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第六十九回

 上山に行きつけの店はない。行き当たりで入った店が、いわば上山の飲む飲み方のこだわりであった。その日、物色した数軒の店から一軒を選んで入った。店の名は、すずめといった。やけにピーチクパーチクと賑やかそうで華やいだ店に思えたのだ。上山の心は幽霊平林の出現以降、かなり陰気に冷えていたのかも知れない。

 うらぶれたスナックには年増のママが一人、いるだけで、他にはこれといった奇麗どころはいなかった。上山より二十年以上も年上に見えたそのママを、上山は内心でうば桜か…と刹那、思った。なんといっても一見いちげん客であるし、店を渡り歩いた点で場数を踏んでいると自負する上山だが、この店は、どこか陰気だ…と思えた。それに、ママの容貌が、やつれて見え、店の照明の加減もあってか、不気味に思えた。この佇まいでは客が入らないだろう…と辺りを見回して、上山はカウンターへ座った。まあ、ものは思いようだ…と気を取り直して上山は出されたコップの水を軽く飲んだ。こんな店なら奴に取って置きだな…と、また思いつつグルリと、なにげなく首を回した。しまった! 迂闊だったと上山は思ったが、もう遅い。幽霊平林がスゥ~っと現れて上山の左隣のカウンター椅子に座った。座ったといっても幽霊なのだから足元はないのだが…。

『お呼びになりました?』

 束の間の出来事だった。明らかに上山の油断が招いた失態である。こうなれば、もう万事休す、である。今さら幽霊平林に、ここへは現れなかったことにしてくれ、と云って消えてもらう訳にはいかない。まるで、彼を毛嫌いしている風に思われては、今後が案じられるのだ。かといって、上山にとって唯一の安息の場を幽霊平林に奪われて闊歩かっぽ、ではなくか闊飛びされては上山が困る。適当に手早く帰らせるしかないな…と上山は刹那せつな、そう思った。場所が悪い。

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