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魔女と竜は世界を救う  作者: 根尾 彼方
本編
1/7

出会った


 「きゅい〜きゅい〜」


 街を一つ燃やすという簡単で愉快な仕事を終わらせて、我が家に帰る途中だった。

 その聞きなれない声がしたのは。


 普段なら放っておく。

 残虐に殺したいのは、醜い大人だけ。

 小さき子に興味などない。

 それは、魔物でも神の使いと言われ、魔女が忌み嫌う神聖な竜や天使の類であったとしても。

 ……まぁ、大人の近くにいたりすれば容赦なく大人と共に殺すけれど。



 なぜだか、この時はその声が気になった。

 数千年も生きていれば、気まぐれの一つや二つある。その一つや二つだ。


 近寄ると、声からは想像できないくらい大きな塊が、そこにあった。


 私の何倍あるんだ、この塊は。


 そのくせ、ずっと高い声で鳴いている。


 「おい、そこの。」

 ぶっきらぼうに声をかける。


 「きゅ、きゅい!」


 その塊は、丸くしまっていた頭を私の方に向けてきた。


 「お前、竜か。」


 ちっ、なんでこんな神聖なもんがここに落ちてくるんだよ。

 ここは、魔女の森だぞ。

 普通上を飛んだりもしないだろ……


 「きゅ」

 竜の小さき……いや、サイズとしては大きい子はキラキラした目で返事をした。


 「ちっ、自分で帰れないのか」


 竜は首をコテンと傾ける。

 なんのことでしょう?とでも言いたげに。


 どうせここにいても、周りの瘴気に当てられて弱って死ぬか。

 ほっておこう。と、一度は興味を惹かれたものに何の迷いもなく背を向ける。

 

 私がどこかに行ってしまうことが分かったのだろう。

 必死ですがりつくように鳴いてくる。

 自由にならない体で這いつくばって、ずるずると大きな体を動かして追ってくる。



 「うるさい。」

 一思いに殺してやろうと思って、勢いよく振り向く。

 腰につけていた剣を抜き竜に当てると、竜と目があった。

 すがるような目に心を動かされたわけではない。


 決して。


 そう、ただ、この竜を邪竜に育ててみるのも、悪くない、と思っただけで。

 ゆっくり剣を腰に戻す。

 ちなみに剣に鞘はない。剝き身で腰につけている。



 「おい、来い。」

 治療術は苦手だ。

 とりあえず、怪我しているらしい足だけ痛覚を鈍らせる。


 「きゅ!!」


 「おい、はしゃぐな。治したわけじゃない。悪化する。静かについてこい。」


 竜は案外聞き分けがよく、その後静かに私の後ろをついてきた。

 大きすぎて通れなさそうな所は木をなぎ倒して進んだ。

 どうせ、ここは魔女の森。木なんてすぐ生えてくる。


 そして、我が家に着いた。

 ここら辺の木を適当に合わせて作った家だ。さすがに竜は入れない。


 「おい、とりあえずそこにいろ。」


 竜は先ほど、「静かに」と言われたのを守っているのか、静かに頷いた。



 竜を外に置いて、私は薬草を煮詰めて多量の治療薬を作る。

 全く、こんな面倒なこと……

 まぁ、たまには良いか。


 多量の治療薬を作るにはまだ時間がかかる。

 煮詰めている間に竜の様子を見にいくことにした。


 外に出ると、竜は衰弱した様子で丸くなっていた。


 「おい」


 竜はゆっくりと首をこちらに向ける。

 

 あぁ、そうか、瘴気がここは一番強い場所だからいるだけで辛いのか。


 「お前、私に一生を捧げる気はあるか?」


 竜は頷く。


 「そうか。」

 私はそう言うと、竜に近寄って……

 契約の魔法陣を展開する。竜を使役獣なんて考えたこともなかった。でも、これは面白いな。


 あの無駄にプライドが高くて神聖な竜が私の……ものになるなんて。

 私は口の橋を釣り上げて微笑む。



 「さぁ、あなたは、今日から私の子よ。永遠にね」


 竜は魔法陣に含まれる契約の呪詛に当てられてしばらく悶えていた。

 瘴気も次第に体に馴染んだのか、傷を負った上に暴れて疲れたのか。

 どちらかはわからないが静かになると、同時に人と同じ形になった。


 「へぇ、あなた、人にもなれたのね。」

 意識のない5歳くらいの外見の子供に向かってつぶやく。

 これなら、家の中に入るか。

 そう思い、横抱きにして家の中に入れた。



 数日後、竜は目を覚ました。私の看病のおかげだ。

 「う、ううう」


 「起きたか。」


 声がしたことに驚いたのか、体をビクッとはねさせて縮こまる。


 「おい、傷は大丈夫か」


 私の声に次第に自分の体を確認し始めた。


 「な、治ってる」


 「ああ、私の看病のおかげだ。感謝しろ。」


 「ありがとうございます。

 ……あれ、僕人型に……」


 「あぁ、私と契約した。だが、自由に生きるといい。お前にもう興味はない。神気を損なわれた竜が、どうなるかなんて私は知らないがな」

 竜の傷は治った。外見は人と同じだ。人間となら生きていけるだろう。

 竜としては、無理だろうが。


 「あ、あの。もう少しここに、いさせてもらえませんか」


 「はぁ?私はお前の面倒は見ないぞ?」


 「はい、自分のことは自分でできます。お母様のそばに少しでもいたくて……」


 お母様?確かに、契約したら皆私の子ではあるけど……この子は面白いな。


 「邪魔になったら追い出すからな。」







 −−−こうして、魔女と竜は「出会った」。


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