異次元図書館?
この時間軸は龍馬の死後の時間です。
ムーンの図書館には本棚が整然と並ぶ中、通路などあちらこちらに本が散らばっている。
「とりあえず、同じような表紙の本があるから、棚に戻していこうぜ。」
「これみんなマンガばかりじゃない?」
入り口付近にはマンガ偉人伝「徳川家康」「徳川吉宗」「水戸光圀」「田沼意次」「松平定信」など、一度見たことのある本も転がっている。
「この本の山を整理するのか?」
「ちょっと、ムーン何とかならないの?」
「何とかしろよ。お前いつも散らかすからな。」
「ここは、私が欲しい本がすぐに見つかるの。何が読みたい?」
「いいから、整理しろよ。」
「わかったわよ。はい!」
ムーンは急に歌い出した。
「おかたづけ~♪ おかたづけ、みんなきれいにおかたづけ♪」
部屋中に散らばっていた本が本棚に収納されていく、しかしあまりにも量が多くて、ムーンは同じ歌を三回も繰り返しうたった。
「これ全部、マンガかよ?」
棚には、セーター服をきた美少女戦士のマンガや、時々大人に変わる少年探偵、少年海賊、そのうえ交番警官のギャグマンガ、渋い殺し屋マンガなどなど、ありとあらゆるマンガが全巻揃っていいた。
「ムーン、ここはマンガ図書館か?」
「どこのブック〇フよりも品ぞろえは完璧よ。」
「あのブック〇フって何ですか。」
「何だろう?口に出ちゃった。」
「これって、全部作り物のお話じゃない?」
「だいたい、そうよね。」
みんながそれぞれの棚に散って、並んでいる本を手に取って眺めている。
「このマンガにあること以外が事実ということなのか。」
「いや、そうでもなさそうだぞ。」
暗い表情をして吉宗が、キノコ雲を背景にした少年が描かれたマンガを持ってきた。
「これは核爆弾による広島の話ですね。」
「こんなことになるよな。なんて愚かな。」
源内は乱暴な核技術の幼稚な実用化を行ったことに憤りを感じていた。
「おお、あったぞ。みんなこっちじゃ。」
一人離れて棚を探っていた御老公が、マンガ『日本の歴史』を手に取っていた。
「それにしても、何種類もあるのう。」
「御老公こちらが一番詳しそうです。」
「おお、50冊もあるのか。」
マンガ版の日本の歴史の棚の隣にマンガ偉人伝が並んでいた。
徳川異世代組ら江戸時代組は江戸時代の巻をそれぞれ手に取って、自分に対するページを読んでいた。
「やっと、僕のことが出てきたと思ったら、毒殺されたところだけでした。」
「わしも似たようなものじゃ。この本では意次が悪人になっとる。」
家基と家治があまりに自分たちのページが少ないので落ち込んでいる。
「まだいいぜ、おいらは、水野忠邦の添えものだぜ。」
「まあ、大まかな流れは『大日本史』と同じじゃな。その先が問題じゃ。」
御老公が江戸時代の最後の巻に手を伸ばそうとした。誰もそこから先を読もうとはしていなかったのであった。
「ところで権現様はどこに行ったのですか。」
「そういえば見かけないな。」
「そういえば、きつねたちもいなくなってないか?」
吉宗はずらりと並んだ本棚の向こう側に扉があるのを見つけた。
「源内、あそこに扉なんてあったか?」
「いや、あの辺はゲートがあったはずですよ。」
一同は、食い入るように続きを読んでいる御老公をおいて、見知らぬ扉へ向かった。
「ここは?」
扉の中は不思議な美術館となっていた。様々な絵や写真がランダムに壁に掛けられている。権現様は一枚の絵の前を悔しそうに見つめていた。その絵「徳川家康三方ヶ原戦役画像」の両横には織田信長像、豊臣秀吉像が掛けられていた。明らかに悪意のある配列であった。
「権現様」
声をかけられて家康公は、はっと回りに自分の子孫たちがいることに気が付いた。
「わしは、これをあの戦の恥辱を忘れぬために描かせたのじゃ。」
「わかりますよ。われわれも何だか恥辱を感じます。」
「そうですね。一族の戒めですね。」
「おいらにはムーンのいたずらとしか思えねえな。」
金さん一人、笑い出しそうなのをこらえている。
「おお、この色鮮やかな絵は」
「これは、カラー写真ですね。しかも、この人は」
そのポスターには白馬にまたがった金ぴかの衣装を着た吉宗らしき人物が写っていた。そしてその横には『〇れん坊将軍』と書かれてある。番組の宣伝用らしかった。
「この写真は龍馬さんですね。」
有名な懐に手を入れた龍馬の写真が、同じような格好をしたイケメンたちの写真と、〇いきつねの人の写真と共に飾ってあった。龍馬はその写真の前にいた。
「いやな、この写真が今のわしの原型だそうな。」
「実物と違うんですか。」
「彦馬さんの写真館で撮ったんじゃが、時間がかかっての眠くて眠くて」
「それで、そんなに目が細いんですか。」
「そうじゃな……ん?」
「どうしました?」
「いや、わしの写真が必要だったんじゃ。」
ムーンの頭の中にあるものなのか?




