二章12『救援要請』※挿絵有
毎回の旅費や宿の料金は安くしたいのでウチ等はいつも一部屋しか借りない。エムジからは不評だが、節約のためにはしょうがない。ディルド? それはウチに必要なものなので買いました。カスみたいな値段の安物なので許してや。
風呂から帰ったウチは、出来るだけソーっと泊まってる部屋に近づき、一気に扉を開ける。
「うひゃあ!?」
アルビがビクっとして吹っ飛ぶ。エムジもはっとした表情で(表情見えないがたぶん)こっちを見る。え、何この状況?
「もしかして、いたしていた?」
「そそそそんな訳ないじゃないか!!」
顔を真っ赤にして否定するアルビ。あれあれー?
「ウチは「いたしていた」と聞いただけだけど…何を想像したのだい、アルビさんや?」
「…!!!」
真っ赤になってジタバタするアルビ。かわいい。
『普通に話してた時にいきなり扉開けられりゃ、誰だって驚くだろうが』
エムジが飽きれたように突っ込みを入れてくる。…エムジに突っ込まれる、入れられるという字面めっちゃ良いな。
「アルビもお年頃やのー」
「うるさい!! 帰ってくるなり何なんだよ一体!!」
「ちなみにエムジさん、ウチが想像するアルビの姿はこんな感じです」
ウチは部屋の中央に、思念魔力によるイメージを出現させる。実際にそこには何もないが、何かある様に二人の脳には映し出される。
出現させたイメージはもちろん五体満足の全裸のアルビです。はい。
「…!!!!!」
アルビからボコボコ攻撃される。足の先端は結構とがっており、割と真剣に痛い。
「ていうかシーエはエムジが好きじゃなかったの!? 何でボクをそんなからかうのさ!」
「アルビが可愛いから」
「理由になってないからね!? その、エムジをボクにとられるとか、いやいや! ボクは全くそんな事考えて無いけど!! 仮に! 仮にそんな事になったらどうするつもりなの!!」
「3Pかな」
「死んでしまえ!!」
またアルビに攻撃される。やめて痛い痛い。
あれ、そう言えばさっきからエムジが話してないが…。と思いエムジの方を向くとウチから距離を取っていた。何でや。
『いやもう、ドン引きですわ。貞操観念めちゃくちゃじゃねぇか』
「ウチの貞操観がまともだと思った?」
『何で俺こんなのと組んで仕事してるの…』
がっくりと落ち込むエムジ。何故か勝ち誇るウチ。ウチを攻撃するアルビ。
ウチ等の泊まる部屋は混沌と化していた。
* * *
翌日。救援要請のあった戦地へと向かったウチ等。
救援自体が来ていたのは昨日なので、今は戦闘は落ち着いているとの事。今回は付近に在中していた軍人と、たまたま近くにいた傭兵で大体の敵は制圧出来たらしい。
ただ、まだ敵を全員倒しきれているかはわからないので、ウチ等は周囲の索敵を依頼された。
グーバニアンは相変わらずの狂兵士っぷりを発揮しているので、ウチ等の姿を見たら襲い掛かってくるはずだが…どこかに隠れているとか、逃げるとかそういった事はないだろう。
この索敵にどれほどの意味があるかは不明だが、一応報酬は少量ながら支給されるとの事。役に立ってないのに報酬貰うのは気が引けるので、報酬はグーバニアンに遭遇した時のみという事でその場で契約した。まだまだ貯蓄はあるしね。軍のお金は国民を守る事に有効活用してもらいたい。もし戦闘になったらちゃんともらうが。
という事でウチとエムジは手分けして、周囲の民家を中心に索敵を開始した。
敵がもしいるとして、ウチ等に襲い掛かってこない場合、している事と言えば恐らく地元住民の殺害だろう。
乱暴に破られた気配のある扉を中心に、中に入って敵の所在を確認する。
案の定、そういった家の中は凄惨な有様だった。人の死体、死体、死体だらけだ。たまにグーバニアンの死体も見つけた。
(服を着ている…)
当たり前だがグーバニアンが全員全裸な訳ない。そんな国ならウチ的には天国だが。
体をクリーチャーレベルまで改造したヤツはもはや羞恥心がどっかに行ってしまったのか全裸が多いが、部分的に改造してるタイプのグーバニアン、つまり人の原型を結構保っているタイプは服を着ている。
ウチが施設周辺で戦ったグーバニアンも服を着ていたと日記に書いている。
マキナヴィス人も、体を全て機械に改造した人物は服を着ない。ズンコやエムジがそれだ。恐らくそれと同じような心境なのだろう。
話を戻して。そもそも今回の救援要請は、いつものごとくいきなり市街地に出現したグーバニアンに民間人が殺されて発生したものである。また飛行型のグーバニアンが運んできたのだろう。それらのグーバニアンは先日の時点でほぼ駆除されたはずだ。
服を着ているタイプのグーバニアンは言い換えれば全身を改造してはいない。なので戦力的には全身改造型よりも劣るという訳だ。もちろん魔術の使い方や魔力そのもの強力さは肉体に比例しないので、厄介なのがいるのも事実だが。
(無頭の女性の姉の方は、大して肉体改造してなかったからな)
頭が無いから見た目は異様だが、体だけなら単なる筋肉強化型で、常人よりも筋肉はあるものの特別なパーツが増えたりはしてなかった。彼女は単に体の動かし方、魔力の使い方がとてもうまかったのだろう。早い話実戦経験が豊富だったのだ。
ウチとエムジは救援を出した在中軍人と思念で通信しつつ、調べた家をチェックして行く。壊れた家を全てチェック出来れば、もう残りのグーバニアンはいないだろう。先日の時点で駆除しきれていた訳だ。
そんな風に思いながら、別の家に入ったところで…
(…いる!)
索敵時はとにかく見つけることを重視した魔術使用をするので、稼働魔力によるセンサーを最大限広げながら動いている。そのセンサーに、動く人の形が引っ掛かる。
両手が大きく肥大化している人物だ。センサーの方向をその人物に集中することでその人物の詳細な立体構造を把握、その結果、腕は機械ではなくどうも有機的な形をしている事がわかる。
(グーバニアン!)
ウチは武器を構え、近づく。壁一枚挟んだ先に、恐らく敵と思われる人物がいる。同時に、地面に倒れている人型の物体も感知した。たぶん殺されたこの家の住人だろう。
相手もセンサーでウチに気が付いたのか、警戒態勢をとる。しまった。気が付かれない内に突撃するべきだったか。
なお現在のウチの姿は、先日風呂に入った状態に似て、普通の二足歩行状態だ。四脚状態では民家に入れないので、パーツは集合地点に置いてきた。右手に装備する刀だけは持っているが。狭い空間での戦闘ならこの姿の方が立ち回りしやすい。
(部屋の中の近接戦闘なら、恐らく負けることは無い)
相手は服を着ている。筋肉量も腕以外はそれほどでもない。が、万が一もある。無頭の女性クラスの魔術使いだったら不味い。もしウチが負けたり取り逃がしたりしたら更なる被害が出る。
ウチはエムジと在中軍人へ思念を送る準備をして、壊された扉の裏の壁に立つ。
(もし有機的な外見の機械を装備しただけの、ただのマキニトだったら、誤報になるからな…)
避難し遅れて、襲ってきたグーバニアンをたまたま返討ちにした的なシチュエーションで。
なので目視で確認し、敵と断定してから救援通信を送る事にする。とりあえず『何かいそう』とだけ軽く思念で通信を送り、エムジ達には警戒だけしておいてもらう。『敵だった場合は救援ヨロシク』と。
ウチは扉をくぐると同時に、その人物に切りかかる。もしこの家の住人だったなら、刀の軌道を変えればいいだけだ。
だが。
ガキンッ!!
刀が敵の爪に防がれる。そこにいたのは、全身真っ白な、純白のグーバニアンだった。…これは、骨か? 頭と両腕から骨が結晶化したようなピンク色の物体が生えている。特に腕の骨の本数はすさまじく、殺傷力も高そうだ。
その姿は、物語に出てくる鬼を連想させた。
(エムジ達に通信を!)
一旦距離を取り、通信をしよう。
そう思った矢先、その純白のグーバニアンが。
「詩絵美…さん?」
驚いた顔をしながら、聞き覚えの、とても、聞き覚えのある、ウチの、本名を、呼んだ。