第六回
しかし、そのことは誰にも云えない。家族にも上司、同僚、部下にもである。ただ、社長の田丸には迂闊にも知られてしまった。それが上山には痛恨のエラーに思えるのだった。
昼は、きっかり十二時になれば、全員が席を離れる。これは上山が課長になる遥か前からの決めごとめいた慣例となっていた。上山がどうのこうの云おうが、むろん、他の者がどう云おうが、これだけは曲げようもないと思える会社の決めごとのように染みついていた。だから、仕事の途中であろうとなかろうと、投げだしたように仕事を離れるものだから、会社発展も今一つで、業績不振というのも道理といえば道理だった。当然の成り行きで、十二時を挟んでかかってきた電話は、すべてがお釈迦だった。このことが会社の業績を伸ばせない要因の大部分を占めていることは誰の目にも明らかだった。それにもかかわらず日々、繰り返されるこの愚行にも、ひとついいことがあった。妙なことに、会社は繁栄こそしなかったが、衰退することもなかったのである。この事と、平林が幽霊となって現われたことは、ある点で繋がっていた。そのことは追い追い、語るとしよう。
「課長、昼ですよ!」
いつの間にか上山はウトウトと眠ってしまったようである。上山の業務課は二つの係からなっている。上山の席の前方、左右には第一、第二業務係の係長席があり、さらにその前方のレイアウトは、課員達の席がワイドに展開するといった大広間構造だった。云わば、景観上は人間の姿ばかりが見えている訳で、決して快適とは云い難い。事実、見たくもない顔を毎日、見せられている上山は、ついつい机上ばかりに目を落とすことになり、ウトウトしてしまったのだが、これは机上の右に幽霊平林がいた、ということもある。
上山は、少し疲れているのかも知れん…と、食堂でB定食を注文しながら、ふとそう思った。




