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お約束

龍馬の時間と慶喜の時間にはズレがあります。

 桜田門外の変の後、万延元年(1860年)9月4日に23歳になった慶喜は謹慎を解除された。自由に外出が許可された慶喜は寛永寺に墓参に向かった。


 黒船来航が現実になり、あの時見た幻影と異なる歴史の激動が始まり、父の水戸斉昭は謹慎になり、慶喜自身も大老、井伊直弼の独断専行を咎めたことで、隠居謹慎処分とされていた。その後孝明天皇から、水戸藩へ直接出された「勅諚」をめぐって水戸藩は混乱し、過激派と穏健派の対立、勅諚が出された経緯に関して安政の大獄で多くの水戸藩士が命を落とすことになった。そして桜田門外の変で、水戸藩士は井伊直弼を惨殺、そして、8月に父斉昭が死去したばかりであった。


 慶喜はわずかな供回りと共に寛永寺に着くと、一人で、父斉昭の新しい墓に参り、案内の老僧に家基廟への案内を頼んだ。

 初めてここを訪れてからもう10年近く経っていた。家基に連れられて、徳川の祖先に会い、地球という星と世界を初めて見た。あれは夢であったのか。あの時見せられた幻影は何であったのか。慶喜は少年特有の不思議な夢を見たのかもしれないとも思っていた。

 それでもあの時の老公の話通りに「黒船」が現れ、あれは夢ではなかったと確信したのであった。慶喜はあの時の忠告に従い、朱子学を疑い、洋学を学んだ。そしてその政体論を読んだとき、その内容を知っていたことに気が付いた。



「なんだか凄いことになっていますね。」

「あっ、家基様。もう何人死んだかわかりません。」

「みんなが待っています。こちらへ」

 気づいたらカプセル上のものが置いてある白い部屋にいた慶喜は、以前訪れた時と同じ、西洋間に案内された。しかしこの部屋は異人のものとは違うようだった。


「慶喜よ。いい若者になったじゃないか。」

「おお、兄上の若いころにそっくりじゃの。」

 金ぴか衣装の吉宗が声をかけ、その後ろで御老公がにこやかに迎えた。

「おお、わしの若いころにそっくりじゃ。」

「権現様と一緒にしたらかわいそうでしょ。もうっ。」

 何故かきつね耳の少女たちが徳川異世代組に混じってお茶を飲んでいた。そして、今日のおやつ「ぬれ甘納豆」を将軍様たちは一粒ずつ爪楊枝に刺して食べている。

「まあ、慶喜君も座って、お茶を出すわ。」

「お茶ですか?」

「ええ、静岡、狭山、宇治、伊勢、嬉野各種あるわよ。」

「薩摩のものはありますか?」

「あるわよ。ちょっと待ってね。」

 ムーンは給湯器(レプリケーター)の前に行って声をかける。

「薩摩茶!」

 ーソノナマエノ オチャハ アリマセンー

「ないって言ってるよ。薩摩のお茶」

 ーサツマノオチャノ シュルイヲ ニュウリョクシテクダサイー

「緑茶よ。温かいやつ」

ーチャバノ サンチヲ ニュウリョクシテクダサイー

「茶葉の産地ってわかんないわよ。」

 ーワカンナイトイウ チメイハ トウロクサレテマセン ー


「どうしたのかな。ムーンさんよ。」

「御老公は薩摩のお茶の産地って知ってる?」

「そんなのしらんよ。」

 ーチランデスネ シバラクオマチクダサイ ー

 給湯器(レプリケーター)には、温かい淹れたての知覧茶が湯気を立てていた。


「それで、あなたたちは何者ですか?」

 慶喜はムーンからお茶を受け取りながら訊ねた。

「待て、待つんじゃ。」

「それは、禁句だ。」

「お爺様たち、お約束ですよ。」

 

「久々ね、やるわよ!」


「愛と正義の美少女ど〇きつね戦士 どんムーン。月に代わって……。」

「愛と知の美少女ど〇きつね戦士!どんマーキュリー、水星に代わって……。」

「愛と情熱の美少女ど〇きつね戦士!どんマーズ、火星に代わって……。」

「愛と勇気の美少女ど〇ぎつね戦士!どんジュピター、木星に代わって……。」

 いつものように食い気味に次々に名乗りを上げると、急に隣の部屋から、

「待たせたわね。愛と美の美少女ど〇ぎつね戦士!どんヴィーナス、金星に代わって……。」


「あーあっ」

「まあ、見た目は美少女なんだけどな。」

「わしらより歳はとっとるがのう。」

「一体いくつなんじゃろう。」

「お爺様たち、お約束ですよ。」


「ねえ、ムーンいい加減やめようよ。」

「さすがに家基の前じゃ恥ずかしいな。」

「あっ、源内さん見てた?」

「おやつ静君に持っていかなきゃ。」


「という訳で、慶喜さん。まあ座ってお茶をどうぞ。」

 慶喜は空いている席に座ると、ムーンから渡されたお茶を飲んだ。んー味も薫りも継祖母が入れてくれたものと同じだ。慶喜の父、水戸斉昭は兄斉脩の後を継ぐとき、その妻であった家斉の七女峰姫を養母として大切に扱った。そして峰姫は、あの島津重豪の娘である広大院が育てた娘、つまり、薩摩の味であった。


 慶喜は、そのお茶を一口飲むたびに自分の体に何かが流れ込んでくるのがわかった。

ビックベン……、ロンドン塔……、参議院……、大江戸大学……。


「どうやら、同期出来たみたいね。」 


ど〇きつねはごきょうくんシリーズ第2章以下の共通キャラです。詳しくは前作までをご確認ください。

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