親子丼
目の前に温かな親子丼が運ばれてきて、頭の中で駆け巡るニワトリ達の妄想を振り払った。
今日の夕食は妻の手作り親子丼だった――。
親子丼とはいえ、卵と鶏肉は別々の場所で生産されている。親子丼という名が……「実は他人丼」であったり、「実の親子丼」であれば、私はこんなにも親子丼が好きではなかったことだろう。
「ほほう、美味しそうだ」
ところがテーブルの上、私以外には違う丼物が置かれている。
「わたし達は海鮮丼にしたのよ」
赤く光り輝くイクラと、美しいピンク色をしたサーモンがタップリ乗った「海鮮親子丼」が妻と息子の前に置かれる。
「うお、うまそー」
……チクショウ……。そっちはそっちで旨そうだ――。
「いただきます!」
息子が丼を口に持って行き、流し込むようにイクラとサーモンを食べる。
ニワトリと卵の話をどこまで真剣に聞いていたのだろうか……。
やれやれ、せっかく熱弁してやったというのに……。
仕方なく親子丼を食べようとしたときだった。
「お父さん。じゃあ、「イクラ」と「鮭」ってどっちが先に生まれたの?」
――イクラと鮭だと――?
箸が止まった……。
おしまいです!!
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