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第一夜 真田幸村 5

 

 季節が巡る。

 春が来て、夏が過ぎる。

 秋が実り、冬が訪れる。

 それが巡って、巡って。

 10年目の春が来ようとしていた。


 真田の屋敷の一室で紫荻はいつも通りを過ごす。

 あれから年月は過ぎたが、彼女は何も変わっていない。


 淡い栗色の髪。空のような蒼い瞳。誰もが見惚れる容姿も。それに似合わない頬につけられた痛々しい火傷も。動かない足も。

 十も年を取ったなんて、誰も思わないほどの奥方が静かに暮らしていた。

 生活圏は相変わらず狭苦しい六畳ほどの部屋で、最低限の生活品に囲まれて暮らしている。


 あれから一度も兄とは再開も果たしていないし、文でのやり取りもない。

 夫である幸村とも夫婦関係であれば良好でないが、関係自体は悪くもない。


 程よく筋肉が付いた腕は柔らかな女の物へと変わり、足は棒切れのように細くなった。

 肩までだった髪も随分と伸び、一国の奥方と言われてもうなずける姿といえよう。


 戦場からかけ離れてしまった生活で、彼女は裕福ではないが平穏な生活をしていた。



「紫荻様、失礼いたします!」


 紫荻の自室。

 読み物を呼んでいると、高価な着物を纏った一人の女が部屋に飛び込んできた。

 青い瞳が視線をあげ、部屋の入口へ。そこに立つ女性を映す。


 長い黒髪を後ろで一纏めにした、気の強そうな目元が特徴の女。

 ――幸村が正室、竹姫である。

 彼女を映したとたんに、紫荻は笑みを讃えた。


「これはお竹様。今日はいかがなさいました?」

「「いかがではありません!」」


 何事か?そう問いかけると、竹姫の後ろからまた別の声が二つ。

 竹姫の後ろに隠れていた影が顔を出す。

 こちらもまた高価な着物を纏った女性たちで、名を澪姫と小梅姫。彼女らも幸村の妻。側室たちであった。

 三人とも真っ赤な険しい顔で、今にも爆発してしまいそうだ。


 何かお怒りなのか。

 そう問いかけようとした時だ。


「聞いてください!義姉様(あねさま)ぁ!!」


 その一人である澪姫が紫荻に抱き着き、おいおいと泣き始めたのは。

 しかし紫荻は何事かわからない。思わず顔を上げると、今度は小梅姫もその黒い目に涙をためる。


「幸村様がまた浮気をしたんです!」


 口元に手を置きながら悲痛な叫び。

 もちろんだが、紫荻は一瞬唖然とした。


 部屋に飛び込んできて、早々夫の浮気の告発?

 顔を上げれば、ほかの二人もうんうんとうなずくばかり。


 夫の浮気とは?一応小国とはいえ大名の恋路模様。

 一介の妻の自分たちなんて苦言をこぼすぐらいしかできないはずだが……。

 いや、一人問題児がいた。

 そして彼女らが問題視する浮気相手なんてその女しかいない。


「ああ、一応私の義理の姉にあたる(あの女)ですね。またですか。困ったものですね」


 そう導き出して、紫荻は苦笑を浮かべる。


 

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