第1話 クラスメイトの美少女
小鬼族の姿を肉眼視可能の者は、小鬼族により死滅されてしまう。
それが契約者ならば別の話だ。
望月清彦は、小鬼を肉眼視したときに、他人の仲睦まじき関係を突如不仲にし、決裂させる魔法ぽい術をかけた現場を一部始終確認したのだった。
普通ならば即死滅処分だが、作業現場を見られたからには、もう遅かった。
「小僧、よくもアタイの鬼制術を見たな!! 見た者は死あるのみ!! だが、現場まで見られたからには、時限精神融合手続きをせねばならなくなった。この始末どうしてくれる!!」
「しっかし……よく喋る子豚だなぁ。時限なんたら……って手続きは、一部始終見ちまったから、やんないとマズイんだろ。しゃあねえなぁ」
「小鬼だ!! 名前もある。インピーアだ!! 子豚などと抜かしおってからに……」
普通ならば、清彦はもう既に命を失っていた頃だ。だが、インピーアと不思議な出会いをしたのだ。こればかりは、命が奪われるよりもめんどくさいやり取りだと感じた17歳の少年だった。
「小僧よよく聞くのだ。これからはじめるのはな、小僧の肉体が活動休止中にアタイがその身を小僧の意志とは関係なしに操る手続きだ。心せよ」
インピーアは、突然に少年の右肩の上に飛び乗った。
体長4、50センチ、烏の二本脚を持つ鳥類とは異なり、ハムスター系の愛くるしい存在だ。
人語を話すので、怪物以外には考えにくい生き物だと悟った清彦。
「人の眠っている隙に、体を乗っとるのかよ!! ふざけんな!!」
「もう肩に乗った後に、文句言われてもなぁ……」
「手続き完了って、まさか、肩に乗ることだったのか? おちょくりやがってエエエ」
「小鬼可視能力者は、即座殺害だがな、小鬼の行動状況まで見られたのだ。辛抱するのも諦めるのも学習よ!!」
「いちいち大げさな……俺の寝てる間に俺の体が遺体になったらどうするんだよ」
「それには及ばない。何せ、手続きとは契約そのものだからな。契約とは命の駆け引きなのだから……つまり、自殺だろうと、事故死、病死すらも、小鬼の力で制御可能なのだ」
「……」
マジか? の意表を突かれた表情の清彦は、敬遠した。
「あんた、これから俺のすることに怒るんじゃねえぞ!! 良いな!!」
高校生一人と、怪物一匹のいる歩道橋の上。清彦は、人気を気にせずに、歩道橋の柵を飛び越えて流れてくる車両の中に巻き込まれた。
車体に撥ねられ重症になるはずだった。
だが、歩道橋の橋桁辺りで停止しだしたのだった。
清彦の体は、ゆっくりと歩道に下ろされて無事にいたった。警察まで連行され、通行妨害の事情等、学校や父兄にも散々と迷惑をかけることになった。
だいぶ落ち着いてきた数日後、清彦は学校に通い出した。それは良いのだけれど、交通妨害の少年Aだと囃されて、話題になっていったのはいうまでもない。
相変わらずもインピーアは、少年の右肩の上に乗り出して、一向も離れようとしなかったのだ。
(この肩乗りの怪鳥、マジウザい……)
「そんなこと言える立場か? 清彦殿」
(人の心の中まで介入すんなよな)
そんなときだった。
学級一の美少女である皐月奈保美と廊下ですれ違った。
彼女と同級生になった初日から、全く一度たりとも口を聞いてなかったという。
「望月くん、おはよう!!」
クスクスとはいかないが、その彼女の笑顔が可愛らしかった。
一度も口を聞いてなかった相手からのあいさつだった。緊張してか、だんまり状態の清彦。
「おは……よ、う……ささ、さっ……つ、き、さん」
壊れたロボットの発声を思わすあいさつだったが、奈保美の耳元に、なんとか届いた。
「そんなに、上がらなくても、クラスメイトなんだから普通に平気よ!!」
普通のレベルではないのが、清彦以外でも言えよう。それほどの学級一の美少女だからか、緊張することなんて当然のレベルなのだ。
(……ふ、普通じゃないよ、ナオミさんっ。あいさつだけでも手に汗ものだぜ)
「あほくさい……そんなんで、無駄なエネルギーを消費してさぁ」
(インピーアなんかに俺の恋心なんか、判っかんねえよ!!)
「ふーん」
(まさか!? インピーア、おまえ、鬼制術で仲を引き裂こうと企んでないよな!!)
「契約者に直ではかけられませんの。だから安心ですわよ」
(怪鳥のくせに、一丁前に雌語話やがってよ)
「怪鳥言うな!! あほめ!!」
(うぬぅぅ~!!)
端から見れば一人パントマイムの様子。その光景の彼をうっとりと見つめ出す奈保美。
入学時に、一度も話さなかったのは、なにも 男子サイドだけではなかった。奈保美自身も清彦には多少、敬遠状態で距離をおいて保っていたからだった。
奈保美だって、思春期の最中の時期なのだから、恋の一つや二つくらい確かにあるのだ。
よりによって、こんな半不良生徒らしき男子生徒が意中の相手だって知れたら、学園中の一面記事レベルの騒ぎになっていることだろう。
復帰初日の昼休み。
清彦は、いつもの人気無いペデストリアンフロアでランチを摂っていた。
ペデストリアンフロアには、自殺者をだした謂れがあって誰も立ち寄らないことで、ランチには持ってこいのエリアだった。
そんな場所だというのに、もう一人の影が清彦に接近しだしたのだ。
「隣、空いてますか?」
清彦は、いつもの砕けた口調で対応した。
「こんなにだだっ広いんだから、もっと眺めの良い場所で、昼飯食いなよ。……!? あ、い、いや、そういうつもりで言ったんじゃないから……ええっと」
途中で口調を改めた清彦。現れたその影は、朝あいさつしてきた奈保美だった。
「(クスッ)おかしな人、望月クンって……」
黙々と昼食を摂る二人は、何の会話もなしに休み時間を送らせていた。
突然に、奈保美は少年の背後に立った。
「肩、叩いても良いかしら?」
こんな言葉を言う自体あり得ないことなのに、奈保美は、清彦の右肩には触れないで何かを一生懸命にしようと必死になって行っていた。
「う~ん!! う~ん!!」
必死にもがく奈保美。
右肩の上のインピーアが肩から引き離されてしまった。
「ウキャー!! 痛ったーい!! 何すんの、この馬鹿力の女ぁ!!」
「いい加減に離れたわね。使い魔のくせに、この腰巾着!!」
「えっ!? いま、なんて言ったの、皐月さん? まさか、キミは小鬼が視えるとか?」
「いまのコヤツには、人語は通用せぬ。恐らくは、美容に美容を重ねて、人界のヒトでありながらも小鬼界に近づこうと力を持った整形悪魔に過ぎない。もはや、ヒトを通り越した醜態の怪物そのものよ」
「さあ、望月クン!! わたしのエサになってくれないかしら? その肉体、美味しそうだわぁ!!」
その美少女の仮面が、見事に剥がされて、醜貌をさらした怪物化のソイツは、清彦に攻めてきた。
「うわああああ!! たす……助けてくれっ!!」
まさに情けない。これが一介の高校生男子なのかと疑うくらいに。それもそのはず。ビクついては逃げ腰に絶叫。後で気を失う始末。若い男子にあるまじき光景だ。
そんな気絶状態の清彦に隙ができた。意志が全くない人体ならば、契約者の体内を操れるインピーア。これこそが、千載一遇のチャンスなのだった。
インピーアに目もくれず好きな男子をエサとして飛び付く整形悪魔。
彼の体内に時限精神融合しだした、インピーア。人体を駆れば、多少は戦闘能力が増すもの。清彦の体を利用して、整形悪魔の懐に取り付いた。
「ごめんなさいね、悪魔さん。……インフェルノチャージ!!」
セーラー服ごとその火炎幕の包は、奈保美自身……その胴体を貫いた。
「ぎゃああああ!! 望月クン……好きだったわあああっ!!」
燃え粕もなく消え去った。セーラー服の散り散りになった切れ端が、風に流されただけだった。
放課後。
清彦は、帰宅部だからか帰宅するのが当たり前になっていた。
「望月クン、一緒に帰ろ!!」
右肩を叩いて言うのは、二つも離れた教室の1-Eの女子で、沢霧リノだった。
「おう!! リノ、久しいな!! なんか、俺ンとこのクラス、一つの空き席が何となく殺風景なんだが、なんか、寂しく感じてさあ、一体何だろうなぁ……」
「空き席ってあったっけ? 1-Cって……なんか、盛り上がっていた感覚はあったけど、何だろうねぇ」
インピーアは、リノにも刺々しく突っかかった。
「右肩になにも叩かなくったって良いだろ!! ま、ここの二人が引っ掛かっているのは、アノ消滅した整形悪魔の存在だけどねぇ……」
(なんか言ったか? インピーア)
「いいや、なにもないわよ」
(まぁた、雌語かよ)
「いつかぶっ殺す!!」
(やれるもんなら、やってみろ!!)
グサリ!! インピーアの矢鎖が突き刺さった。
「痛っっってェェ!!」
「なに踊ってるの? 望月クン」
「なっ、なな、なんでも無いッス……」
知らない者が見たら、仲睦まじく帰宅するに思わせるであろう、そんな高校生たちだった。
了




