我が子
それからの私は、破壊の限りを尽くした。
目に付いたもの全てを壊していく。人も物も、魔物も。壊れるならなんだっていい。
何よりも自分を壊したかった。
無駄に頑丈な自分が憎らしい。
私を止めにやってきた聖職者も丸焼きにした。
あたりを不浄で染めていく。壊したい「私」がどんどん広がっていった。
心の穴は塞がらなくて……
むしろ、どんどん広がって……
遠い過去の話なのに、魔女になった時を思いだす。
まだ「人間」だった頃の私は、国王の妃のうちの一人だった。
側室なのに毎晩王に呼ばれる私は、周りからひどいいじめを受けていた。
しかし、王と関係のある事を誇りに思っていたし、王のことが本気で好きだったから耐えられた。
関係があったから当然かもしれないが、王との子を身ごもった。
身ごもったことがわかった後も王に呼ばれ続けたため、周りからのいじめもエスカレートしていった。
自分はもはや自分だけがいるわけではない。
我が子は私が守る……。
身ごもった時、そう、決意したのに。
「汚れた大人」は、そんな私の決意をいとも簡単に踏みにじった。
忘れもしないあの日、私は正妃に呼び出された。
立場上、行かないわけにもいかず。
呼び出された場所へ行くと、正妃の代わりに複数の男がいた。
抗おうとしたが、ひ弱な女の力などたかが知れていて。
無慈悲にも、ゲスい男共に連れ去られた。
汚されて、腹を蹴られ、得体の知れないものを入れられ……我が子はいなくなってしまった。
なんとか自分の命だけはつなぎとめて、ボロボロになりながらも王宮に戻った。
王宮では下卑た笑みの正妃が待ち構えていて、心配する程で騒ぎ立てた。私の子がいなくなった事を知ると、口元を扇で覆って、「残念でしたわね」などと言う。
単純に辛かった。
正妃の周りの人もクスクスと言いながら、私を見下ろして「また、王様に愛してもらえていいじゃない」と口々に言う。ボロボロの私を助け起こしてくれる人はどこにもいなかった。
そのことを涙ながらに告げた数日後の夜、王は私の状況を知って……
「そうか、ちょうど良かった。お前を抱きたいところだったんだ」
と言った。
慰めも、無く。むしろ、子が流れてくれて良かったと言わんばかりの笑顔で。
私は、その時、急に内臓が重くなり。
ズンと体の中が重くなって……声が聞こえた。
「魔女にならないか?」
と。
私は、力なく頷いた。
魔女は、魔障の欠片を体内に取り込むことによって「人間」から「魔女」となる。連れ去られた時、体内に入れられたのは、魔障の欠片だったのだ。
魔女に王妃は務まらないから。
それを企んだ奴らは、魔女になった私が国を滅ぼす力まで持つとは思わなかったのだろう。
大抵は、魔女になってもたいしたことなく、人の手につかまり、磔にされて生きたまま火あぶりにされるのだから。
だが、私の絶望は、私の憎しみは、その程度でおさまるものではなかった。
怒りに任せて国を滅亡させた私に、魔女として生きている者の集まりである魔女集会から声がかかって……
魔女としての誕生を祝福された。
あぁ、懐かしい。
−−−「我が子」。




