第三十五回
『それじゃ、僕は、これで…』
幽霊平林はスゥ~っと消え去った。上山には消えぎわが鮮やかに見えた。恰も、芸能界のスターが格好よく登場し、また格好よく消え去るように思えたのである。
上山が滑川教授に電話をしたのは、その次の日であった。教授は埃が数ミリばかりも積もった研究室の中で齷齪していた。そして、なにやら怪しげな機械を前にして自分が書き記したノートを見、また機械を見るといった動作を交互に繰り返していた。
「…これで間違いない。私の計算によれば、これで霊界とこの世が繋がる筈だ!」
確信めいた声で教授は呟いた。その時、けたたましい電話音がした。今では、ほぼ過去の遺物となったダイヤル式の黒電話機の音である。
「この大事なときに! いったい誰だっ!」
教授の機嫌は俄かに悪くなった。それでも呼び出し音がやかましくリーン、リリリーンと何度も鳴れば、さすがの教授も無視することは出来ない。いや、出来ないというよりも、その音が五月蝿くて邪魔なのだ。仕方なく教授は受話器を取りに嫌々、動いた。
「はい…どちら?」
「あのう…、先生に以前、お世話になりました田丸工業の上山と申します。その節は大変、お世話になりました」
「田丸工業? 上山だってぇ~? そんな人に会ったことがあったかなあ…」
「嫌ですよ、先生。それ! いつぞやの…安眠枕の田丸工業ですよ。ご存知でしょ?」
愛想よい言葉遣いで上山は話していた。教授の後方には、いつ現れたのか、幽霊平林が腕を組んで受話器を持つ教授の様子を窺っていた。




