第3話「ピンクの夜な夜なミシン狂騒曲」
1
ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!
深夜2時。
地下秘密基地『ダンス・スタジオ』の一角に、まるで重機関銃のような爆音が鳴り響いていた。
音の主は、桃園結衣が操る高回転・超振動特殊ミシン『ジューキ・バルカン』である。
「信じられない……信じられないわ……!」
結衣は充血した目で、猛烈な速度でフリルを縫い合わせていた。部屋の隅には、前回の戦闘でズタズタになり、焦げ付いた赤い戦闘服が山のように積まれている。
「なんなのあの男の筋肉は! 普通のポリエステルじゃ烈火の衝撃波に耐えられないから、チタン繊維入りの超高密度レイヤード・クロスを使ったのに! 1回のサンバで消し炭にするなんて、素材への冒涜よ!!」
結衣の横には、エナジードリンクの空き缶がピラミッドのように積まれていた。彼女は、戦隊の衣装担当であると同時に、世界的な繊維工学の天才である。しかし、烈火という「自傷系筋肉ダルマ」のせいで、彼女のプライドと睡眠時間は日々ゴリゴリと削られていた。
「結衣っち、まだやってんの? お肌に悪いよ〜」
夜食のカップ麺を持った瞬が、眠そうに部屋を覗く。
「うるさい! 瞬のテナー音波を逃がすプリーツフリルも、折り目が3ミリずれたらお前のウクレレが暴発するのよ! 黙ってネギでも噛んで寝てなさい!」
「ひぇっ、職人モードの結衣っちマジ鬼……」
瞬が這うように逃げ出した後、結衣は再びミシンに向き合う。
烈火の衝撃波を100%分散し、かつ、彼の激しいステップを邪魔しない、軽くて強靭なフリル──。
「……作ってやるわよ。あのバカが、これ以上血を吐かないで済むような、最高のフリルをね!」
結衣の夜な夜なの戦いは、夜明けまで続くのだった。
2
翌日。市街地にサイレントの新たなる刺客、幹部候補『音喰い・ノイズレス』が出現した。
彼が持つ「吸音球」は、周囲の音を文字通り「食べて」肥大化し、あらゆる衝撃波を無効化する厄介な兵器だった。
「ハハハハ! 待たせたな、無音の食いしん坊さんよ!」
傷が癒えきらないまま、烈火がマラカスを手に立ちはだかる。
「「「「変身!!」」」」
4人は変身し、戦闘が開始される。しかし、結衣の不安は的中した。敵の『音喰い』は、レッドのマラカスの衝撃波を正面からすべて吸収し、さらに巨大化していく。
「フハハハ! 鳴らせ、もっとノイズを響かせろ! それが我が糧となる!」
「お望み通り、特大のアンコールだぜッ!!」
烈火が無理に出力を上げ、最大出力のサンバステップを踏む。しかし、吸収しきれなかった爆音の反動が、ダイレクトにレッドの肉体を襲った。
バリバリバリッ!!!
「ぐわああっ!?」
結衣が寝る間を惜しんで縫い上げた最新のチタンフリルが、レッドの筋肉の熱と衝撃波の前に、またしても悲鳴を上げて千切れ飛んでいく!
「だめ、レッド! 出力を下げて! フリルがもたないわ!」
「ハハ……ハハハ! 下げるかよ! 敵が音を喰うなら、胃袋が破裂するほどの爆音を詰め込んでやるだけだ!!」
血反吐を吐きながら、なおもマラカスを掲げるレッド。
装甲はすでに残り10%を切り、次のシェイクで彼の両腕は限界を迎える。
「あいつ、また一人で無茶苦茶を……!」
ブルーがタンバリンで中和を試みるが、敵の吸音結界に阻まれて届かない。その時、ピンク──結衣の胸の中で、何かがパチンと弾けた。
「……もう、限界よ」
ピンクが立ち上がる。そのマスクの口元は、怒りと、職人としての「覚悟」で美しく歪んでいた。
「私の睡眠時間を奪い、私の可愛いフリルをコケにし、その上、私の目の前で勝手に死にかけようなんて……100年早いのよ、この筋肉ダルマァァァッ!!!」
3
ピンクが叫んだ瞬間、秘密基地の博士から通信が入る。
『結衣! 徹夜で仕込んでおいた“アレ”のロックを解除したぞ! 使え!』
「了解よ、博士! ──私の『縫製』を見せてあげるわ!」
ピンクがブレスを操作すると、天空から一本の巨大な銃身が転送されてきた。
それは、結衣がミシンの技術を応用して開発した、ピンク専用の新型音撃兵器『カスタムミシン・ランチャー』だった!
「烈火! そのバカげた筋肉、1秒だけ私に預けなさい!」
放たれたのは、エネルギー化された超高密度繊維の「光の糸」!
光の糸は、自傷ダメージで崩壊しかけていたレッドの全身の筋肉に、凄まじい速度で絡みついていく。
「な、何だこれ……!? 体の芯から、リズムが湧き出てきやがる……!」
「驚くのはまだ早いわよ! 瞬、怜、合わせて!」
ブルーの低音とグリーンの軽快な中音が、ピンクのミシンランチャーの超高周波の駆動音とシンクロする。
ピンクはランチャーのレバーを猛烈に引き、戦場で直接「戦闘服の再縫製」を開始したのだ!
光の糸が編み込まれ、レッドの全身に、これまでとは比較にならないほど巨大で、立体的な、幾重にも重なる『極限吸収・ローリングフリル』が爆誕していく!
「これは……世界中のあらゆる振動をいなす、私の最高傑作の|ドレス(装甲)よ! 烈火、思い切り踊りなさい!!」
4
「うおおおぉぉぉ!!! 身体が軽い! 痛みが……全くねえ!!」
真の無敵と化したレッドが、大爆笑しながら跳躍する。
「おのれ、ノイズのドレスなど、一瞬で喰い尽くしてくれるわ!」
『音喰い』が口を大きく開け、世界中の音を吸い込もうとする。
「喰えるもんなら、喰ってみやがれぇぇぇ! 一撃必殺・スマイル・テイラーズ・シンフォニー!!!」
レッドが、仲間たちの伴奏に合わせ、マラカスを過去最大のスピードでシェイクする!放たれた爆音の津波は、ピンクの新世代フリルによって100%前方にのみ指向され、敵へと収束していく。
「ごふっ……バ、バカな……! 音が多すぎる、消化しきれ……ぎゃあああああッ!!!」
あまりの爆音と笑顔のエネルギーに、吸音球が限界を超えて大爆破。『音喰い・ノイズレス』は、文字通り「お腹いっぱい」になって木っ端微塵に浄化された。
──────
夕暮れの『ダンス・スタジオ』
「ふぅ……。これで、しばらくはフリルの心配は要らないわね」
結衣は、満足げに特製ハーブティーを飲んでいた。しかし、その目の前で。
「いや〜、今回のフリル最高だったぜ結衣! ほら、背筋をこう、バキッと膨らませた時の伸縮性がさ!」
烈火が、またしても上半身裸になり、自慢の広背筋を誇示するために無理なポーズを取っていた。
プチッ、ブチブチブチッ
結衣の目の前で、数時間前に縫い上げたばかりの超高密度フリルが、烈火の筋肉の膨張によって物理的に引きちぎれていく。
「あ……」
烈火が動きを止める。
ブルーとグリーンは、静かに目を逸らして部屋の隅へ退避した。
「……烈、火……?」
結衣のティーカップが、床に落ちて粉々に割れる。
彼女の背後から、サイレントの怪人をも凌ぐ、恐るべき暗黒のたてオーラが立ち上っていた。
「ハハ……ハハハ、結衣、これはその、筋肉が嬉しがって……」
「今すぐそこへ直れぇぇぇ! そのバカな筋肉ごと、ミシンで縫い合わせてあげるわぁぁぁッ!!!」
「ぎゃあああああッ! ブルー! 助けてくれブルー!!」
「無理だレッド。自業自得という言葉を辞書で調べておくんだな」
秘密基地に、敵の襲撃時よりも賑やかな「爆音」が響き渡る。
スマイルダンサーたちの絆は、こうして一歩ずつ(主にピンクの犠牲のもとに)深まっていくのだった。
しかし、基地のモニターの奥。
迫り来るサイレントの本隊のデータを見つめながら、白衣を脱ぎ、黒いフリルを手に取る博士の目は、静かに笑っていた。
「……そろそろ、わしの重低音も出番のようだな」
(第3話・完)
『爆音戦隊スマイルダンサー』
──次回は間話、第3.5話「勝率とあん巻き」
怜と瞬の静かな夜の回です。
戦え、スマイルダンサー! 明日の睡眠時間は自分たちの手で勝ち取れッ!!!




