第百二回
霊界も人間界と同じで、身体を止める場がある。この、止めるという感性が人間界では理解できない感覚で、眠ったり休息したり、家族が憩いをもったり、食べたりする場とは一線を画するのだ。しかし、住処という共通点はあった。その住処へ帰り着いた幽霊平林だったが、どうも身体が止まらないのである。人間界で云うところの眠れない、ということだ。そんな訳で、霊界としては下層の住処へ戻ってきた幽霊平林だったが、住処の中で身体を止めて浮かぶこともままならず、家屋の中を左右上下斜めと浮遊していた。ただ、人間界とは違い、身体が休まらない、疲れるという感覚は幸いなかった。要は、死んでいるからなのだ。ただ、いつもの状態でないことだけは幽霊平林にも理解できた。生前なら、かかりつけの医者に診てもらうか、そのまま布団に潜り込んていただろう…と幽霊平林は思った。この異常とも思える身体の動きは、いったいどうしたことだろう…、というか、何故こうなったのか…と、彼は巡った。生憎、死後の今では相談する者もいないし、だいいち、霊界では一定の決めがあり、一部の報告事項を除きほとんど出食わすことがないのだ。当然、語り合うこともない。霊のランクを高めるために皆、必死なのである。要は自分との戦いであり、相手は他の霊でも人間でもなかった。しかし、今の不具合は幽霊平林にとってまったく安らぎがない。住処でピタッっと浮いたまま止まれるはずが、左右上下と動いて浮遊する不安定感では気分が休まらない。元来、幽霊に疲れはないから、彼等が身体を休めるというのは、気分を休めることに他ならないのだ。だから現状のままでは困ることはないにしろ、気分的なストレスが溜まることになる。これには幽霊平林も、想い倦ねた。━ こういうときは… ━ と、幽霊平林は上山を訪ねようと刹那、思った。今の彼にとって、相談するといえば、霊界をとり仕切る霊界番人と、皮肉なことに人間界の上山しかいなかった。ただ、霊界番人を呼び出すには、余りにコトが小さ過ぎた。




