ついに来た勉強タイム
ミザリーさんは私の料理を美味しそうに食べてくれた。
それを見ていた私自身も何だか嬉しい気分になる。
誰かが喜ぶことをすると、自分も嬉しくなると言うのは
やっぱり、あの頃と比べるとあまり感じない感情だった。
だって、あの頃は喜んでくれた相手はレイラード位だったから。
ブレイズお姉様はいつも私に何かを言ってくる
ミルレールお姉様とテイルドールお姉様を叱ってたからね。
その頃は何だろう。嬉しい気持ちになるとは違って
次は怒られないようにしないと、と言う感情しか無かった。
私を大事にしてくれるブレイズお姉様にも楽しんで貰えるように
ミルレールお姉様とテイルドールお姉様を納得させないとって。
色々と指摘された。味付けの濃さとか食材の切り方とか。
ミルレールお姉様の指摘に従えば、今度はテイルドールお姉様が
テイルドールお姉様の指摘に従えば、今度はミルレールお姉様が。
そんな細々とした調整を続けていけば行く程に分かることと言えば
2人が同時に美味しいと感じる料理なんて存在しないと言うことだった。
だから、どれだけ頑張ろうと2人が満足する物は出来ない。
そう言う諦めに近い感情が生まれてきたわけだけど。
それでも私は2人が満足する料理を作ろうとした。
だって、そうしないとブレイズお姉様が私の料理を楽しめないから。
……結局、私が死んでしまうまでの間に
私はその目標を達成する事は出来なかった。
自分が求めていたことを達成する前に私は逃げ出し、裏切り、そして死んだ。
折角料理が楽しいと感じ始めていたのに…私は何処までも馬鹿だった。
「ふぅ、今までで1番美味しい朝食でした。
仕事に急かされて朝食なんて満足に取る事はありませんでしたし
やはり誰かが料理を作ってくれるというのは素晴らしいですね」
「やっぱり大変なのねギルドの受付って」
「冒険者全体の管理等が多かったですからね。
全体の書類と睨めっこをしてどの依頼ならこなせるかを判断したりと
あなたが思ってる以上には大変ですよ。命の危険はありませんがね」
「ふーん。でも、今は特に忙しそうよね」
「えぇ、高難易度の依頼をこなしていた冒険者の死亡が多いですからね」
「なんで多くなったんだろう…凄い人達なんだよね?」
「えぇ、それはもう。最高ランクの冒険者も居ますしね。
ですが、依頼中、謎の死亡があまりにも多すぎるのです。
討伐対象は倒されているため、討伐対象以外の何者かの襲撃でしょう。
しかし、高ランクの冒険者を意図的に撃破出来る魔物なんて…」
予想は出来る。結構前だけどテイルドールお姉様が直々に村を襲っていたからね。
あの時はあまり派手には動きたくなかったみたいだから
強力な魔法は使わなかったけど…あの時、テイルドールお姉様が本気であれば
私もろごと村さえも跡形も無く吹き飛ばせた筈なんだから。
……そう考えると、何だか本当にゾッとする…
それにテイルドールお姉様だけじゃ無い、ミルレールお姉様だって動いてるかも。
隠密に相手を殺すと言うならミルレールお姉様の方が秀でてる。
テイルドールお姉様の魔法は高火力だけど規模がデカすぎるから隠密は難しい。
でも、ミルレールお姉様は体術のみでほぼ全ての相手を仕留められる。
もし隠密に力ある冒険者を狩っているとすれば、その犯人はミルレールお姉様。
……私とミルレールお姉様の相性はあまりにも最悪。
もし戦うって事になったら、まず勝ち目すら無い。
まともに戦えるわけも無い…確実に殺される。
「…エルちゃん? どうしたの? 顔色が」
「あ、いや、何でも無いよ。ちょっと恐くなっただけだから」
「恐くなった…? エルちゃん、あなた程の実力なら
大体の相手は倒せそうな物だけど」
「私、臆病ですから。高ランクの冒険者を倒せる程の相手が居ると知って
そんなに余裕そうな表情出来るわけありませんよ」
「…まぁ、確かにエリエルさんは力ある魔法使いにしては謙遜してますからね。
高ランク冒険者を倒せる相手が居ると知って余裕そうな表情をしないのは
何だか納得出来る部分ではありますね」
私はその高ランクの冒険者を襲ってる人物を推測できる。
だから、より恐怖を感じる…その相手に敵わないと言う事を知っているから。
「とは言え、襲撃を警戒するのは早いですけどね。
まだあなた達が冒険に出ることはありません。
今は研修期間のような物ですので危険地帯にはまだ赴きませんからね。
と言う訳で、さぁ昨日サボったお勉強をしようと思いますよ!」
「あ、あー、き、昨日の怪我が-!」
ミザリーさんの言葉を聞くと同時にリズちゃんがわざとらしく腕を押さえた。
「関係ありませんね! 例え本当にあなたが怪我をしていたとしても!
この勉強は強行させて貰いますよ! 腕とか大して使いませんのでね!」
「えぇー! 酷いー! 鬼ー! 悪魔ー! 人の心が無いのかー!」
「そうですね、少なくとも私の予定をことごとく崩そうとする
あなたに対しては人の心を捨てても良いと思っています!」
「酷いよ! まだ1回だよ! ことごとくじゃ無くて1回だよ!」
「いいえ! 1ヶ月という期間で1回は重大なんですよ!
さぁ! 強制ですよ強制! まずはルールです! 基礎ルール!」
「ひぃー! 動きたいよー! 鍛えたいよ-!」
「駄目です! 落ち着いて何かをする行動も鍛錬と思いなさい!」
「嫌だー!」
「駄目です!」
と言う押し問答の末、結局リズちゃんは負ける事になった。
単純な力ではリズちゃんの方が上なんだろうけどね。
「うぅ…」
「はい、と言う訳で! まずは基本的な受付のルールを説明します。
とは言え、あなた達勇者候補は少しだけ融通というかやり方が違います。
あなた達勇者候補は基本的に討伐系の依頼しか受けることが出来ません」
「なんでですか? 確かに討伐は重要かも知れませんが
採取や薬物調合などもあります。特に私みたいな魔法使いの場合は
薬物調合や採取に関する知識もありますし、そう言うのをこなした方が
結果としては沢山の人の為になると思うんですけど」
「え? 薬物調合とか採取までこなせるんですかあなたは」
「えぇ、それは勿論…と言うか、魔法使いの基本だと思ってましたけど」
「……大体は一芸に秀でていると思いますが、あなたは本当に多才ですね」
薬物調合や採取とかはテイルドールお姉様に付き合わされて覚えた。
テイルドールお姉様は色々な薬品とかを作ったりして
対象を苦しめるというのが好きだったみたいだから。
でも、一応は回復に扱える薬品とかを作ったりして
私によく与えてたりした。いたぶるのが好きだったからなのかも知れないけど。
回復魔法で良いと思うけど、なんで薬品だったのか聞くと
あなたに私の魔力を使うなんて勿体ないにも程があると言われてたりした。
けど、回復魔法で回復したりも結構な頻度でしてたし
多分、実験もかねて使ってたんだと思う。
「魔法に秀でた魔法使いとか調合に秀でた魔法使いとかあるんだけどね。
あなたの場合は両方ねぇ。あなた本当に何者なの?」
「た、ただの片田舎に住んでた女の子ですよ」
「うーん、努力家であるジェルさんの娘さんだと考えれば多少は…
実際、あの人も努力であそこまでのし上がってますからね。
魔法が扱えないであの地位に就くのは生半可な努力では不可能ですしね。
それ程の偉業を成し遂げてるジェルさんの娘さんですし
努力をして色々と調べてたという事でしょう」
この姿になってから覚えたり、思い出したり、作り出した魔法は多いしね。
色々と研究熱心だったのは否定はしないよ。
「と言う事で、これ以上エリエルさんの部分にはツッコみませんが
討伐のみであると言う理由ですね。はい、ハッキリと言いましょう。
勇者候補というのは魔王を撃破するための実力を示さないといけません。
討伐という形はその実力を示す上では最も分かりやすいのです。
それに、仮にあなた達が勇者であれば、魔物を倒した際に
経験値を得る事も出来るはずです。経験値を得れば得るほどに
勇者というのは実力を増し、成長を続ける事が出来ます。
なので、討伐の依頼をこなせばこなすほどに実力が上昇するのです。
勇者じゃ無かったとしても倒せば経験値を多少は得ることが出来ますし
将来的な成長を考えても、討伐のみと言う決定になってるんですよ。
他の採取や薬品調合などは時間も掛るのに経験値をあまり得られない。
ですが、討伐であれば短い時間で高い経験値を得られる。
いつ魔王が完全復活するか分からない状況なので
早急な実力上昇が求められるから討伐のみと言う部分もありますね」
つまり、少しでも早く成長して貰えるように討伐のみという決定をしたと言うことかな。
実際討伐というのは効果的だし、長い目で見てもこの決定は正しいと思える。
薬品調合で救える命は多いけど、魔物に奪われる命はもっと多いし
そう言う意味でも魔物討伐というのは重要なのかも知れない。
「では、次ですね、あなた達のランクについてです」
うん。今日は何だか長い授業になりそうだね。




