精霊の愛し子は妻となる
『全く……カレンがあいつの事を好きでもあたしは認めていないからね!』
寝台に寝そべるカレンのお腹の上でプリプリと怒るフルール。
それもそのはず、あの後胸部に激しい痛みを感じたと思えば、何本か肋骨が折れていたのだ。
ユズリハの不思議な力は呪いではなく、彼の母ダフネがユズリハに与えた精霊の祝福だった。フルール曰く、植物を操る能力だったり自然治癒能力が高かったりするらしい。
だが、その力は心と密接に繋がっているらしくユズリハが自暴自棄になってしまえば、その能力も暴走するというのだ。フルールは『そんな情緒不安定な男、止めときなさい』と止めたが、ユズリハは現在落ち着いていて能力を暴走させる事も無かった。胸に自生していた月桂樹も消え去った。
そんな時、噂をすれば何とやら、本人が訪ねて来た。
心配そうにカレンを見やるその瞳は、前のように孤独を映していない。優しさが溢れ出たその目がカレンは大好きだった。
「調子はどうですか……? こんなに怪我をさせて本当に申し訳ない。薬、調合したから飲んで下さい」
薬学に非常に長けているユズリハは腕の良い薬師だ。カレンが骨折の痛みに悩まされないよう、カレンオリジナルの薬を調合してくれる。
「ありがとうございます。もう怪我のことは気にしないで下さい。わたしが初めに精霊のこと、お母様のことを話していればあんな事にはならなかったもの……長い間黙っていてごめんなさい」
それを聞くとユズリハは黙ってしまった。まだ思い出したくないのだろう、自分が暴走した事やカレンとの間に色々あった事を。
沈黙が訪れたが、それを破ったのはカレンの方だった。
「ユズリハ様……。わたし、怪我が治ったらお屋敷を出て行きます」
「どうして……」
「ここに来てもうすぐ1年になります。初めに1年だけって取り決めていたんです。お父さんが帰って来いって。あなたを、あんなに傷つけたわたしが言えたことではないけど、あなたと一緒に過ごせて本当に良かった。本当に楽しかった……あなたは素敵な人だから、これから外に出て、素敵な女性と出会って、本当の結婚をっ」
声が震える。涙が零れた。
「あれ、何でかな……傷が痛むのかな……」
「カレン……」
「違うんです、これはその、えっと」
慌てて取り繕うとするカレンの額に、柔らかいものが当たった。
それがユズリハの唇だと気付くのはもう少し後のことだ。
「君を傷つけた僕が言えることではないけれど、……行かないで下さい。僕には色んなものが足りなかった。君が沢山与えてくれたけれど、まだ足りないんだ。2度と君を傷つけない、って誓えるほど僕は強くありません。だけど、いつかそう言えるように努力する。だから、お願い。僕のそばにいて。優しくて、世話焼きで、お節介で、ちょっとだけ臆病な君のことが好きなんだ。大好きなんです」
「ユズリハ様……わたしもあなたの事が大好きです」
『あーあ、結局カレンはこの引きこもり野郎の事が良いのね』
庭に咲き誇る月桂樹の花に腰かけ、フルールは2人を見守る。
『でも、あの2人ってお似合いよね。あんたもそう思うでしょ』
そう言い、フルールは月桂樹の花を撫でる。
まるで応えるかのように風が吹き、庭に咲き誇る花々を運んでいく。
2人の話は始まったばかりだ――。
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