揺してるのよ」

「い、いや! 勇者と魔王の娘の恋ってし、しし、信じられなくて!」

「初心なの? でも、それだけにしては動揺しすぎでしょ」

「気のせいです!」

「…ふぅ、何だか外野がうるさいが、早く勝負を始めるか。ミリア」

「あぁ…お前を止めてやる…フレッグ!」


ミリアさんが最初に動いた。魔法による戦いじゃ勝算はないと分かってるからかな。

フレッグも大人しく下がって戦えば良いのに、その接近戦に接近戦で答えた。

ボロボロのミリアさんと殆ど万全のフレッグの戦い。

そんな勝負、結果を見る前にどちらに軍配が上がるかなんて容易に想像出来た。


「うぁ…」


勝負は本当に一瞬だった。万全な状態であるフレッグに対して

ボロボロのミリアさんが敵うはずも無かった。


ミリアさんの一撃は微かにフレッグの頬を掠めただけ

すぐにフレッグのカウンターでミリアさんは地面に叩き付けられた。

この一連の動作はほんの1秒程度しか無かった。


「その傷で…私に戦いを挑んだところで勝てるはずは無いだろう…ミリア。

 だけど…この傷は気にくわないな」


接近戦の戦いでミリアさんは僅かにフレッグにダメージを与えていた。

頬に軽く傷がついた程度の、ささやかな物だった。


「…お前相手に完全勝利出来ないのは気にくわない。

 特別に見逃してやる。お前を今殺してしまえば

 お前に対し、完全勝利する事が出来なくなるからな。

 …退くぞ、お前達」

「で、でもフレッグ様! こんな機会は早々ありませんよ!

 あ、あと1歩でエルフの奴らを潰せるのに!

 私達を迫害して追い出した、あの屑共の娘を殺せるのに!

 どうせこいつも屑なんだから!」

「良いから下がるぞ!」

「ひぃ! わ、分かりました!」


さっきまでの態度とは違い、かなり威圧感が溢れていた。

少し前まで、あんな威圧感は無かったのに…どうしていきなり…

なんて言ったけど、想像は出来た。

あのダークエルフがミリアさんを侮辱していたから。


フレッグとミリアさんがどう言う関係かは知らないけど…

親友同士であると言う事は間違いない。

そうじゃないと、ミリアさんはあんな風には動かない。


結局ダークエルフ達はそのまま、私達の前から姿を消した。

本当に最後は何もせずに。最初に私達を襲ってきたダークエルフ達も

他のダークエルフ達に抱えられ、帰っていった。


「…クソ…また負けた…」


ミリアさんは仰向けになり、涙ぐんでいる目を腕で隠す。

だけど、その涙は隠しきれず、僅かに頬を伝っているのが見えた。


「……私達…何も出来なかったね…」

「いいえ、私達はあの子の勇士を見届けたわ。それだけで良い。

 エルフだろうと人間だろうと、必ず自分の手で成し遂げたい

 重要な使命ってのはあるのよ。あの戦いに私達は手を出しちゃ駄目なの。

 この子の場合は因縁の戦いって感じだけど。

 手を出しちゃ駄目な戦いの中には復讐だってあるかもね」

「……」


私達はしばらくの間、静かに涙を流すミリアさんの姿を見ることしか出来なかった。

慰めの言葉なんて掛けられないし、慰めの言葉を掛ける必要も無いと分かっていた。

ミリアさんが悔しいと感じているなら、大丈夫だから。

だから、私達に出来る事は周囲で負傷してるエルフ達の傷を癒やすこと…かな。


「申し訳無い…情け無い姿を見せたな…エルフの長として情け無い限りだ」


しばらく涙を流して落ち着きを取り戻したのか

ミリアさんはゆっくりと立ち上がり、私達に謝罪をした。

だけど、その瞳は赤く。ずっと泣いていたのが容易に想像出来た。


静かだけど、確かに涙を流し続けていたんだ。

それだけ、フレッグとの戦いに敗北したのは悔しかったんだろうね。


「ミリア様…ご無事ですか…その…」

「私は大丈夫…いつも通り…負けただけだよ…」


他のエルフ達は心配そうにミリアさんに駆け寄った。

全員ミリアさんの事を本気で心配しているのが分かる。

中にはミリアさんが無事だと分かり、安堵して涙を流しているエルフもいた。


フレッグもそうだったけど、ミリアさんも仲間から深く慕われているのが分かった。

200年前からエルフ達は仲間内での信頼関係は強固な物だったとは思う。

だけど、ここまででは無かった。外部との交流。仲間内の信頼。200年の間に

エルフはここまで良い方向に変ってた…ただ1つ、ダークエルフとの関係を除いて。


「…私が弱いのが駄目なんだ…私が強ければ、こんな事にはならなかったのに…」

「ダークエルフに敗北したのは仕方ない事でしょう? 相性の問題もありますしね」

「……いいえ、私が強ければ…ダークエルフと戦う事すら無かった筈なんです…

 私が…私さえ強ければ…もっと強ければ…そうすればこんな事には…」

「……どう言うことですか?」

「……私の両親がダークエルフを追い出した理由は…私が弱かったから」


ミリアさんが弱かったからって…でも、ミリアさんは十分強い!

あの瞬間に防御魔法を発動出来るほどの魔法使いだよ!?

確かに攻撃魔法はあまり扱えないかも知れないけど

魔法使いとしての実力は申し分ない…筈なのに。


「私の両親はフレッグが新たなエルフの里の長になるのを恐れた。

 フレッグは歴代のダークエルフの中で最も実力が秀でている存在だった。

 それに対して、私は普通のエルフと同等の実力しか持てなかった。

 私とフレッグは幼い頃からずっとお互いを高め合う為に戦い続けた…

 けど、私は1度だってフレッグに勝てたことが無い…強すぎるんだよ、あいつは…」


昔の話をしているミリアさんは何だか少しだけ嬉しそうだった。

僅かに笑顔を見せ、昔を思い出してる…それだけその過去は大事な物なんだ。

ミリアさんに取っての宝物と言っても過言じゃ無い程に。


「ダークエルフなのに高い魔力量を持っててな…まさに最強のダークエルフだ。

 接近戦闘術も弓術も何もかも最高クラスさ…私なんかじゃ勝てなかった。

 だから、私の母と父はそんなフレッグを恐れ…ダークエルフを追い出した。

 私がもっと強ければ…フレッグと満足に戦えるほど強ければ

 こんな最悪な事態には陥らなかったんだ…あいつは良い奴なんだよ…


 少し攻撃的ではあるけど、その根本はエルフと何ら変らないんだ。

 肌の色と得意な魔法が違うだけなんだ…同じエルフの仲間なんだよ…

 それなのに…私が…私が弱いから…私が弱いせいで、こんな事に…

 もっと強くなりたいと必死に努力をしても…ふふ、私達は人間じゃ無い。

 成長はしないんだ…私は今の私以上には強くなれない…

 それこそ、勇者の仲間にでもならない限り、私は弱いままだろう」

「勇者の仲間になれば強くなるの? 私はそこら辺よく分からないんだけど」

「勇者は仲間を成長させる力もある。正確には共に戦った仲間を成長させる力。

 相手を倒した場合、相手から経験値を手にして成長出来る。それは仲間も。

 だから、相手を倒しきらなければ成長はしない」


ブレイズお姉様が言ってた…最弱の勇者という言葉…納得出来た。

そう、勇者様は魔物を倒しきることをあまりしなかった。

逃げ出す魔物は追わなかった…避けられる戦いも避けてた。

…勇者の最大の特徴を勇者様は一切生かしてなかった。優しすぎたから…


「……そうなんだ…でも、勇者と一緒に居れば成長出来るんだよね?」

「あぁ、そうかもな…人以外として生まれた以上。強くなる方法はそれしか無い」

「なら! 私達と一緒に来てよ!」

「な…」

「まだ私達は勇者候補だけどさ、もしかしたら勇者かも知れないしね!

 それに、放っておけないよ。このままじゃミリアは辛いだけじゃん!

 強くなって、大事な親友を取り戻すんだよ! だから、一緒に来て!

 でも、もし私達が勇者じゃなかったらどうしよう…もしそうだったらごめんね」


リズちゃんはミリアさんに向けて手を差し伸べた。

その表情は笑顔で、何故か自信に満ちあふれているようにも見えた。


自分が勇者だって確定した訳じゃ無いのに行動する。流石はリズちゃんだよ。

その行動には一切の躊躇いとか、迷いは無い。

リズちゃんは自分が正しいと思ったことを迷わない性格なんだろう。

私なんかとは違う。私は自分が正しいと思ったことを…きっと貫き通せない…


「……ありがたい申し出だが…私はエルフの長…長時間留守にする事は…」

「…いいえ、行ってください。ミリアさん。私達は大丈夫です」

「な!」


エルフ達がミリアさんの背中を軽く押すような動作をした。

少し寂しそうな表情をしているエルフも居たけど

それでも全員、笑顔でミリアさんの方を見ていた。


「私達なら大丈夫です。ミリアさんが居ない間もしっかりと里を守ります。

 それに…私達ももう一度、昔のように幸せな時間を過ごしたい。

 あの時を取り戻す為にもミリアさんには強くなって貰わないと」

「……だが、大丈夫…なのか? ダークエルフの襲撃もあり得るし

 …魔物の襲撃だって考えられる。私が居なければ…」

「確かにミリアさんが居ないのは厳しいですけど、必ず里は守り通します!

 だって、あの場所が無いと私達のあの毎日は永遠に失われるんです」

「……」


エルフ達は全員、ミリアさんが私達について行ってくれることを望んでる。

強くなって、フレッグを倒して、昔の毎日を取り戻すことを望んでる。

それはミリアさんも分かっていることなんだ。


「……ありがとう。なら、里を…頼む」


エルフ達の言葉で覚悟を決めたミリアさんは少し俯いた後に

リズちゃんの方を向いた。リズちゃんはまだ笑顔で手を差し伸べていた。


「……あまり役には立てないかも知れないが…よろしく頼む」

「うん! 私達の方こそよろしくね! ミリア!」


ミリアさんはリズちゃんの手を取り、力強い握手をした。

ミザリーさんは何も言わないし、問題は無いんだ。

これで仲間が増えた…もっと強くなる為にも頑張らなきゃ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ