唐突な話
しばらくして怪我の調子も良くなってきた。
だけど、まだ完治はしていない。
それでも私はリズちゃんと一緒に校長先生に呼ばれた。
「校長先生、用事って何?」
「リズちゃん、敬語を使おうよ…」
「そうだよ、目上の人にはちゃんと敬語を使おうね」
「うぅ、わ、分かりました…」
リズちゃんはあんな性格だから敬語は得意じゃない。
私は一応、色々な敬語は教わってるから大丈夫だけどね。
「それで、校長先生…私達を呼んだ理由って何ですか?」
「あぁ、その事なんだが、君達にはある人から推薦状を受けてね
卒業証書を手渡そうと思って呼んだんだ」
「え!? ど、どう言うこと!? あ、あたし達はまだ1年生だよね!?」
「私も困惑して居るんだけどね、だが、流石に断れないんだ。
どうも、早急に君達に依頼を受けさせようとしているようでね」
「依頼…? どうして」
「君達の実力を相当高く評価しているようでね。
まだ君達には模擬依頼を与えていないから不安だよ」
「うーん、良くわかんないけど、卒業できるんだね! あたし達!
普通は18歳で卒業の所を13歳! うん! あたし達天才だね!」
「でも、私達はまだ殆ど、何も教わってません。
まだ魔法の基本も殆ど」
「君は非常に優秀な生徒だ。魔法もかなり得意だからね
私が思うに、魔法の腕なら君は十分合格圏内…だが
リズ君、君はその…正直な話をすると、不安だよ」
「なんであたしは不安なの!?」
「君はまだ魔法を殆ど扱えていないからね。
高い才能があることは分かるんだけど、先生としては不安なんだよ」
リズちゃんは確かに高い魔力はあるし、身体能力も凄い。
でも、実戦で戦うってなると、校長先生が言うとおり少し不安がある。
「そこで、私はリズ君を卒業させるための条件を2つ用意したんだ」
「え?」
「まず1つはリズ君の魔法訓練をエリエル君に行なって貰う事。
エリエル君の魔法の能力は非常に高いし、技術も素晴らしい。
そのエリエル君がリズ君の魔法訓練を行なえば成長も大きいだろう。
そしてもうひとつが学園が用意したクエストを君達2人で攻略すること。
でも、学園が用意したと言っても命の危険が無いクエストではないよ。
色々と悩んだんだけど、卒業となれば危険なクエストを受けることになるだろう。
それを考えれば、ここで君達の実力を測りたいと思ったんだ」
「うーん、でもそれだとエルちゃんの負担が…あたし、物覚え悪いし
それに今もそんなに…クエストを受けるってなったら…」
「不安なら辞退しても良い、その場合は私がちゃんと説明をしておくからね」
「うぅ、あたしは良いんだけど…リズちゃんは」
「…うん、私も大丈夫だよ、やろう、リズちゃん!」
「…うん! エルちゃんがそう言うなら、あたしも頑張るよ!」
魔物の動きが活発になってきているし、お父様の復活も近い。
このまま学園でゆっくりしてる暇は無い。
少しでも早く卒業して、少しでもお父様に近付かないと。
「分かった、君達が選ぶならその通りにしよう。
じゃあ、このクエストを渡そう」
校長先生が私達に魔物の絵が描かれた紙を渡してくれた。
紙には出没地点、魔物の名前、報酬、危険度が書かれてあった。
「く、クリムゾンタイガー…名前からして凄そう」
「魔物の中では強すぎず弱すぎずの魔物だよ。
鋭い爪と牙を持っていて、素早い動きが得意だね。
だけど、動きは単純だし、常に速いわけでもない。
ただ、魔法を多少は扱ってくるから油断しないようにね」
「魔法を使える魔物って、確か結構上位なんじゃ…」
「危険度が高い魔物は大体は魔法を使ってくるよ。
依頼を受けるってなったら、こう言う魔物と良く戦う事になるからね。
その準備運動みたいな物だと考えてね」
魔法が使える魔物は厄介…だけど、私からしてみればむしろ好都合。
魔力補給の手段が生まれるんだし、私にはプラスしかない。
「うぅ、これが学校を卒業した後の依頼なんだ…」
「ここは全国の中でトップの学校だからね。
卒業出来ればエリートは確定だからね。
そうなると、当然国の戦力では上位に入るわけだし
これ位は相手できないと話しにならないんだよ」
「大変そうだよね、エルちゃん…あ、あれ? 何か普通の表情だけど」
「あ、いやそんな事無いよ、私も少し恐いなーって思ってるもん」
「うーん、そうなの? あ、そうだ校長先生」
「なんだい?」
「ブレイカーってこれより強いの?」
「そんな物、比べるまでも無いよ…圧倒的にブレイカーの方が強いからね。
異常な再生能力や肉体、更に巨大な身体に、圧倒的な怪力。
ブレイカーは世界における、最上警戒種族の1つ、巨人族の魔物なんだから」
「さ、最上警戒種族って…何?」
「あぁ、そうか。まだ君達はそこまで学んではいないのか。
これを知らないとなると今後にも支障が出そうだし、少し概要を話そう」
最上警戒魔物…うーん、どんな魔物だったっけ。
「最上警戒魔物は、魔王が戦力として行使する魔物達の中で
最も重要視し、危険度が異常な程に高い魔物の種族を言うんだ。
最上警戒種族は大きく分けて9つの種族が存在してる。
詳細は不明だけど、種族の名前までは把握できてるんだ」
「どんなの?」
「まずはブレイカーが所属してる種族が巨人族だよ。
最上警戒魔物の中では最も弱いと言えるかも知れないけど
それでも勇者クラスでないとまともに太刀打ちできないほどに強い」
ユミルが率いていたのは…これかも知れない。
もしかしたら、あの時、ユミルが言ってた派閥は…もしかしたら
この人類が最上警戒魔物として言ってる、お父様の主戦力達の事なのかも?
どの種族もお姉様達と比べればかなり弱い印象だったけど
…でも、数の力は何よりも大きな武器になる。
流石のお姉様達でも数で攻められたら苦戦するのかも。
だから、少しでも動きを気取られないように静かに動いてたのかな。
「巨人族…他には?」
「他にはそうだね、まずはドラゴン。そして人ならざる人の形。
魔の探求者、魔術師。擬似的な不死者。死者の支配者。
蘇りし者。堕ちた精霊、ダークエルフ。意識ある死者、アンデッドだね。
最後のアンデッドは個体差が大きいけど、強力なアンデッドは恐ろしいからね
だから、この最上警戒魔物としてあげられてる」
「うわぁ、聞いたこと無い名前ばっかり…人ならざる人の形って何?」
「詳細は知られてないけど、そう言う種族が居る事は歴史書から分かってるんだ」
ドラゴンは非常に高い戦闘能力を持ってる、魔物達の代表に近いほどに有名な魔物。
魔法などは扱えないけど、強固な鱗に異常な程の炎を吐く。
種族によっては人型も居て、その種族の特性に異常な程に高い身体能力がある。
ミルレールお姉様も少しこれと似てるけど、力の次元は全く違う。だから、恐らく別物。
人ならざる人の形は私も殆ど実状を知らないほどに姿を見せてない。
お父様がこれらの種族を行使している所は見たこと無いから
もしかしたら、お父様の切り札に近い存在だったのかもしれない。
後、警戒するべきなのは…アンデッドかな。個体差は大きいけど
彼らと戦闘になったら長期戦は避けられない。そうなると私の魔力だと危険かもしれない。
「うーん、そんなのがいるんだ」
「そうだよ、でも魔王が復活するとすれば戦う事になる。
それまでに何とか強い戦力を揃えたいと思ってるんだ」
「勇者って、そんな凄い奴らと1人で戦ってたの?」
「いや、勇者には仲間が居たからね。
その仲間達も最初は弱かったのに、勇者と旅をすれば強くなると言う話がある。
実際は分からないけどね」
「おぉ! じゃあ、勇者が出て来てからは」
「全部勇者に任せれば良いんだよ」
「どうして!? 勇者は戦ってるのに私達は戦わないで良いの!?」
「あぁ、勇者が全て解決してくれるからね」
「そんなのおかしいよ! 意味が分からないよ!」
「強大すぎる力には強大すぎる力でしか対抗できないんだよ。
だから、勇者が生まれてからは勇者に全て任せる。
それが、今まで繰り返されてきた歴史だよ」
「そんなの…間違ってる」
「リズ君。この依頼が終われば君も現実を知ることになる。
人間は魔物には勝てない」
「そんな現実、あたし達には関係ないよ! ね! エルちゃん!」
「…うん、そうだね」
「頑固な…だけど、もう何も言わないでおこう。
その内、必ず分かる事だと思うしね」
少しだけ校長先生とリズちゃんがいがみ合った後
リズちゃんはそのまま私を連れて学校を後にした。
リズちゃんの目は今までに無く本気だった。




