三章 第六十四回
そう云い終わるや、光の輪は上方へ昇り始めた。
『お、お待ち下さい!! 霊界番人様! 僕、…いや私にとりましては緊急事態なのです。自分の姿が消えて見えなくなっております!』
『なんじゃ、左様なことか…。そうそう、そなたには、まだ云っておらなんだな。手抜かってしもうたわ、儂としたことが。わははは…。これでは霊界司様にお目玉を頂戴するな』
珍しく、いや、幽霊平林の前では初めて霊界番人が反省した。
『で、この私めは、元へ戻るのでしょうか?』
『ははは…、それを申すなら、そなたの眼の錯覚は、と申すべきじゃろうて…』
『それは、どういうことでしょうか?』
『そなたには、霊界司様の呪縛が、かけられておるのじゃ。それ故、そなたは自らの姿が見えぬ』
『いったい、何ゆえなのでしょう。私は呪縛を受けるようなことをした覚えがありませんが?』
『それは孰れ、そなた自身が知るであろう。心配せずともよい。ただ見えぬだけじゃ、そなたに己の身がのう…』
『あっ! 見えるまでこの先、どれほど、かかるのでしょうか?』
『心配性な奴め。そうは、かからぬわ。間もなくじゃ。ではのう…』
かなり急いでいるかのように、霊界番人の声を響かせた光輪は、たちまち昇って消え失せた。
光輪が去ったあと、幽霊平林はフゥ~っと溜息をついた。この場合の溜息は、安心したというものである。しばらくして、落ちつきを取り戻した幽霊平林は一応、上山に、このことを報告しておこう…と、思った。思いつけば、すぐ移動できるのが幽霊の特性であり便利さある。ただ、このところ、現れ方の統一性が乱れている向きがあったから、多少、心の蟠りになっていた。




