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爆音戦隊スマイルダンサー ~フリルがなければ即死する系ヒーロー~  作者: 山田りく


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第4話「静寂の皇帝、その影」

1


それは、あまりにも静かで、あまりにも哀しい夢だった。

光すら凍りついたかのような無彩色の「静寂」だけが支配する空間。その中心に、一人の少女が座っていた。


豪奢なドレスを身にまとった彼女は、何かを訴えかけるように、そっと唇を動かしている。しかし、彼女の口から言葉が紡がれることはない。少女はただ、音のない世界で、ぽろぽろと大粒の涙を流していた──。


━━━━━━


「──はっ!」


烈火は跳ね起きるように目を覚ました。

バキバキの胸板が激しく上下している。


そこはいつも通りの地下秘密基地『ダンス・スタジオ』。結衣のミシンが刻むカタカタという規則正しい音が、妙に愛おしく心地良い。


「どうしたの、烈火。珍しくうなされてたみたいだけど」

朝食のサンドイッチを口に運びながら、怜がノートPCから目を上げる。


「いや……なんでもねえ。ちょっと、な」

烈火は自分の胸元に手を当てた。夢の中で見たあの少女の姿が、そして彼女の「声なき叫び」が、なぜか彼の熱い魂の奥底に刺さったままだった。


その時、メインモニターの警告灯が明滅し、博士の緊迫した声が響く。

『大規模な音響中和サイレントを確認!対象エリア……いや、地球の全通信網が急速に沈黙しておる!』


モニターに映し出されたのは、日本、そして世界中の主要都市が、上空から降り注ぐ「漆黒の帳」によって次々と無音の闇に飲み込まれていた。


「これまでの怪人とは桁が違う……。本隊の、それも最高幹部クラスが直々に動き出したか」

怜の顔から血の気が引いていく。


「行くぞ、みんな」

烈火は夢の余韻を振り払うように、一対のマラカスを強く握りしめると口元に笑みの形を作った。

しかし、その瞳には、かつてないほどの真剣な炎が宿っている。


2


地上は、言葉を失った人々の絶望で満ちていた。


車のエンジン音も、踏切の警報機も、風の音すらも完全に消滅した世界。


その沈黙の街の中心に、漆黒の玉座が浮かんでおり一人の男が鎮座していた。悪の帝国の絶対頂点にして、すべての静寂の支配者──皇帝・サイレント


「不快なノイズに満ちた世界よ、眠るがいい。我が静寂こそが、この宇宙の至高の秩序である」


「ハハ……ハハハハ! 勝手に世界を寝かしつけてんじゃねえよ、皇帝さんよぉ!」


静寂の闇を切り裂いて深紅の光が爆発し、結衣が縫い上げた最新のフリルが、戦場の無風の空間で静かに波打っていた。


スマイルレッド、ブルー、ピンク、グリーン。

4人の戦士が、それぞれの武器を携えて一列に並ぶ。


「ほう。我が無音の結界の中で、未だに息を吸う雑音ノイズがいるとはな」


皇帝サイレントは、立ち上がる気にすらならぬと言わんばかりに、涼しい顔でヒーローたちを見下ろす。


「お前たちが世界から音を消すなら、俺たちは命を懸けて爆音を響かせる! !」

レッドの叫びと共に、4人は一斉に大地を蹴る!


「……ぬるい」

ブルーのタンバリンによる中和音波も、グリーンのガトリングの重掃射も、ピンクのミシンランチャーから放たれる光の糸も──皇帝が指をパチンと鳴らすだけで、触れることすらできずに空間の彼方へと霧散サイレントしていく。


「バカな……! 私たちの波形が、一切噛み合わない!?攻撃が届く前に、すべてのエネルギーを『ゼロ』にされている!」

ブルーが驚愕の声を上げる。


「ならば、これでどうだぁぁぁッ!!サンバステップ最高出力だ!!!」


チタン繊維のフリルが激しく火花を散らし、烈火の筋肉が悲鳴を上げる。放たれた特大のスマイル衝撃波。


だが、皇帝サイレントは、その衝撃波の直撃を片手だけで、顔色一つ変えずに受け止めた。


「フン……不快な羽音だ」


皇帝の手のひらから放たれた反転無音波が、レッドの衝撃波をそのまま倍以上の威力で押し返す。


ドゴォォォォンッ!!!!!


「がはっ……ぁぁぁッ!?」


衝撃を拡散させるはずのフリルが、内側からの熱量に耐えかねて一瞬で半分以上も弾け飛び、レッドは地面を何十メートルも転がり、激しく吐血する。


「レッド!!」

ピンクが駆け寄ろうとするが、皇帝の放つ無音の圧力が4人の身体を地面へと縫い付ける。

「レッド……」



3


「終わりだ。この星からすべてのノイズを排除し、完璧な無音の墓場としてやろう」


皇帝サイレントが静かに破滅の手刀を振り上げる。

4人の命も、地球の未来も、すべてが永遠の静寂に沈む。

誰もがそう確信し、目を閉じた、


──……──♪……〜〜……


微かだが、おそろしく透明で、優しい「何か」が、空間を震わせた。

「……何?」

それは、歌声だった。まだ幼さの残る、しかしどこか気高さを感じさせる少女の旋律メロディ


「なぜだ……なぜ、我が静寂の結界の中に、歌が響く……? まさか……」


皇帝サイレントの仮面の奥の瞳が大きく見開かれた。その視線は、地球の戦場ではなく、はるか宇宙の彼方──自らの帝国の最奥へと向けられている。


そう、それは悪の帝国の最深部、静寂の檻の中に囚われているはずの、皇帝の最愛の娘の歌声だった。

なぜ彼女が今、歌っているのか。なぜ、すべての音を憎むはずのサイレントの血を引く彼女が、こんなにも美しい旋律を紡いでいるのか。


──烈火は、マスクの口元から血を流しながら、烈火はニィッと、いつものように、いや、これまでで一番熱い笑みを浮かべた。


「ハハ……ハハハ。そうかよ……そういうことだったんだな、お嬢ちゃん……」

烈火には分かった。彼女は、静寂(孤独)を愛してなどいない。レッドがこれまでの戦いの中で、血を吐きながらも世界中に響かせてきた「生きる喜びのノイズ(ステップ)」が、時空を超えて、彼女の閉ざされた心の扉を、激しく、優しく叩いていたのだ。


「お前……なぜ笑っている」

皇帝サイレントの、冷徹だった声が初めて微かに震える。


「皇帝さんよぉ……。お嬢ちゃんは笑顔が見たくて……歌ってんだよ!!」


「黙れッ! 妄言を……!」

皇帝が激昂し、手を振り下ろす。しかし、娘の歌声が響くこの空間では、彼の「絶対無音」の力は、確実に狂い始めていた。歌声の旋律が、レッドの泥まみれのフリルの残骸と共鳴し、微かな、しかし消えない黄金の光を放ち始める。


「みんな、一歩も退くなよ!新世界えがおの扉の鍵は……あの歌声の中に、確かにあるぜ!」

レッドはボロボロの身体を震わせながら、再び一対のマラカスを強く握りしめた。皇帝の背後に渦巻く、巨大な静寂の影。そして、それを撃ち破るかもしれない、宇宙の彼方からの小さな歌声。二つの相反する波形が激突する、真の戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。


4


「これ以上の交戦は不可能だ! 撤退しろ!!」


地下基地のモニター越しに、博士ドクターの悲痛な叫びが響く。皇帝サイレントの圧倒的な質量兵器「無音の軍勢サイレント・ソルジャー」が、街を、空を、地平線を漆黒の静寂で埋め尽くしながら進軍してくる。


「ハハ……ハハハ! 逃げるかよ、みんなが、あの嬢ちゃんが歌ってんだ……俺のステップは……っ」

烈火は血反吐を吐き、千切れかけた腕でマラカスを掲げようとする。しかし、フリルという(装甲)を失った彼の筋肉は、自身の衝撃波と皇帝の圧力の前に、すでにボロボロと自壊を始めていた。


「レッド、そこまでだーーーッ!!!」

ブルーの絶叫とともに、メンバーたちが弾丸のように飛び出した。これ以上の戦闘は「笑顔」ではなく「犬死に」を意味する。


ブルー、グリーン、ピンクが、烈火の巨体に決死のタックルを敢行した。


「離せ! 離してくれみんな! まだ……まだ俺のステップは終わっちゃいない!!」


暴れるレッドの凄まじい筋力に、3人は死に物狂いでしがみつく。皇帝の放つ無音の風圧がメンバーの戦闘服をも激しく打ち付け、フリルが次々と引き裂かれていく。しかし、その手は絶対に離さない。


ブルーが泥をすすりながらレッドの右腕を組み伏せる。

「バカ野郎! お前がここで死んだら、誰が明日の世界を笑顔にするんだ! 新世界の扉はまだ開いていないのだろ?一旦退却するぞ……ッ!!」


ピンクは、涙で視界を滲ませながら、レッドのマスクの口元を抑えるながら叫ぶ

「そうよ! あなたのその笑顔を、ここでサイレントに奪わせるわけにはいかない! お願いだから、今は私たちの言うことを聞いて!!」


グリーンが、背後から迫るサイレントの追撃を、ボロボロのウクレレガトリングで必死に防ぎながら、

「ここは俺が食い止める! 早く……早くその熱血バカを連れて逃げろッ!!!」


仲間たちの命を賭した叫び、そして「新世界の扉」という言葉が、激昂するレッドの脳裏に突き刺さる。自分の命は、自分だけのものではない。この仲間たちと共に、あの歌声の(お嬢ちゃん)に本当の笑顔を届けるためにあるのだと、彼の筋肉が、魂が理解した。マスクの口元から漏れるのは、血と、そして悔しさの涙。それでも、彼は微笑むことをやめない。


「……あぁ。分かった。みんな、すまない……! 一度引くぞ!」

レッドは最後の力を振り絞り、自傷覚悟でマラカスを地面に叩きつけた! 最大級の目くらまし衝撃波が戦場を包み込み、その隙にメンバーたちは満身創痍のレッドを抱え、悪の帝国の包囲網から命からがら脱出するのだった。


5


地下秘密基地に、かつてない重苦しい沈黙が流れていた。

中央の簡易ベッドには、両腕を包帯でぐるぐる巻きにされ、意識を失った烈火が横たわっている。

彼の戦闘服のフリルは完全に全壊し、焼け焦げた布の切れ端が床に転がっていた。


「……ダメだ、あのバカの身体はもう限界を超えている」

地下秘密基地のモニターを見つめ、白衣の頭をかきむしる男がいた。


彼こそが、戦隊のすべての装備を開発した「博士ドクター」である。


いつもはクールにメカをいじっている博士だが、今回ばかりは天才の脳細胞も焼き切れんばかりに悩んでいた。


熱血筋肉レッドの「自傷マラカス」と、それを防ぐためにピンクが夜な夜な縫っていた「フリル」の真実を知る博士。


フリルが崩壊し、仲間たちが命がけでレッドを連れ帰ってきた今、博士の前に「究極の選択肢」が突きつけられていた。


「レッドをこれ以上傷つけさせないために、周りをガチガチにするか? ブルーたちのスーツを大改造し、チーム全体でダメージを分散・無効化する『超・衝撃吸収フリルフィールド』を開発するべきか……」

博士は、ベッドの上の烈火を見る。意識を失ってなお、そのマスクの口元は、世界を安心させるための笑顔の形を維持しようと微かに震えている。


「いや……あのバカは止めても止まらん。なら、わしの最高傑作で応えるまでよ」

博士は密かに研究していた、宇宙最高の超振動吸収繊維「ルンバ・メタル」の設計図を閉じた。


引き出しの奥から、一枚の「黒い布地」を取り出す。

「……よし、わしも行くか(カチャッ)」

悩んだ末、博士は白衣を脱ぎ捨てた。


そこには、日夜のデスクワークでなまりきった……と思いきや、レッドに負けず劣らずバキバキに鍛え上げられた博士の広背筋があった。


「若者にばかり命を賭けさせて、何が天才博士だ。サイレント(静寂)を破るには、もっと太い『低音ベース』が必要だろう……?」

自ら開発した重低音武器を手に、「追加戦士・ドクターブラック」として戦場へ直に赴く覚悟を決める博士。


もちろん、そのゴツい肩には、自家製のシックな黒いフリルがしっかりとあしらわれていた。


(第4話・完)


『爆音戦隊スマイルダンサー』──次回4.5話「静寂の起源(エピソード・ゼロ)

戦え、スマイルダンサー!皇帝の過去編です !!!

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