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第八十三回

 上山は、とにかく誰かを呼ぼうと携帯に手をやった。しかし、開けて誰彼なしにダイヤルしても、まったく応答がない。というより、接続不能メッセージも流れず、接続自体がなされているのかどうかも分からなかった。上山は連絡をあきらめて、携帯を背広のポケットへ戻した。その時、幽霊平林の顔が、ふと上山の脳裡をよぎった。これだ! と上山は刹那、思った。そして、おもむろに頭をグルリと一回転した。例の呼び出す合図である。

『はい! お呼びになりました? いやあ、もうそろそろかと思ってたんですよ』

「そ、そんなこたぁ~、ど、どうだっていいんだ! おい君! これは、どういうことなんだ? ちゃんと説明しろ!」

 上山にしては珍しく興奮した口調で云い放っていた。

『まあまあ…。そんな大きな声を出さずに! 今、ちゃんと云いますから』

 幽霊平林は不満顔で上山に云った。

「分かった…。いや、こりゃ、私でなくとも大声を出すぞ」

 上山は人の姿が消えた辺りの光景を指さして、そう云った。

『はい、それは、そうです…。しかし課長、安心なさって下さい。人々は、ちゃんといるんですよ。ただ、課長の目には見えないだけなんです』

「分からん! とういうことだ、君」

『ですから今、少しずつ、ご説明しますよ』

 幽霊平林は、ふたたび上山をなだめた。

「は、早く云ってくれ! どういうことなんだ、えっ!?」

『まあまあ…。そう迫られては、話しづらいですから』

「…、いや、これは私が悪かった…」

『人は、いつもどおりいるんですよ。ただ、課長の目には見えない…。ただ、それだけのことです』

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