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キャサリン?

これでロンドン編終了か?

 その日も、武市と龍馬はパブ『テン・ベルズ』で飲んでいた。昨日、一昨日と空振りに終わり、今日が三日目であった。その間、龍馬はパブの常連とすっかり仲良くなっていた。 そして、たまに顔を出す二人の男の話を聞き出していた。そのうちの一人はどうやら彼らが「Jap」と呼ぶ以蔵らしく、もう一人はいつの間にか片隅で静かに飲んでいる若い男であった。その男を龍馬と武市は待っていた。

「リョウーマ、あいつだぜ。」

 常連の一人がこっそりと耳打ちしてくれた。確かに店の隅で一人で飲んでいる黒いコートを着た男がいる。

「龍馬、あの男カバンなんて持っていないぞ。」

「ジッパーはどこじゃろうな。」

 二人はそっとパブを出て行った男を尾行することにした。


「お兄さん、いい娘いるよ。遊んでいきなよ。」

 なんだかド派手な半被(ハッピ)を着た俊輔が、客引きをしている。俊輔がその男の後方にいる龍馬に目を向けてきたので、「そうだ」と軽くうなずくと、俊輔は男に

「安くしとくから」

といって、男を家に案内した。


 この一週間、俊輔はこの近辺の娼婦たちと交渉して、一軒の建物の中に彼女たちを移動させ「娼館」を作っていた。この辺りの女性たちを一所に集める事で安全が確保できると説得したのであった。その分、客引きを俊輔が積極的にやっていた。


 入り口から中に入ると、クロークがあり、きちんとした執事の格好をした退助と象二郎が、預かったコートやカバンと引き換えに番号札を渡していた。

「コート、お荷物をお預かりいたします。」

「いや、結構」

 男の反応に退助が、男を案内してきた俊輔に目で合図を送ると、俊輔は男を応接室に案内した。俊輔はソファに座った男に何枚かの似顔絵と名前、年齢が書かれたカードを見せた。

「現在ご案内できるのはこの娘たちです。」

 男はその中の「キャサリン 20歳」と書かれたカードを選んだ。

「それでは2階の5号室に入ってください。」


 俊輔はあらかじめ怪しげな男に関しては、特別な女性(?)を案内することにしていた。 もちろん、相手がまともな客だった場合は娼婦たちに案内したが…、 


男が5号室の扉を叩くと、扉がスーッと開いた。薄暗い灯りの中に小柄な髪の長い女性が立っていた。男はそのまま、5号室に入っていった。

「お客さん。コートはそこに掛けて」

 小さな声でキャサリンがコートを脱ぐように勧める。

「最近物騒で、The Zipperが出るって大変なんですよ。」

「ふむ。そのZipperというのが怖いのかい?」

「怖いのかしら、あのJapって男はそのジッパーに挟んだんでしょw」

「そいつは本物じゃないよな。」

「捕まって、医者や警察の人たちに見られたんだって、恥ずかしい。」

 何だか部屋の片隅で物音がした。慌ててキャサリンはバタバタと足音を立てた。

「だから、そいつは偽物の以蔵って奴だろ。」

「でも、何でもお道具はワールドクラスだったみたい。こっちは本物ね。」

「本物はこっちだ。」

 そう言うなり男はコートの中のポーチのジッパーを大きな音を立てて開け、中から大ぶりのナイフを取り出した。そしてキャサリンに切りつけた。

「うううっ」

 虚を突かれたキャサリン(ぶんた)は一撃目をまともに食らってしまった。何とか二撃目を避けようと身をひるがえしたが、背後から一撃。更に……

 キイイイン

 以蔵の剣が男のナイフを指ごと切り落とした。そしてその剣を男に向けた。

「聞多大丈夫か?」

「これは助からんかもな。」

 外から様子をうかがっていた俊輔らが入って来て男を縛り上げた。

「とりあえず、病院に運ぼう。」

「わしがついていて、出遅れてしまった。」

 以蔵が申し訳なさそうな表情でいると、聞多が苦しそうな息で

「いや、お前の羞恥を抉ってしまったようだ。すまん……。」

「聞多、しゃべるな。」

 龍馬と武市が担架を借りてきて病院に運んだ。


 井上聞多は史実どうり全身に50針を越える切り傷を作ってしまったが、一命をとりとめた。本人は介錯を希望したが、ここでは殺人罪になってしまう。10時間を越える大手術となった。


 The Zipper遂に逮捕

 ホワイトチャペルの殺人鬼、The Zipperが遂に逮捕された。犯行の容疑を掛けられていた以蔵が、「指切り」でその恐怖のナイフを切り落とした。

 容疑をかけられた日本人グループが、ホワイトチャペルの娼婦たちと囮作戦を行い、見事にThe Zipperをおびき出すことに成功した。囮となった日本人グループの内の一名は重傷を負ったが一命をとりとめた。

 この日本人グループには、懸賞金500ポンドの他、見舞金が続々と集まっており3000ポンド近くになりそうである。(トーマス・ホーソン)


史実で井上馨の介錯を止めたのは母親でした。

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